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「官民一体型学校」

 佐賀県武雄市が「官民一体型学校」の創設を文部科学省内で記者発表した。同市は総務省出身のアイデアマン樋渡啓祐市長の下、市立図書館の運営をDVDレンタル大手TSUTAYAに委託するなどユニークな市政で知られる。学校教育に関しても2012年度からは全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の学校別成績を公表しているが、昨年10月には前東京都杉並区立和田中学校長の代田昭久氏を教育監に招いて全校でタブレット端末を活用した「反転授業」(ビデオ授業で予習し、学校では内容を深める形態の授業)の導入を表明していた。今回の方針は、それに続くもの。
 市教委は、幼児・小学生対象の学習塾「花まる学習会」(さいたま市、高濱正伸代表)と10年契約を締結。まずは代田教育監が校長を兼任する市立武内小学校で同会講師との合同研修を実施して導入内容や方法を検討した上で、地域の同意を得た小学校2〜3校で来春から本格実施する。状況を見て他の小学校や中学校にも広げたい考えだが、ノウハウは市内全校で共有するという。
 発端は「官とか民とか、つまらないことはやめにして一緒にやろう」という樋渡市長が12年度から市教委に持ちかけ、受験に特化しない塾を探していたところ、13年2月に福島県内で行われたイベントで「教育改革実践家」の藤原和博氏(今年4月から無報酬の同市特別顧問)から同会を紹介されたのだという。
 その藤原氏は、ある意図を持ってリクルートや和田中の後輩である代田氏を武雄市に「派兵」したことを、今年2月に東京都内で行われたシンポジウムで明かしていた。大量退職・大量採用による教員の質の低下と、学力層の二極化により一斉授業が通用しなくなるという全国に共通する課題に解決策を示すためだ。そこには、もはや多忙化する学校現場のリソースでは課題に対応できない、という認識がある。
 ただし注意したいのは、武雄市では必ずしも公教育を否定していないことだ。代田教育監は「塾でやっていることを、そのまま導入できるとは思っていない」と強調。実際の教育も主に「優秀」な同市の県費負担教職員が行うとしており、「公設民営方式」とは一線を画している。
 一方で代田教育監は「現在の学習指導要領には構造的な問題がある」とも指摘する。教科縦割りの授業では「メシを食える大人」に育てることはできず、そのため同会のメソッドで各教科等に「横串」を刺すのだという。武雄市の取り組みは他の自治体、とりわけ教育行政に携わりたい首長の関心を呼ぶことだろう。それだけに取り組みの趣旨を正確に把握した上で、今後の動向に注目していく必要がある。


(W)

渡辺 敦司(わたなべ・あつし)

1964年、北海道生まれ。
1990年に横浜国立大学教育学部を卒業して日本教育新聞社に入社し、編集局記者として文部省(当時)、進路指導・高校教育改革などを担当。
1998年よりフリーとなり、「内外教育」(時事通信社)をはじめとした教育雑誌やWEBサイトを中心に行政から実践まで幅広く取材・執筆している。

ブログ「教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説」