495/495
過去編⑧
いつからだっただろうか?
サリエルが他の生物よりも人間を優先するようになったのは。
きっかけはきっとたわいもないことだった。
サリエルに与えられた使命は原生生物の保護。
戦闘特化タイプの天使であるサリエルにその使命が割り振られたということは、その意味するところはつまり原生生物を他の神から保護せよということだ。
他の神に干渉させるなという意味であり、つまりサリエルに与えられた使命は神の駆逐。
他の神同様、サリエルが原生生物に干渉することは求められていなかった。
だから最初は見守るだけだった。
サリエルはずっと世界を見守っていた。
しかし、いつの頃からかサリエルは見守るだけではなく、手を差し伸べるようになった。
きっかけはきっと、本当にたわいもないことだった。
ただ、ちょっとした善意で助けた子供。
転んだところを助け起こしたくらいの、善意というほど仰々しいことでも何でもないこと。
「ありがとう!」
ただ、そのお礼を言われただけ。
そんな些細なことが始まりだった。
☆
ストーカーとは、特定の人物に付きまとう行為のことを言う。
当然のことながら、特定人物を監視する行為もまたそれに含まれる。
国によってその対応には差があるが、先進国ではほぼ犯罪として扱われる行為だ。
犯罪。
龍種たるこの自分が、犯罪者。
ギュリエの受けたショックは当人にしか理解できない。
しかし、その衝撃は大きかったとだけ言っておこう。
フォドゥーイに言われ、人間の常識とやらを学んでいくうちに、ストーカーについての知識もギュリエは得ていた。
そして落ち込んでいた。
まさか、自分がなんのけなしにしていた行動が、人間にとっては犯罪として忌み嫌われる行為だという事実に対して。
龍種たる自分が、人間から後ろ指差されてストーカーだと非難される。
なんという屈辱!
それと同時に自分の無知さ加減に危機感を覚える。
今まで自分のしてきたことが、実は他者から見るととんでもないことだった、ということがあるのではないかと不安になったのだ。
その不安に突き動かされて、ギュリエは人間のありとあらゆる常識や習慣を学んでいった。
龍は普通そんなことをしない。
人間からどう見られようとも、揺らぐことはない。
人間が龍を神聖視するのは当たり前。
なぜならば龍は至高の存在なのだから。
人間が龍を奇異の目で見るのもまた当たり前。
至高の存在たる龍を、人間ごとき矮小な存在が正しく理解できなくても仕方がない。
龍を理解できない人間が愚かなのであって、龍の行動が間違うはずがない。
それが龍にとっての普通なのだ。
しかし、ギュリエはそれに反して人間の言葉で心を乱され、人間の文化を学びだした。
この時点で同じ龍たちに奇異の目で見られ始める。
至高の存在たる龍が、なぜ下等な生物の生態を学ぶ必要があるのか?
至高の存在たる龍が、なぜ下等な生物に合わせなければならないのか?
龍は龍としてあるだけでよく、合わせるのであれば下等生物が龍に合わせるべきなのだ。
それでもギュリエは自分が間違ったことをしているとは思わなかった。
ギュリエもサリエルに出会うまでは龍種こそが至高の存在だと信じて疑っていなかった。
サリエルに出会ったことでその考えにほころびが生まれ、そして人間であるフォドゥーイに論破されたことでそのほころびはさらに大きくなった。
龍とは確かに強大で偉大だ。
しかし、はたして本当に至高の存在なのだろうか?
武力ではサリエルに劣り、口ではフォドゥーイに負けたというのに?
自分が知らなかっただけで、龍よりも優れた種は存在するのではないか?
龍としては異端なその考えは、しかしギュリエにはストンと納得のいくものだった。
龍が生物として優れているのは疑いようもない。
しかし、だからと言って他の生物を下等と決めつけるのは早計だと思いなおす。
ならば今まで下等と蔑み、見向きすらしていなかった人間から学べることもあるのではないか?
その疑問は人間のことを学べば学ぶほど確信に変わっていく。
龍は優れているがゆえに、前進しようとしない。
そんなことを意識してやろうとしなくても、時間が経てば自然と力を身に着けていくのだから。
そしてそれだけの時間が経てば、知能もまたそれなりに発達していく。
悠久とも言える時間があるからこそ、焦る必要もなくただあるだけで進化していくことができる種族。
それが龍。
対して、人間には時間がない。
人の一生など龍から見ればほんの一瞬のことで、その一瞬で命を燃やし尽くしていく。
その一生で費やす行動は目まぐるしく、生きるということに真剣に向き合い、その生を謳歌している。
龍が無為に過ごしている間に、人間は驚くほど精力的に活動しているのだ。
それがもたらす結果が、龍から見れば些細なことだとしても、人間は生きている。
生き生きとしている。
何もせずただ無為に過ごす人間のことを、ニートというらしい。
なるほど、その理論で言うのならば龍はみなニートだ。
そう思い至り、ギュリエは人知れず笑ってしまった。
どれだけ強大な力を誇っても、ニートでしかもストーカーとくれば、馬鹿にされるのも仕方がないと。
龍がニートをしている間に、人間は必死に生きている。
種族としては龍のほうが優れている。
それは疑いようのない事実だ。
しかし、だからと言って人間のことを下等生物と見下すことは、ギュリエにはもうできそうになかった。
種族としての強みに胡坐をかいていたら、いつか人間に痛い目にあわされるのではないかという危機感まで覚える。
それは考えすぎにしても、人間の生き方からは学べることが多い。
そのことに気づかせてもらった礼。
そして今までの謝罪。
そして何よりも、答え合わせのためにギュリエはもう一度サリエルに会う決心をする。
サリエルが神の力を使わない、その答え合わせをするために。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
この小説をブックマークしている人はこんな小説も読んでいます!
盾の勇者の成り上がり
盾の勇者として異世界に召還された岩谷尚文。冒険三日目にして仲間に裏切られ、信頼と金銭を一度に失ってしまう。他者を信じられなくなった尚文が取った行動は……。サブタ//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
完結済(全835部)
- 26603 user
-
最終掲載日:2015/05/28 11:00
転生したらドラゴンの卵だった~最強以外目指さねぇ~
目が覚めたとき、そこは見知らぬ森だった。
どうやらここは異形の魔獣が蔓延るファンタジー世界らしく、どころかゲームのように敵や自分の能力値を調べることができる//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全327部)
- 23692 user
-
最終掲載日:2017/05/24 21:47
Re:ゼロから始める異世界生活
突如、コンビニ帰りに異世界へ召喚されたひきこもり学生の菜月昴。知識も技術も武力もコミュ能力もない、ないない尽くしの凡人が、チートボーナスを与えられることもなく放//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全441部)
- 31456 user
-
最終掲載日:2017/05/22 01:00
LV999の村人
この世界には、レベルという概念が存在する。
モンスター討伐を生業としている者達以外、そのほとんどがLV1から5の間程度でしかない。
また、誰もがモンス//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全267部)
- 24164 user
-
最終掲載日:2017/05/23 14:26
デスマーチからはじまる異世界狂想曲
アラサープログラマー鈴木一郎は、普段着のままレベル1で、突然異世界にいる自分に気付く。3回だけ使える使い捨て大魔法「流星雨」によって棚ボタで高いレベルと財宝を//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全527部)
- 36156 user
-
最終掲載日:2017/05/07 22:04
賢者の孫
あらゆる魔法を極め、幾度も人類を災禍から救い、世界中から『賢者』と呼ばれる老人に拾われた、前世の記憶を持つ少年シン。
世俗を離れ隠居生活を送っていた賢者に孫//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全120部)
- 28939 user
-
最終掲載日:2017/05/16 04:45
無職転生 - 異世界行ったら本気だす -
34歳職歴無し住所不定無職童貞のニートは、ある日家を追い出され、人生を後悔している間にトラックに轢かれて死んでしまう。目覚めた時、彼は赤ん坊になっていた。どうや//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
完結済(全286部)
- 36875 user
-
最終掲載日:2015/04/03 23:00
ワールド・ティーチャー -異世界式教育エージェント-
世界最強のエージェントと呼ばれた男は、引退を機に後進を育てる教育者となった。
弟子を育て、六十を過ぎた頃、上の陰謀により受けた作戦によって命を落とすが、記憶を持//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全172部)
- 24778 user
-
最終掲載日:2017/05/24 23:35
聖者無双 ~サラリーマン、異世界で生き残るために歩む道~
地球の運命神と異世界ガルダルディアの主神が、ある日、賭け事をした。
運命神は賭けに負け、十の凡庸な魂を見繕い、異世界ガルダルディアの主神へ渡した。
その凡庸な魂//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全359部)
- 25053 user
-
最終掲載日:2017/03/23 20:00
絶対に働きたくないダンジョンマスターが惰眠をむさぼるまで
「働きたくない」
異世界召喚される中、神様が一つだけ条件を聞いてくれるということで、増田桂馬はそう答えた。
……だが、さすがにそううまい話はないらしい。呆れ//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全262部)
- 24675 user
-
最終掲載日:2017/05/24 00:00
魔王様の街づくり!~最強のダンジョンは近代都市~
魔王は自らが生み出した迷宮に人を誘い込みその絶望を食らい糧とする
だが、創造の魔王プロケルは絶望ではなく希望を糧に得ようと決め、悪意の迷宮ではなく幸せな街を//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全146部)
- 24561 user
-
最終掲載日:2017/05/24 19:00
八男って、それはないでしょう!
平凡な若手商社員である一宮信吾二十五歳は、明日も仕事だと思いながらベッドに入る。だが、目が覚めるとそこは自宅マンションの寝室ではなくて……。僻地に領地を持つ貧乏//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
完結済(全205部)
- 36663 user
-
最終掲載日:2017/03/25 10:00
異世界迷宮で奴隷ハーレムを
ゲームだと思っていたら異世界に飛び込んでしまった男の物語。迷宮のあるゲーム的な世界でチートな設定を使ってがんばります。そこは、身分差があり、奴隷もいる社会。とな//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全219部)
- 27490 user
-
最終掲載日:2017/03/25 21:22
ありふれた職業で世界最強
クラスごと異世界に召喚され、他のクラスメイトがチートなスペックと“天職”を有する中、一人平凡を地で行く主人公南雲ハジメ。彼の“天職”は“錬成師”、言い換えれば唯//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全266部)
- 37227 user
-
最終掲載日:2017/05/20 18:00
金色の文字使い ~勇者四人に巻き込まれたユニークチート~
『金色の文字使い』は「コンジキのワードマスター」と読んで下さい。
あらすじ ある日、主人公である丘村日色は異世界へと飛ばされた。四人の勇者に巻き込まれて召喚//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
完結済(全808部)
- 26040 user
-
最終掲載日:2016/11/16 00:00
転生したらスライムだった件
突然路上で通り魔に刺されて死んでしまった、37歳のナイスガイ。意識が戻って自分の身体を確かめたら、スライムになっていた!
え?…え?何でスライムなんだよ!!!な//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
完結済(全303部)
- 43142 user
-
最終掲載日:2016/01/01 00:00
とんでもスキルで異世界放浪メシ
※タイトルが変更になります。
「とんでもスキルが本当にとんでもない威力を発揮した件について」→「とんでもスキルで異世界放浪メシ」
異世界召喚に巻き込まれた俺、向//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全364部)
- 36849 user
-
最終掲載日:2017/05/24 00:06
公爵令嬢の嗜み
公爵令嬢に転生したものの、記憶を取り戻した時には既にエンディングを迎えてしまっていた…。私は婚約を破棄され、設定通りであれば教会に幽閉コース。私の明るい未来はど//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全215部)
- 24879 user
-
最終掲載日:2017/05/14 23:23
私、能力は平均値でって言ったよね!
アスカム子爵家長女、アデル・フォン・アスカムは、10歳になったある日、強烈な頭痛と共に全てを思い出した。
自分が以前、栗原海里(くりはらみさと)という名の18//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全193部)
- 32921 user
-
最終掲載日:2017/05/23 00:00
人狼への転生、魔王の副官
人狼の魔術師に転生した主人公ヴァイトは、魔王軍第三師団の副師団長。辺境の交易都市を占領し、支配と防衛を任されている。
元人間で今は魔物の彼には、人間の気持ちも魔//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全408部)
- 30651 user
-
最終掲載日:2017/05/24 11:00
レジェンド
東北の田舎町に住んでいた佐伯玲二は夏休み中に事故によりその命を散らす。……だが、気が付くと白い世界に存在しており、目の前には得体の知れない光球が。その光球は異世//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全1376部)
- 25070 user
-
最終掲載日:2017/05/24 18:00
用務員さんは勇者じゃありませんので
部分的学園異世界召喚ですが、主役は用務員さんです。
魔法学園のとある天才少女に、偶然、数十名の生徒・教師ごと召喚されてしまいます。
その際、得られる力をとある生//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全140部)
- 27083 user
-
最終掲載日:2017/04/30 06:00
フェアリーテイル・クロニクル ~空気読まない異世界ライフ~
※作者都合により後日談は隔週更新とさせていただきます。
※2016年2月27日、本編完結しました。
ゲームをしていたヘタレ男と美少女は、悪質なバグに引っかか//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全213部)
- 24715 user
-
最終掲載日:2017/05/13 07:00
二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む
魔王を倒し、世界を救えと勇者として召喚され、必死に救った主人公、宇景海人。
彼は魔王を倒し、世界を救ったが、仲間と信じていたモノたちにことごとく裏切られ、剣に貫//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全114部)
- 25903 user
-
最終掲載日:2017/05/08 09:04
二度目の人生を異世界で
唐突に現れた神様を名乗る幼女に告げられた一言。
「功刀 蓮弥さん、貴方はお亡くなりになりました!。」
これは、どうも前の人生はきっちり大往生したらしい主人公が、//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全359部)
- 25000 user
-
最終掲載日:2017/05/24 12:00
謙虚、堅実をモットーに生きております!
小学校お受験を控えたある日の事。私はここが前世に愛読していた少女マンガ『君は僕のdolce』の世界で、私はその中の登場人物になっている事に気が付いた。
私に割り//
- 29257 user
-
最終掲載日:2017/05/22 10:00
10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた
【本編完結済み】北条雄二、30才、無職、引きこもり歴10年。両親の死をきっかけに引きこもり脱却を決意し、家の外に出る。が、そこは見覚えのない景色とファンタジー生//
-
ローファンタジー〔ファンタジー〕
-
完結済(全519部)
- 25680 user
-
最終掲載日:2016/10/25 18:00