1945年は、戦争終結の年だが、戦勝国イギリスでは英雄チャーチルが率いる保守党が大敗、労働党政権が誕生した驚くべき年でもある。労働者が、自分たちで世の中を良くせねばと立ち上がったのだ。労働党は、貧困、そして貧困による害悪を無くすべく社会保障政策を次々と実現させた。中でも国民保健サービス(NHS)は最も人々に貢献した政策のひとつで、国民の医療費を無料にしたのだ。そしてインフラ産業を国有化し雇用を安定させ、庭付き公営住宅を供給し、労働者の住環境を改善していった。しかし、サッチャー政権以降、国はその民主的社会主義路線を否定し、小さな政府で緊縮政策を進めていく。労働者は再び貧困にあえぐようになった。ここに登場するある人物が言う「NHSだけは守らなければならない。それは法を犯してでも」。この、皆を幸せにするという思いを売り渡したら全てが終わるということなのである。登場する労働者や、ケン・ローチは、再び目覚めようではないかと訴える。しかしそれはイギリスだけの問題ではない。人権がないがしろにされ、貧困が拡大する日本では、再び、ではなく、今こそ真に目覚めるべきではないだろうか。本作のメッセージは我々、労働者が立ち上がることを力強く励ましてくれる。
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1945
Pヴァイン (2017-04-28)
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ブレイディみかこさんの本を読んでいると、このケン・ローチ監督「1945年の精神」の話題がよく出てくる。
一度観てみたかったので買ってみた(レンタルにない)。
第二次大戦が終了。
しかしドイツに蹂躙された英国の労働者は貧困を極めていた。
ベッドには虫がわき衛生状態は最悪、医者に見せたくても医療費が払えず、ベッドで子供が死んでいく。
そういう英国で、チャーチルを打ち負かし、労働党が政権を握り、民主化を進めていく。
貴族の手から英国を取り戻す動きが始まる。
焼け野原からの再興。
そして今も続く無料の保険制度NHS(国民保険サービス)が創設され、それまで医者に掛かることのできなかった労働者も医療を受けられるようになる(今は多少の有償)。
この制度は今でも続いていて、ただ日本人が英国に行ってこの保険制度を受けようとしても数週間待たされたりするので「何だよこの保険制度」なんて話になるらしい。
だがこの制度の成り立ちからすれば、必然だったのもわかる。
サッチャリズム
ドキュメンタリーはケン・ローチ監督によって当時幼かった労働者階級(市井)の人々の視点から語られる。
ので当然ながら、労働者党が衰退し、サッチャーに成り代わり、民主化した企業が再び国営化され、炭鉱など労働者のストが警察によって弾圧されていく様子は悪のように描かれる。
サッチャーの行ったいわゆる「小さな政府」によって英国の経済格差は大きく開くことになったとはいえ、経済をかじっている人からすると「サッチャーのやっていることは長い目で見れば正しかった」ということになるらしい。
とはいえ、その当時、英国に住んで労働者階級として生きていた人間からすればたまったもんじゃなかったろう。
労働者の栄光は終わり、再び持つものと持たざるものがハッキリと別れていく。
そりゃあモリッシーだって
サッチャーは強い指導者でも、愛されるべき指導者でもありませんでした。サッチャーは単に人々について糞とも思っていなくて、その人間としてのがさつさは愛国主義を守るために歴史を書き換えようとしているイギリスのプレスによって巧妙に勇敢さへとすり替えられています。
(中略)
ユナイテッド・キングダム? シリア? 中国? なんの違いがあると言うのでしょう?
モリッシー、新たに故サッチャー元首相へのコメントを発表。その全文訳 (2013/04/10) 洋楽ニュース | ロッキング・オンの音楽情報サイト RO69
ずっと中指を立て続けるしかない。
マクロな目で語るひとは、ミクロなひとの痛みや苦しみを無視して語るので。
右と左と上と下
何が正しいか、というのは語り手の位置や視点で変わる。
もちろん労働者党が素晴らしければ政権がサッチャーに代わることもなかったし、その後の英国の復興や経済の安定もなかったかもしれない。
※「STILL ILL」でモリッシーが歌う「昔の夢」は、労働者党が政権を握っていた1945年を思わせる
この映画だけで「社会主義社会が成功していたらな~」なんて考え方はそれはそれで香ばしいが、こういう社会科の教科書でなら数行くらいしか取り上げられないような歴史のひとつに、無数の人々の想いや思想や苦悩があるということが理解できるということが、とても重要かもしれない。
ちなみに宇都宮健児氏、山本太郎などのメッセージ入りDVDもついてますが記事はあくまで映画についてなのでここでは割愛。
気になる方は、そんなに高くないでの自分で確認してください(ガッツリと社会派ドキュメンタリーですが)。
ちなみにブレイディみかこの名著「いまモリッシーを聴くということ」はまたいずれ。
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