「ワタルさん、なにをボーっとしているのですか」
「君は川が好きかい」
「ええ、嫌いじゃないですけれど」
「そうだろう、そうだろう。川は素晴らしいよ。川の流れを見ていたり、川沿いを歩いていると、日常の心が洗われるようで時を忘れてしまうよ」
「へえ、ワタルさんにも、そんなセンチメンタルな面があるとは驚きですね。どんな川が好きですか」
「そうだな。イギリスでいうと、ロンドンのテムズ川。ビッグベンからロンドン塔まで
川沿いの風景を見ながら、豊かでゆっくりとした流れを眺めがながら、川から吹いてくる気持ちい風を感じながらa歩くのは最高だよ。ちょっと田舎では、チェプストウ城と町の横を流れる厳格なワイ川。ちょっとした山を登り、そこから見下ろす景色も最高だったなあ」
「自然と人間の生活がマッチした風景もいいですね」
「海外じゃなくて、今、ワタルさんが住んでいる近くに川はありますか」
「そうなんだよ。探してみると意外にもあったんだよ。これさ」
「コンクリートの川じゃないですか? これまで聞いた川と全然ちがいますよ。
ワタルさんはコンクリートの川が好きですか?」
「ただのコンクリート川ではないよ。歩くとその素晴らしさがよくわかるんだ」
「都内の街中を歩いていたら、水の音が聞こえてきて、階段を降りてみると公園があったんだ」
「その公園の名前は、音無親水公園」
「江戸時代から名所として知られ、釣りや水泳、景色を眺めお茶を飲んだり、江戸の人々にも親しまれた川なんだ。安藤広重の錦絵にも描かれているんだよ」
「その名所を再現しようと、昭和63年に整備された公園なんだ。日本都市公園100選にも選ばれているんだよ」
「小さいけど、街中にこんな素晴らしい公園があるんですね。公園を見ながら、ベンチに座ってくつろぐのも、ほっと癒されますね」
「音無親水公園の音無川から遊歩道があって、川沿いを歩くことが出来るんだ。その川がさっきのコンクリート川なんだよ」
「最初は、コンクリートか・・・と残念に思ったけど、川沿いを歩いていると景色を楽しめ、文化も楽しめ、気持ちが変わっていったんだ」
「川は住宅街、ビル街を真っ二つに分断するかのように流れている。川には遊歩道があって、街路樹もたくさん植えられているんだ。散歩コースにはもってこいだね」
「それに、川に沿って通っている人を見ると、コンビニ袋を持った人、イヌの散歩をしている人、乳母車を押している家族、いろんな人がいる。なるほど、みな近くに住んでいる人達だな。このコンクリート川は付近の人々の生活の一部なんだな、と思ったんだ」
「親しみを感じますね」
「リラックスしながら歩き続けていると、公園もあったんだ。中に入ってみると、いや驚いたね。小さいんだけけど、森林があり、小川があり、鳥たちが鳴いている。まるで山の中に来たようだ。こんな自然が都会のど真ん中にあるなんて。僕はとても嬉しくなったよ」
「さらに進むと川沿いに古い寺が見えてきた」
「かなり由緒のある場所だったんだよ。その昔、源頼朝が平家に対して兵をあげたものの、石橋山の合戦で敗れます。頼朝は安房国に逃れて上総国、下総国の諸将を味方につけます。そして川沿いの古い寺は、鎌倉に向かう時に布陣した伝承の土地だったんだ。歴史の勉強までできてしまったよ」
※金剛寺
「池があり、釣りをしている人もいる。写真を撮っている人もいる。寝そべって本を読んでいる人もいる。架けられた橋には、大きな鯉のぼりが繋がれており、多くの人がその見事な泳ぎをたのしんでいる。川沿いに小さな公園がいくつもあり、子供たちが歓声をあげている。お年寄りがベンチに座り、話に花を咲かせている」
「とてものどかですね。ちょっとした自然がたくさんあり、人々の生活や憩いの場所があり、歴史もあり、その中心に川があるって感じですね」
「川沿いを歩いていると、とてもリラックスでき、体も脳も心もとても気持ちよくなったよ。音無川にとても親しみを覚えるようになって、コンクリートだけど、流れもきれいに見えてきた気がするな」
「一瞬、コンクリートが岩に変わって、山奥の清流と錯覚したよ。はははは」
「あっ、聞くのを忘れていました。その川の名前は?」
「石神井川(しゃくじいがわ)だよ。東京の北区にある、JR王子駅を降りると、まず直ぐに音無川親水公園に入れるよ。そこから繋がっているんだ」
「とても楽しい散策だったなあ。近いし、これは通いそうだな」
「僕も行ってみたいです」
「今日はいつもより、素直におとなしく聞いてるじゃないか」
「ええ。音無川なものですから」
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