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社説

藤井四段快進撃 人間の可能性を見たい

 十四歳の快進撃が続く。将棋の藤井聡太四段がデビュー後の公式戦連勝記録を十九に伸ばし、竜王戦の決勝トーナメント進出を決めた。人工知能(AI)に翻弄(ほんろう)されてきた将棋界に新風が吹く。

 中学二年だった昨年十月、史上最年少でプロ棋士となった藤井四段の勢いが目覚ましい。

 やはり中学時代にプロ入りし、現在、棋界の頂点に君臨する羽生善治三冠、渡辺明竜王でも、デビュー後の連勝はともに六で止まった。これまでの記録だった松本佳介六段、近藤正和六段の十連勝も軽々と突破した。注目と期待が大きくなるのも当然だろう。

 名古屋大教育学部付属中に在学中の藤井四段は、愛知県瀬戸市で生まれ育った。小学四年で名古屋市の杉本昌隆七段に入門。東海地方の将棋界に大きな足跡を残した板谷四郎九段、進九段の親子(ともに故人)の直系の弟子ということになる。

 進撃続く藤井将棋の特徴は、手厚く指し、安定感のある終盤力にあるといわれるが、師匠の杉本七段は『中日スポーツ』紙に寄せたコラムで「いい意味で荒々しく、野球に例えれば、本来は一六〇キロ超えをビシビシ投げ込む超剛速球投手」と指摘している。これからどんな棋譜が生まれるのか。

 天才ひしめく将棋界で近年、旋風を巻き起こしてきたのは、皮肉なことに日進月歩のAIだった。今年はついに、タイトル保持者の佐藤天彦名人まで二番勝負の第二期電王戦ではコンピューターソフトに連敗を喫した。

 第三者委員会の調査で疑いは晴れたが、日本将棋連盟を揺るがす騒動となったソフト不正使用疑惑も、その背景にあるのは、底知れぬAIの実力向上であろう。

 第一人者の羽生三冠は、本紙のインタビューで「人間が将棋を指す意味は何なのかということを、棋士は今、問われている」と述べた。そこまでAIに攻め込まれている、ということである。

 一方、棋譜のデータベース化やネット対局など、将棋を勉強する環境も劇的に向上。「高速道路論」といわれるほど、強くなるための道が整備されてきた。

 将棋界や囲碁界は、人間とAIがぶつかりあう最前線であり、将来、人間社会で想定される事態を先取りしていると見ることもできる。AIと一線を画す人間の力とは何か。“高速道路世代”の藤井四段らが棋界に新風を吹き込み、AI時代の人間の可能性を示してくれることを期待しよう。

 

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