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日本経済は本当に「完全雇用」に近づいているのか?
失業率の「レジーム」の推移を考える

前回の当コラムでは、金融政策がインフレ率の「レジーム(簡単にいえば、人々がデフレ脱却を予想して経済活動を営んでいるのか否か)」にどのような影響を与えているかについて、「フィリップス曲線(ここでは、経済全体の需給ギャップを示す指標である「GDPギャップ」とインフレ率との関係を示したもの)」を用い、さらにこれに「平滑推移モデル(「レジーム転換」の様子を示す手法)」を当てはめて考えてみた。

元来、インフレ率は、完全失業率などの雇用関連指標が改善する局面では、上昇基調で推移するのが「常態」であった。特に、日本では、このようなインフレ率と完全失業率の関係は極めて安定していた。だが、表面上の数字をみる限り、最近の両者の動きには乖離がみられる(完全失業率は大きく低下している一方で、インフレ率もむしろ低下気味に推移している)。

今回は、前回用いた「平滑推移モデル(LSTARモデル)」を完全失業率の動きに適用して、失業率の「レジーム」がどのように推移してきたかを考えてみたい(「平滑推移モデル」の概要については、前回の当コラムを参照いただきたい)。

⇒「日本経済は本当にデフレから脱却しつつあるのか?

 

完全失業率とGDPギャップの関係

そこで、完全失業率の動きをどのように考えるかであるが、より具体的には、今回は、完全失業率とGDPギャップの関係を表す「オークンの法則」を利用する。

「オークンの法則」は、「失業率ギャップ(完全失業率の実績値と自然失業率の差)」とGDPギャップの関係を示したものであり、ケネディ政権で大統領経済諮問委員を務めたこともある故アーサー・オークン氏が1962年に導き出した経験則である。経験則とはいえ、「経済学者が進んで法則と真顔で呼び数少ないものの1つである(ポール・クルーグマン氏による)」。

ところで、「オークンの法則」を導き出すためには、「自然失業率(景気循環とは独立して長期的に安定的に推移する失業率の均衡値のこと)」という目に見えない数字が必要となる。ここでは、「自然失業率」は、各レジームで一定であると仮定する。

すなわち、今回も前回同様、「インフレ・レジーム」と「デフレ・レジーム」の2つのレジームを想定するが、それぞれのレジーム内では「自然失業率」は一定であると仮定する。ちなみに、この仮定を用いると、「自然失業率」はモデル上で同時に推定可能となる。

さらに、今回、完全失業率のレジーム(「インフレ・レジーム」と「デフレ・レジーム」)を転換させうる要因(変数)として、①金融政策要因、②為替レート、③労働需給(日銀短観の雇用人判断DIの加工値を用いる)、④過去3回の消費税率引き上げ、を考慮する。

また、金融政策要因としては、前回同様、マネタリーベース(前年比)を用いる(ちなみに、金融政策の変数として、マネタリーベースではなく、政策金利を入れた場合、有意な結果にはならなかった)。

消費税率引き上げ要因は、消費税率引き上げダミー(消費税率引き上げ前を0、引き上げ後を1とする)を3つ(1989年、1997年、2014年それぞれにダミー変数を導入する)を用いた。

これも前回同様だが、学術論文ではないので、具体的なテクニカルな説明の部分はかなり捨象する。