2014年にオランダで自費出版同然の本がコツコツと売れ、アマゾンの自費出版サービスを通じて英語に訳されたとたん、大手リテラリー・エージェントの Janklow&Nesbit の目にとまり、2017年には全世界20ヵ国での出版が決まる。
2015年、フランスのトマ・ピケティの登場を彷彿とさせるようなシンデレラストーリーを体現しているのが本書『隷属なき道 AIとの競争に勝つ ベーシックインカムと一日三時間労働』である。
筆者は、まだ29歳の若さで、ハイエクからマルクスまでを縦横無尽に読み解き、説得力のあるデータを提示しながら、まず今日の世界の状況をこんな風に絵解きしてみせる。
産業革命以来、人類の労働時間はずっと減り続けていた。ケインズは、第一次世界大戦のあと、スペインで講演を行い、その中で、「2030年までに週の労働時間は15時間にまでなる」と予測した。
ところが、今日の我々はそんな状況ではまったくない。確かに1970年代まで労働時間は減り続けていた。しかし、80年代以降、減少が止まり、逆に上昇に転じた国もある。
労働生産性を見てみよう。これは、80年代以降も順調に上がっている。しかし、逆に労働者の実質賃金は下がり、貧富の差は、国内で見ても、また世界的に見てもこれ以上ないくらいに拡大している。何しろ、今世界では上位62人の富豪は、下位35億人の総資産より多い富を所有しているのだ。
そうした世界を救う方法として著者が提案しているのが、ベーシックインカムと1日3時間労働そして国境線の開放だ。
中でもベーシックインカムをめぐる著者の議論には、目からうろこが何枚も落ちる人が多いのではないだろうか。
日本のケースに当てはめてみれば、生活保護、奨学金などの学費援助制度、母子家庭保護のための福祉プログラム等々を全て廃止する。そのかわりに全ての個人に年間150万円なりのお金を直接支給するのである。
2009年のイギリスでの実験例が第2章で紹介されている。3000ポンド(約45万円)のお金を与えられた13人のホームレスは、酒やギャンブルに使ってしまうだろうという予想に反し、電話、辞書、補聴器などまず自分にとって本当に必要なものを買い求めた。
20年間ヘロインを常用していたサイモンの場合、身ぎれいにしてガーデニング教室に通いだした。そして実験開始から1年半後には、13人の路上生活者のうち7人が屋根のある生活をするようになった、というのである。
つまり、貧困者は第一にまとまったお金がないことで、貧困から抜け出せないのだ。
教育制度や奨学金にいくらお金を使っても、そもそも貧困家庭の子どもたちはそうした制度を利用するということを思いつかない。だからまず、すべての国民に、施しではなく権利として必要最低限の生活を保障するお金を渡すという考え方だ。
開発途上国援助も、NPOや現地政府にお金を渡し、援助プログラムを支援するよりも、直接人々にお金を渡すほうが、はるかに効果がある、と説く。
また、中間の官僚やNPO等の人件費等にかかるお金を考えれば、実は費用対効果でも実効性のある方法だということが、各地の実験のデータをもとに綴られるのだ。