未除染森林の火災を巡る「デマ」批判の土壌

福島県は汚染地域では雨で線量は低減すると認めた(図:福島県)

福島県は雨が降ると空間線量は「上昇」すると説明してきたが、実は、汚染地帯では「低減」すると認めた。それなら、未除染の山林火災後の「上昇」は(微増とは言え)、山火事の影響だったことを否定できない。経緯を記録する。

福島県浪江町の帰還困難区域で4月29日午後に発見された十万山での火災は、5月10日に鎮火したと福島県は発表した。その間、筆者は山火事発生後の線量変化の見える化を試みた。福島県の環境放射能監視テレメータシステムのデータを使い、縦軸に「線量率」、横軸に「0時~24時」に置き、それぞれ4日間、10日間のグラフを重ねた。

■火災発生後4日間の変化(5月3日配信)

消火活動続行中:帰還困難区域の山火事を教訓に国が行うべきこと

■火災発生後10日間の変化(5月9日配信)

帰還困難区域の山火事は何を物語るか

グラフをありのままを見てもらい、これらは数キロ以上離れた地点のグラフであり、二度とも「国は火災現場で消化活動にあたる人々の被曝線量や、消火活動現場での線量を調査・公開した上で、避難指示が解除された区域での未除染の森林火災を想定し、自治体や住民参加のもとで、住民避難や消火態勢などの対策を取るべきだ」(5月9日)などと報じた。

「デマ」批判の論拠

ところが、これらを「上昇したと煽っている」と解釈し、「デマ」だというコメントがツイッターで寄せられた(*)。中身とは関係がない中傷もあったが、中には、(1)線量率の上昇は雨が原因だ、(2)火事前でも今回以上の大きな変動がある、などその論拠が示されたものもあった。

今回は、火災現場から最短の1地点(双葉町上羽鳥)のグラフに、矢印で火災確認時点と降雨開始時点(4月29日と5月1日)を書き加えたものを見てもらった上で、その後について記録しておく。

福島県の環境放射能監視テレメータシステムを元に筆者作成
福島県の環境放射能監視テレメータシステムを元に筆者作成

(1)「上昇は降雨のせい」という指摘

「線量率の上昇は雨が原因ではないか」との指摘の論拠は、福島県の原子力用語集だった。その用語集で「降雨」の欄に、「一般的に降雨、降雪時には、空気中に舞い上がっているチリに含まれる自然の放射性物質が、雨や雪とともに降下し地表面に集められるため、一時的に空間線量率は上昇します」と下図と共にあった。

だから火災が原因ではないとの指摘だ。

原子力用語集「感雨(降雨)」より抜粋
原子力用語集「感雨(降雨)」より抜粋

しかし、「一般的に」「自然の放射性物質が」雨で降下する現象(上グラフ)と、原発事故後に通常の数倍から10数倍の線量が観測されてい地域(下グラフは1年の線量率変化)の現象を同一視することは適切だとは思えない。

また、上グラフの目盛りが正しければ、雨で最大30ナノグレイ/時(0.024マイクロシーベルト/時)程度、上昇することになる。筆者は0.05マイクロシーベルト/時程度の地域に暮らしているが、雨で線量が0.07以上になったというデータを持ち合わせないので、一般論でそう言えるのかどうかさえ、分からない。

過去1年間の減衰の様子をグラフ化(福島県の環境放射能監視テレメータシステムのデータより筆者作成)
過去1年間の減衰の様子をグラフ化(福島県の環境放射能監視テレメータシステムのデータより筆者作成)

(2)「火事前でも今回以上の変動」という指摘?

一方、「火事前でも今回以上の変動があった」との指摘には、上羽鳥地点の30日間の増減グラフが示されていた。そこで、火事後の変動より大く変動している火事前の変動を見ると、たとえば4月17日の降雨後を見ると、「上昇」より「下降」が目立った。火事後の変化と比較するために、縦軸の目盛りを合わせて24時間グラフを作ってみたが、やはり「上昇」より「下降」が目立ち、「下降」ぶりは、グラフから飛び出すほどだった。

4月17日の降雨後(福島県の環境放射能監視テレメータシステムのデータより筆者作成)
4月17日の降雨後(福島県の環境放射能監視テレメータシステムのデータより筆者作成)

そこで、グラフがはみ出さないよう縦軸を調整したのが下図だ。翌4月18日朝5時台まで断続的に降り続く雨だった。

4月17日の降雨後(福島県の環境放射能監視テレメータシステムのデータより筆者作成)
4月17日の降雨後(福島県の環境放射能監視テレメータシステムのデータより筆者作成)

「雨」を安心材料に利用?!

この間、福島県は、4月29日の火災発見後に「周辺環境に影響が及んでいる事実は一切ありません」と否定した一方、現場近くにモニタリングポストを設置したのは、5月5日と出遅れていた。

表現はやがて「大きな変動はありません」に変わったが、公表結果を見た読者からは、「大気浮遊じん(ダスト)の放射性セシウム値も上昇している」と指摘があった。第11報を見ると、指摘通り、「石熊公民館」地点では、「5月8日に7.63mBq/m3にまで上昇」し、前日と比べれば9倍近い変動のある日があった。

第11報「表2 大気浮遊じん(ダスト)の測定結果)より」抜粋、赤枠は筆者加筆
第11報「表2 大気浮遊じん(ダスト)の測定結果)より」抜粋、赤枠は筆者加筆
第11報の地図より抜粋(★は筆者加筆)
第11報の地図より抜粋(★は筆者加筆)

そして消火活動により10日に鎮火。県の第13報以降は「降雨による減少」という表現が見られるようになった。原子力用語集では、雨が降ると「上昇」すると説明してきたのに、図1や図2(第16報)は真逆の説明になっている。これでは「影響がない」という主張に「雨」が都合よく使われている、とでも言う状態だ。

第16報「図1 十万山近傍に設置した可搬型モニタリングポストの測定結果」より抜粋
第16報「図1 十万山近傍に設置した可搬型モニタリングポストの測定結果」より抜粋
第16報「図2 火災現場周辺のモニタリングポストの測定結果」より抜粋
第16報「図2 火災現場周辺のモニタリングポストの測定結果」より抜粋
第16報「図2 火災現場周辺のモニタリングポストの測定結果」より抜粋
第16報「図2 火災現場周辺のモニタリングポストの測定結果」より抜粋

そこで、福島県原子力安全対策課の放射線監視室に取材した(Q:筆者、A:放射線監視室)

Q:浪江町の火事 第16報を見ると、図1、図2で「降雨による低減」とあって、「降雨があると線量が下がる」という理解でよいですか?

A:そういったところです。通常、線量が低い地域ですと、天然核種が大気中にあったものが落ちてきまして、線量があがるんですけれども。

ただ、今回の高い、十万山登山道入口(浪江町側)、7から9マイクロシーベルト/時ぐらいある地域ですと、雨が地面にたまり、地面から出るガンマ線核種を妨げますので、それによって線量が低減するといったようなところです。はい。その詳しい説明は書いていなかったんですけれども、「降雨による低減」というのはそういったところです。

Q:すると、もう一方で、福島県が提供している環境放射能監視テレメーターシステムの中で「原子力用語集」があって、その「降雨」ところを見ると、「上昇します」とありますが、これに今仰った点を書き加えるというか、訂正する方が誤解がないと思うのですが。

A:そうですね。確かにそれはあります。

Q:ですよね。いつぐらいに訂正加筆されますか?

A:第16報が最終報と考えていまして、今のところ、そういった意見もあまりなかったので、加筆する予定がなかったんです。今回、お電話いただいたことを元にして、加筆修正はあるかもしれないので。

Q:もし加筆修正するとしたら、今回の最終報の加筆もいいと思うが、いつでも誰でも何かあったときに見るのが、このテレメータのデータだと思うんですね。加筆訂正するなら、むしろ、こちらなのかなと思いますが、そこも含めてご検討となりますか?

A:そうですね。

デマ批判を含めて、一連のやり取りから以下の3点を指摘したい。

1.従来、福島県は一般論として、雨が降ったら線量が「上昇」すると説明してきたが、実は、少なくとも、汚染地帯では、逆に「下降」することを認めた。

ならば、その逆で、汚染地帯で雨で「上昇」するとしたら、空間線量を上昇させるなんらかの理由が、他に生じていることになる。今回、それは火事だった可能性を否定できない。

2.3度繰り返すが、今回の火災は、帰還困難区域の火災である。「国は火災現場で消化活動にあたる人々の被曝線量や、消火活動現場での線量を調査・公開した上で、避難指示が解除された区域での未除染の森林火災を想定し、自治体や住民参加のもとで、住民避難や消火態勢などの対策を取るべきだ。」無防備な帰還政策は見直されるべきだ。

3.東電の福島第一原発事故以来、事故の「影響」を語ることに対しては、「風評被害」などを理由に過剰反応が起きて、冷静にデータをもとに議論をする環境が阻まれている。

公共政策は人々に押しつけるものではなく、正確な情報をもとに、人々の参加と協議の上に、合意形成されるべきものだ。それは遅くとも1990年代以降の国際社会の潮流だが、この件に限らず、日本政府にその認識が根付いていないと思われることが散見される(**)。

そのことが、根拠と冷静さを欠いたデマ批判の土壌にもなっているのではないか。

(*)筆者の配信記事以外でも、警戒を呼びかける記事に対して、他メディアがバッシングしたケースもあったようで、「福島の山火事で“放射性物質拡散”はデマ? 大手メディアの危うい報道姿勢」(週プレNEWS 5/14(日) 6:00配信)などと報じられている。

(**)菅官房長官、国連特別報告者を「個人」呼ばわり、「質問」に抗議(筆者既報)