こんにちは、かんどーです。
24日、25日とフィリピンのテロ報道がありました。ミンダナオ島、マラウィ市という場所です。アフリカのマラウイ共和国と間違われやすいですが、マラウィはフィリピンの市の名前です。
情けないことに、わたしはこのテロ事件を、タイの知人からメールをもらって初めて知りました。先週から危険な兆候は出ていたのに。
わたしは今、フィリピンのセブ島にいます。語学留学に来ています。留学はとても楽しくて、不満が何一つない日々を過ごしています。海を挟んでいるためか、セブではテロの緊迫感をあまり感じられませんでした。
さて、わたしが通っている「3D アカデミー」という学校は、マンツーマンの先生を「週単位で」変えられるシステムです。入学して3週間が過ぎようとしていますが(早い……!)まだ一回も先生を変えたことはありませんでした。
でも、昨日初めて、先生を変える用紙を提出しました。紙切れ一枚で、毎日会う先生を一人、変えられるのです。生徒には良いシステムで、先生には酷なシステムです。
クオリティを維持しようとすると必ずサービス提供側の「現場」に負荷がかかるのはどこも同じです。クオリティの高い授業の恩恵を受けているわたしには何も言えなくて、夏。
わたしが変えたかったのは、ここ最近ずっと休んでいた先生でした。最初の一週間は毎日来ていて、楽しく授業を受けていたのだけれど、二週間目から休みがちに。
他の先生に、なぜ彼女が休んでいるのかを聞いても「よくわからない。彼女の兄弟が具合が悪いそうだ」のような返事。今週は一日だけ来たけど、なんだか元気がない。彼女が休むと代行の先生が来るのですが、毎日違う先生の代行授業を受けるのもなんだかいやになってしまい、昨日の朝、オフィスに行って変更届を出しました。
「変えたい先生」のところに彼女の名前を書いて、「新しく希望する先生」のところに、別の先生の名前を書きました。
(これで来週の月曜日からは同じ先生の授業を受けられる…)とホッとしていました。
そのすぐ後、その先生の授業へ行くと(変更届を出してもその週は先生変わりません)、彼女は来ていました。
「お久しぶりです」
とあいさつをすると、先生は悲しそうな顔でわたしを見て、
「休んでばかりでごめんなさい。……私の家族はミンダナオにいて、昨日やっと避難できたの。家族のことが心配で、迷惑をかけてごめんなさい」
と話してくれました。
彼女の家族は、命からがら逃げ切ったそうです。
先生の話を聞いていたら、先生のことを悪く思っていた自分がものすごく小さな人間に思えてきました。「仕事なんだから休まず来てほしい」って、そう思っていたんです。人の命がかかった非常事態だっていうのに。
先生は20代半ばの若い女性です。家族から離れて一人、都市部で英語の教師をしています。小さな部屋を借りて生活している、と話していました。どれほど心細かったか、どれほどつらかったか、話を聞いていてこみあげるものがおさえられませんでした。
「先生のご兄弟の具合が悪いとしか聞いていなくて、ごめんなさい」
とわたしが言うと、
「本当に、兄弟の具合が悪いだけだったら、どんなに良かっただろうね」
と力なく笑いました。
一通り話をして、先生は「さあ、授業をしましょう」と切り替えてくれました。なんだかそんな気分にならなかったけど、とりあえずテキストに目を落としました。
「コカ・コーラはなぜおいしいか」
のようなトピックが目に飛び込んできて、先生と「今はそんな感じじゃないね…」と少し笑いました。他のどんなトピックでも、この空気を押し流してくれることはないだろうけど。結局、コカ・コーラのトピックで授業してくれました。
授業が終わったあと、わたしは「先生の変更届は一日二回まで出せる」ということを思い出し、急いでオフィスに向かいました。新しい変更届用紙をもらって「新しく希望する先生」のところに彼女の名前を書いて提出しました。
ほんの2時間前に変えたわたしの名前が入れ替わっているのに気付いたのか、オフィスの方は一瞬あれっという顔をしましたが、「そのまま、お願いします」と言って、元に戻してもらいました。(一度先生を変えると、翌週の月曜~金曜まではその先生で固定されます。次回また前の先生を…と思ってもほかの生徒さんがその時間を取ってしまったら再度同じ先生の授業は受けられません)
偽善かもしれませんが、今の先生の状況を理解しているわたしが、先生の授業の枠を埋めたい、そんなこと思ったんですよ。
テロや災害で世の中が大きく動いてしまったとき、様々なつらいことがありますが、最もつらいのは「少し場所が離れているから被害に遭わなかっただけの人たち」がまったく無関係の顔をしていることだと思います。
今回は先生と話すことができたから、先生の事情がどれだけ深くて回避しがたいものか理解できた。
このことがある前の彼女は、誰よりも明るくて、友達みたいに喋ってくれる素敵な先生でした。今は少し元気がないけれど、きっと元気を取り戻してくれると思う。留学なんだからもっと割り切れよと言われるけど、やっぱり割り切れなかった。
わたしは自分の仕事においても「その時に一番状態の良い個体を出荷する」という考え方が好きじゃないんです。
「人間だから調子の良いときも悪いときもあります。けれどトータルで考えて、絶対に御社に利益を出せる人間です。どうか長いお付き合いを、お願いします」と話します。
実際にそれを理解してくださっているクライアント様には本当に感謝しているし、わたしは幸せだと思う。
……わたしは、自分は「理解して理解して」って言うくせに、人のことを理解しようとしていなかった。
こんなに身近なところにテロ被害が及んでしまうなんて、考えつかなかった。思い至らなかった。ただの不躾でわがままな生徒のわたしに、つらい経験を話してくれた先生に、心から感謝します。
この先生から教えてもらった英語を、大切に使っていこうと思う。わたしが話すことで誰かが少し便利になったり、誰かが困ったときに助けられたり、本当に大変なときに支えあえる道具として英語が使えたらもうそれでいい。
身を切るように辛い中でも、わたしの目を見て話をしてくれた先生を尊敬しているし、まだあと3週間、先生と一緒に学んでいきたいと思います。
この教室に、あと3週間、毎日通います。
一回「変更届」を出したことが、先生にバレませんようにwww
それじゃあ、また明日!