「100%医学的に正確」の真偽のほどは?
自称ホラー好きの筆者ですが、過去に何度か「この映画を見たら自分の中の何かが壊れてしまうのでは」と二の足を踏んだ作品に出会ったことがあります。そのひとつが2009年(日本は2011年)に公開したトム・シックス監督の映画『ムカデ人間』。
「人間の肛門と口を繋いでムカデのような生き物を作る」という人の尊厳を無視した悪魔的設定を事前に知ってしまったら、手放しで見たいと思える人がどれくらいいるでしょうか。
さて、そんな想像しただけで気が狂いそうになる『ムカデ人間』ですが、物好きなシネフィルから絶大な支持を得て大ヒット。傍迷惑なことにその後続編が2本作られました。劇中に何度か「100%医学的に正確」というセリフが登場しますが、これは果たして本当なのでしょうか。
Movie Pilotが、ViceとFilm School Rejectsのインタビューに応じた2人の医者の見解をまとめていました。
映画『ムカデ人間』は医学的に可能なのでしょうかーー?
結論からいうと、不可能。では、なぜ不可能なのか、ルイーズ・オーウェン医師とフィリップ・コークレー医師の意見を紹介します。
【理由その1:窒息/肺炎】
口が塞がれている状況で口に何か入ってきたら本能的にものを飲み込もうとします。しかしそれが大便だった場合、おそらく吐き出そうとするでしょう。しかし、肛門と口を結合されているので、吐瀉物を多少飲み込んでしまうと思います。そうなると窒息か肺炎のどちらかで直ぐに死んでしまうと思われます。
コークレー医師はこのほか、糞尿に含まれる細菌が傷口から感染することにも言及しています。
【理由その2:敗血症】
糞尿には細菌が多く含まれています。手術直後の傷口から細菌が入って敗血症にかかります。
敗血症とは、細菌が全身に回ることで臓器がおかされる深刻な病気です。
【理由その3:呼吸困難】
また、接合された人たちは号泣からくる鼻づまりで呼吸困難に陥ります。それも死の原因のひとつになるでしょう。
【理由その4:麻酔】
一方で、オーウェン医師はあの大手術をひとりでこなすことの難しさに言及しました。
外科医は外科処置のための鎮痛薬の投与や換気の訓練を受けていません。それは麻酔医の仕事です。これらの薬を使用することは非常に危険で、犠牲者は薬が原因で合併症を起こしていた可能性も高いのです。
ちなみに、食糞描写が過激な『ムカデ人間2』では、素人が不衛生な場所で麻酔もなく12人もの人間を結合手術していました。あの場合だと、被害者たちは低体温症、脱水症状、敗血症を引き起こす可能性があったようです。
【理由その5:便に含まれる栄養分】
続いて、万が一手術が成功しても、栄養不足が指摘されるとコークレー医師は言います。
1番前の男性はしっかり食べていますし、通常通り消化されて普通の大便が出ているようです。しかし男性に繋がれている真ん中の女性は、男性の大便を取り込み、それを大便として排出していますね。最後尾の女性が口にする便には栄養素なんてほとんど残っていないわけです。
なるほど、不可能である理由はひとつではなさそうです(よかった…)。
コークリー医師は、「自分の糞を食べる動物は多く、必ずしも糞に栄養が含まれていないわけではありません。人間に大便だけを食べさせたらどれくらい生き延びるのかには興味があります」とも言っていますが、コアラを代表とする食糞の動物も糞だけを食べて生きているわけじゃありません。あくまでも、理由があって糞も食べるだけで。
あ、ちなみに万が一、『ムカデ人間』の食糞疑似体験がしてみたい方には「ムカデ人間 あぅ、ごめん ごめんよぅ、ごめんよぅ、ごめん カレー 5個セット」がオススメ。価格は3,240円とかなりお高めな印象ですが、カツロー役の北村昭博氏完全監修で栄養入りの自信作(どんな栄養かはわかりません)! 口内炎ができていても敗血症になる心配はないので、ぜひ『ムカデ人間』を鑑賞しながらカレーオンリーでご賞味ください。
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image: NPavelN/Shutterstock.com
source: Movie Pilot, Vice, Film School Rejects, yamakichi
(中川真知子)