今起きている「デジタル・ゴールドラッシュ」に乗じるべきか?──大手取引サービス創業者に聞く「今、ビットコインを買う意味」
- カテゴリー:
- FINANCE
以前、ビットコイン店頭決済を試したときに、筆者は3000円分のビットコインを購入し利用しました。取材後、私の手元には1700円分のビットコインが残りました。
そのビットコインは、購入してから2週間経った今、およそ1.5倍に値上がりしています。ビットコインの価値は、短期的に細かく上下しつつも、長期的には右肩上がりを維持しています。今ビットコインが注目されている大きな理由として、このように「投資対象として極めて魅力的である」という点が挙げられるでしょう。
そこで今回は、ビットコイン取引アプリ『Coincheck』を運営し、『いまさら聞けないビットコインとブロックチェーン』(ディスカヴァー刊)という解説書の著者でもある大塚雄介さんに、日本におけるビットコインの現状、そして今ビットコインを買うべき理由がどんなところにあるのかを語っていただきました。
大塚雄介(おおつか・ゆうすけ)
コインチェック株式会社 共同創業者兼COO(最高執行責任者)
1980年群馬県生まれ。早稲田大学大学院修了、物理学修士号取得。リクルートから分社独立した株式会社ネクスウェイでB2B向けITソリューションの営業・事業戦略・開発設計を経験の後、レジュプレス株式会社創業(2017年4月よりコインチェック株式会社に社名変更)。現在、取締役COOを務める。日本最大規模の仮想通貨交換取引所Coincheckならびに、ビットコイン決済サービスcoincheck paymentを運営。
今起きているのは「ビットコイン・ゴールドラッシュ」
── ビットコインの価値は活発に変動しており、取引市場は非常に盛り上がっているような印象を受けました。大塚さんが運営しているCoincheck上では、1月にどれくらいの額が取引されているのでしょうか?
大塚:具体的な額は控えさせていただきたいのですが、取引額は2〜3カ月で20倍になっています。すさまじい速度で市場が成長しています。
── そうした状況に大塚さんはどのような感想を持っていますか?
大塚:運営している私としても怖いくらいですね。
ビットコインやブロックチェーンは現在インフラをどうするかというテスト・検討をしている段階なのにも関わらず、2017年4月初頭にはビットコインの時価総額は2兆円を超えてしまいました。ビルを建てていてまだ柱を補強しないといけない段階なのに、高層ビルが建ってしまったような、ちょっとアンバランスな状況にあります。
それに対して、ユーザーの中には総資産の30〜40%をビットコインに投資してしまっている人もいます。僕の感覚では、ビットコインで持てるのは総資産の5%くらいまでが限度なんですが。
取引を始める前は値崩れするんじゃないかと不安も感じるでしょうが、隣で儲かっている人もいるし、3万円くらい買ってみるとすぐに値上がってしまう。それで「もうちょっと買ったほうがいいのでは…?」となって、10万円、20万円、100万円とつぎ込んでいく人がたくさんいるんですね。
── バブルのような状態なのでしょうか?
大塚:バブルというよりはゴールドラッシュですね。これは外国のビットコイン関係者との共通認識ですが、ビットコインはお金ではなく、金(ゴールド)に近い性質を持っています。ビットコインの価値に気付いた人が今、一斉に買っているという状況です。この流れは止められません。
── 「金に近い性質」とはどういうことですか?
大塚:ビットコインの設計自体が金に非常に近しいということです。
金は地球上に埋蔵されていて限界があります。最初は少し掘ればすぐに見つかりますが、みんなが掘って採掘していくうちに、地中深く潜らなければならなくなって、簡単には採れなくなります。これはビットコインも同じです。ビットコインの発行量は決まっているんです(※)。
※ビットコインの発行上限は2100万枚。無限にあるものには価値はありませんが、金などのように有限なものには価値が生じ、担保されます。『いまさら聞けないビットコインとブロックチェーン』108ページにわかりやすく解説されているので、気になる方はそちらをご参照ください。
ビットコインはドルや円の代わりになるのではなく「デジタルの金(ゴールド)」になると僕は思っています。
重い金は持ち歩きには不便です。買い物には使いませんよね。でも、金には高い価値があり、保有する意味があります。なぜなら、ドルでもユーロでも、好きなように替えることができるから。日本がダメになって、日本円に価値がなくなっても、金を保有していれば外貨に替えられる。ビットコインはこの点でも金と同じ性質を持っているのです。
仮想通貨は日本の強い産業になる
── 今、日本円とビットコインの取引量が多い状態は、日本経済、ひいては日本の消費者にとって望ましい状態なんでしょうか?
大塚:もちろん日本にとって良い状況ですよ。日本は世界に先駆けて改正資金決済法(通称・仮想通貨法)を2017年4月1日に施行しました。同法は仮想通貨事業者・消費者の双方にバランス良く配慮された先進的な法律になっています。これは、世界において日本が仮想通貨のルールメイクをする側の立ち位置になったことを意味します。
過去、日本は金融のオンライン化でアメリカに遅れを取っています。たとえば、世界中の銀行間でお金のやり取りをするSWIFTというシステムがあるのですが、日本語を扱うことができなかったため、日本の銀行は対応のために大金を投じることになりました。その結果として日本の銀行は競争力を失ってしまいました。
そうしたことが起きたのも「金融に関する規格ができた後にシステムを開発したから」です。
それに対して、ビットコインなどの仮想通貨に関しては規格を作る側になったわけで、それは非常に望ましいことです。国としても仮想通貨をきちんと規格化し、アジアに普及させていこうとしています。
── ルールメイカーとしての立ち位置や仮想技術に関する技術力を総合的に踏まえると、仮想通貨分野で日本はどのようなポジションにあるのでしょうか?
大塚:アメリカと互角くらいの立ち位置ではないでしょうか。技術力も決して負けていません。技術者の層の厚さでは負けていますが、世界トップレベル、準トップレベルのプロダクトも出せており、十分に世界で戦っていけるでしょう。仮想通貨は今後、日本が世界に誇れる産業になっていくはずです。
今、ビットコインを買うべき理由
── 今、ビットコインを買う理由はどんなところにあるのでしょうか?
大塚:無理のない範囲でビットコインを買うなら、「若いうちに金融について学ぶ」「今後の基礎教養」といった意味合いが強いのではないかと思います。
僕は3つの働き方があると思っています。
- アルバイトのように「時間を切り売りする」働き方
- 経営者やマネージャーになって「ほかの人を動かしてマネージメントする」働き方
- 「お金にお金を稼がせる」働き方
若いとき、人生の資産は時間しかありません。人脈はなく、お金にも余裕はありません。ところが、40代に差し掛かると今度は「使える時間」が減ってきます。たとえば、体力の限界が訪れるのが早くなり、長時間働けなくなります。僕は26歳のときは夜中まで働いていましたが、36歳になった今はすぐに倒れてしまいます(笑)。
それに対して、40代はお金には余裕が出てきますから、これをどう合理的に動かすかが重要になります。
でも、時間を切り売りできなくなってから投資を始めても遅いんですよね。30歳の頃に失敗してもいいから投資を経験しておいて、合理的に考えるとリスクとリターンを釣り合わせられる金融は怖いものではないと知っておけば、時間を切り売りできなくなった40歳のときに直接金融で収益を得るような生活も選べます。そのほうが賢いですよね。
今後日本は、労働人口がどんどん減っていくので、そういうことができないとやっていけないと思うんですよ。そういうときに、何の金融商品で入るかというと、20〜30代でやるなら上の年齢の人がやっていない仮想通貨をやってみるのが有意義だと思いますね。
── 今、ビットコインを買うときのポイントを教えてください。
大塚:これは資産のポートフォリオの組み方になりますね。たとえば子どもがいて貯蓄もしなきゃという人なら、資産の60%を現金で持ち、40%を投資や保険にするとか。40%の中の一部を、ハイリスク・ハイリターンな仮想通貨で持っておく、というのはありだと思います。短いタイムスパンで伸びる仮想通貨がいいなら、リップルなどを買うのがいいでしょう。
投資なんてそもそもしたことがない人が多いかと思いますが、ビットコインから投資に入るという人は今とても多いです。僕自身そうでした。
ビットコインを事業にしてみて、日本人の多くは比較的お金を持っている中流階級なのに、金融に対する知識が妙に欠けていると感じています。仮想通貨で取引をしてみて、そもそも投資は怖くないし、複利で考えればむしろ安定だと理解するのは、教養知識として非常におもしろいはずです。スマホでさくさくできますしね。
投資をすると仕事が手につかなくなって、金融が心理との戦いであるということも実感できますよ。
よくニュースになるビットコインやブロックチェーンについて学んでおくべきなのか?
── 大塚さんは『いまさら聞けないビットコインとブロックチェーン』という本を書かれていますが、やはりみんなビットコインとブロックチェーンについては学んでおいたほうがいいのでしょうか?
大塚:正直に言えば、誰もがビットコインやブロックチェーンについて無理に学ぶ必要はないと思っています。今だって、日銀のシステムがどうなっているかなんて知らなくても生活はできますよね。
どうして日銀を例に出したかというと、ビットコインも日銀のシステムのように金融や経済を支える裏方になっていくと思っているからです。日本円でドルを買うときに、取引に使うシステムがビットコインを裏で介して取引を行うことで、手数料などを安くするといった役割を担っていくことになるはずです。僕たちが日常生活で使うのは、日本円やドルのままでしょう。
では、ビットコインやそれを実現する技術であるブロックチェーンについて知らなくていいかと言えば、知っておいたほうがいい。特に、今後も事業でお金を扱うビジネスパーソンにとっては、基礎教養として押さえていくべきものになっていくはずです。仮想通貨が日本を代表する産業に成長するならなおさらです。
── 最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。
大塚:500円でいいのでビットコインの取引をやってみるといいと思いますよ。少額でも買えば「ビットコインってこういうものなんだ」とすぐにわかるはずです。こういうのは身銭を切らないとだめなんですね。
500円が700円になるのか、450円になってしまうのか。そういうところでビットコインとはどういうものなのかを感じられると、どんな仕組みで動いているのだろうという興味も自然に湧いてくるはずですよ。
もし今回の記事で興味を持たれたなら、『Coincheck』などの取引アプリでビットコインを買ってみるとビットコイン市場の熱っぽい変動を肌身で感じられるでしょう(大塚さんが指摘するようにハイリスク・ハイリターンなので必ず無理のない範囲での取引をお願いいたします)。
ビットコインをはじめとする仮想通貨や、仮想通貨を裏で支える技術であるブロックチェーンについてより深く知りたい方は、大塚さんの著書『いまさら聞けないビットコインとブロックチェーン』に非常にわかりやすくまとめられていますので、ぜひこちらをご参照ください。
(神山拓生/撮影場所:tiny peace kitchen)