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 若者たちの命と将来を奪った蛮行に強い憤りをおぼえる。

 英中部マンチェスターのコンサート会場で、自爆テロがおきた。人気歌手の公演を楽しんでいた観客の多くは10~20代で、母親と来た8歳の女の子も亡くなった。

 無差別に市民を狙ったテロを断じて許すことはできない。

 自爆したのは22歳のリビア系英国人男性とされる。地元で生まれ育った青年がなぜ、テロに走ったのか。何らかの組織が背後にいたのか。英当局は事件の解明に全力を挙げてほしい。

 直視すべきは、取り締まる法令をいくら厳しくし、警備を厳重にしても、テロは完全には防ぎきれないという現実である。

 欧米では近年、大勢が集まる会場での荷物検査など、警備が強化されてきた。だが今回は公演終了後の出口付近という隙を突かれた。公道や広場など、市民が自由に出入りする所を狙うのが最近のテロの特徴だ。

 車やナイフなど身近な物で大勢を殺傷するケースも目立つ。市販の材料とネット情報で爆弾も自作できる時代だ。

 英国では、北アイルランド武装勢力のテロが吹き荒れた1970年代以来、監視カメラが全土に設置された。2001年の米国、05年のロンドンでの同時多発テロ以降は、疑わしい人物の捜索や拘束を容易にする法改正がなされてきた。

 それでもテロはやまない。

 格差や差別など、テロを生む根本的な土壌の改善に取りくむ必要がある。そう指摘されて久しいが、現状はどうか。

 テロの不安に乗じて異なる民族や宗教の排斥を掲げる政治勢力が欧州各地で伸長している。非寛容な風潮が新たなテロを生む悪循環を招いているとすれば、ゆゆしき事態である。

 今週末のイタリアでの主要7カ国(G7)首脳会議でも、テロ対策が議論されるだろう。反テロの結束の表明はもちろん、排外主義や、対テロに名を借りた人権侵害を許さない姿勢も示してもらいたい。

 トランプ米大統領は、イスラム教徒が多い国々からの入国禁止措置をめざしているが、イスラム社会との不信の壁を築くのが逆効果なのは明白だ。

 過激思想による暴力は、今や世界共通の問題である。その撲滅に向けた連携を深めることが重要だ。各国の司法・金融当局間の協力を進める一方、先進国などで移民や難民の社会統合を深める努力も必要だろう。

 テロを生まない社会の実現に向けて、国際社会の知恵を絞りたい。

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