韓国が開発を全面請負い、北朝鮮が市場経済を学習するモデルケースとして米国務省も注目する開城(ケソン)工業団地に、日本の資本が韓国企業との合弁で進出しはじめた。
欧州系企業はすでに入居しているが、日本企業もその有利な投資環境、将来性を無視できなくなった。
韓国政府が先月28日、明らかにしたところによると、日韓合弁企業のヒロセコリアが先月の追加分譲で入居企業に選定された。
日本資本は、05年に試験団地に入居したテソンハタに次いで2番目となる。
テソンハタは化粧品容器を生産する。韓国のテソン産業と日本のハタ社の合弁企業で、ハタ社が10%の株式を所有している。入居してから昨年まで、ハタ社の日本人職員2〜3人が工業団地に常駐しながら北朝鮮労働者に技術指導をしてきた。
試験団地で操業中の23社の一つで、資本規模は微々たなものだが、他の日本企業がテストケースとして注目してきた。
続いて進出を決めたのがヒロセコリアだ。
1985年に韓国の大徳電子と日本のヒロセ電機が折半出資で設立、電気コネクタ、リードフレームなどを製造している。
ヒロセコリアの関係者は「中国での人件費が急上昇し、開城工業団地がソウルから1時間の距離にある点などを考慮し、進出することになった。通関手続きなどで不便な点もあり、現在のところ正確な投資規模は決まっていない」と語ったという。
ヒロセコリアは、中国山東省威海輸出加工区でもWHK社を運営している。
http://japanese.joins.com/article/article.php?aid=89745&servcode=500§code=500
株式会社ハタは年商26億の中小企業だが、ヒロセ電機は1937年創業の東証一部上場企業で、年商1000億規模である。
同社の進出は他の大手日本資本進出の誘い水となる可能性がある。
国際競争力向上が至上命題の企業にとって、開城公団が魅力的な投資先であることは間違いない。
そこには低廉で高質の労働力が、北朝鮮から供給される。現在、同団地には試験団地を含め26社が操業し、約1万6000人の北朝鮮労働者が働いている。
平均賃金は基本給が社会保険料15%を含め57.5ドルである。8月から5%引き上げられ、60.375ドルになるが、中国の半分以下の安さだ。
労使関係も順調だ。
賃金は韓国側の開城工業地区管理委員会北朝鮮側の中央特区開発指導総局が、話し合いで決める。北側は04年末の工団稼動以来、数度にわたり賃上げを要求したが、今月3日、初めて5%引き上げで合意した。
賃金は前年度の5%を超えて引き上げることはできないとする労働規定が存在し、当初、15%の引き上げを求めた北側も折れた。北朝鮮には契約という観念が希薄なので韓国側も苦労したが、徐々に学習効果が現れている。
現代峨山(アサン)は昨年6月、大韓貿易投資振興公社(KOTRA)とともに同団地で初めて外国企業を対象とした投資説明会を開催した。
説明会にはオランダのフィリップス電子や英ハチソンなど100社余りが参加した。現代峨山は4万坪を外国人投資地域に指定し、3〜4社誘致を目標にしたが、その後のミサイル、核実験で状況が一変し不調に終わった。
しかし、昨年暮からの米朝対話ムードで流れが変わり、韓国政府も7月から外国企業の誘致に力を入れ始めた。
低廉な人件費に加え、北東アジアの中心に位置するため物流費用でも中国、ベトナムをしのぐ潜在的競争力を持っている。
韓国がインフラ整備を全面支援しており、電力などは問題ない。製品は陸路で韓国に運ばれ、従業員用のシャトルバスが毎日ソウルとの間を行き交う。コンビニエンスストアーや郵便局などもオープンした。
韓国が精力的に進めているFTA交渉でも、開城工団の生産物品に対して原産地認定と特恵関税付与が盛り込まれている。
今年6月に締結した米国とのFTA協定にも別途に特別規定が含まれ、将来的に対米輸出の道が開かれる可能性がある。
すでにチリ(04年4月)、シンガポール(06年3月)、 EFTA(=アイスランド共和国、リヒテンシュタイン公国、ノルウェー、スイス連邦。06年9月)とのFTAでは効力が発生している。
南北交易は開城公団だけが孤島のように浮かんでいる観があったが、後背地も広がってきた。
例えば、現代峨山の元副会長(金潤圭)が設立したアチョングローバルコーポレーションは7月19日、南北を貫通する京義線道路を利用し、北朝鮮の農水産物や加工品を陸路で韓国に搬入した。ワラビ・タラの和え物、クズ冷めん、ソバ冷めんなどが11トントラックなど3台で輸送されたという。それまでの南北交易は開城公団や金剛山を除き、中国経由か週1回の南浦〜仁川、羅津〜釜山間船便しかなかった。
今後、開城と江原道・高城に大規模な農産物流通センターが設立される予定で、物流期間の大幅短縮による物流コスト削減と新鮮な海産物の搬入が可能となり、日本に禁輸されたアサリなども韓国市場に流入する。
韓国貿易協会が発表した報告書「6.15宣言7周年 南北貿易推移の分析」によると、2000年の南北首脳会談で発表された6・15宣言以降、南北貿易は年間平均24・3%増え、貿易規模は3倍以上に増加した。南北貿易が韓国の対外貿易に占める割合はは0・13%から0・20%に増え、支援物資など非商業的取引を除いた商業的取引も60%から69%に増えた。
04年以降は開城工団地製品が主要貿易物品になっている。
無論、今後解決すべき問題点も少なくない。
至急克服すべきは、契約に関する北朝鮮側の未熟さである。
開城工業地区管理委員会と統一部開城工業団地事業支援団などによると、先月、韓国国務総理室と環境部当局者、金融機関関係者ら250人の同公団訪問が、北朝鮮側が「上層部の指示」と不許可にし、中止された。監査院関係者150人とウリ銀行関係者60人も開城工団と開城市内観光に向かおうとしたところ、不許可になった。
抗議を受けて北朝鮮は禁止措置を撤回したが、開城の名刹・霊通寺への聖地巡礼定例化にからむトラブルが背景にあったとみられている。北朝鮮は韓国の天台宗に対して霊通寺巡礼を毎週数回、1回500人1人50ドルで認めることで合意したが、韓国政府当局が開城観光事業に対して独占的権利を得ている現代峨山への配慮から月1回の実施に縮小するように行政指導した。
それに対して報復したとの見方は恐らくあたっていよう。北朝鮮では、政治的解釈は常態化しているからだ。
韓国側の問題は融資だ。
南北合弁会社の第1号「ピョンヤン・デマ紡織」を設立し、ピョンヤンなどで委託加工事業を展開する韓国中小企業主の集い「南北経済協力交流会」の会長である安東(アンドン)デマ紡織のキム・ジョンテ会長は、政府融資の拡大を求める。
デマ紡織は、01年に北朝鮮農業科学院に肥料などを送り原料生産を開始した安東デマ紡織は、03年に北朝鮮のセビョル総会社が建設した工場に織機など60億ウォンを投資、靴の副材料などをピョンヤンで委託加工した。330人だった職員は1000人まで増え、工場で使われるアサ裁培農家は4000世帯にのぼる。現在は織機を88台にして生産ラインを増強中であり、駐在員も常駐させる。
だが、今後1年間で機械の修理費、電気・空気浄化施設建設など約20億ウォンの追加投資が必要だが、南北協力基金からの支援13億ウォンの支払期限が迫り、「住宅まで処分し、余裕がない」。
在日企業によくあった話である。インフラ整備などで資金がショートし、大半が倒産に追い込まれたのであり、韓国政府の対応が甘いと同じ問題が起きる。
91年から06年9月まで韓国政府が支出した南北協力基金は4兆1253億ウォンだが、大半が開城工団入居企業に回され、民間の経済協力事業に融資されたのは1871億ウォンでしかない。
年間10億ドルの南北交易の40%が中小企業約500社による委託加工事業とされるだけに、実情に即した柔軟運用が必要であろう。
そうした個別的な問題点があるにせよ、開城工団は今後ますます有望な投資先となる。
価格高騰と確保難で日本企業が悲鳴を上げているレアメタル確保やIT人材確保という戦略的次元からも、そのメリットは極めて大きいものがある。
日本企業の対北朝鮮への進出に関しては経済制裁との関連や国民感情の反発を憂慮する声があるのも事実だが、朝米関係正常化、それに伴う日朝関係正常化を見越した布石を打つ時期に来ていることだけは間違いあるまい。
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>それに伴う日朝関係正常化を見越した布石を打つ時期に来ていることだけは間違いあるまい。
2.13合意以後、中国、韓国、ロシア、EU諸国の石油資本をはじめとする大企業が北朝鮮での石油採掘権獲得やその他の目的でピョンヤン詣を一斉にはじめた。彼らは手ぶらで行く訳には行かないので車輌や設備等を数百万ドル分を名刺代わりに持って行くのだが、この“名刺”を提供してあげたのが全て在中日系企業です。(中国のトヨタとか、NISSANとか…)日本では対北制裁に熱狂している真っ只中です。在中日系企業達が数十億円にも達する物資が制裁している対象国に無償で供給されるのだと知りながら世界の大企業達の“名刺”を提供して大もうけしました。これだけの事を経済産業省が知らない訳がありません。よく在日朝鮮人企業の貿易を取り締まれとか言いますが、これってどうなんですかね?やはり経済人の方が冷静で強かなのでしょうか?
2007/8/6(月) 午後 1:15 [ にわとり ] 返信する
政治や国境を超越した多国籍企業になれば、安倍の制裁などは眼中にもないでしょう。朝鮮も先軍でなく先経済政策に焦点を変えれば、何とかなるでしょうに。金正日は軍部の虜にされて、思うままに出来ないのでしょう。開城工団が成功すれば、改革開放の一助になると思うがな。
2007/8/6(月) 午後 1:55 [ johnkim ] 返信する
金正日政権が、改革開放が政権崩壊を導くとの被害妄想を抱いている限り、改革開放、経済復興は画中の餅でしょう。
2007/8/6(月) 午後 2:06 [ johnkim ] 返信する
核武器を餌に経済援助を獲得しようとするのは、浅はかなことである。経済復興は自力に頼るべきであり、方法は中国式の改革開放しかない。しかし、それは金正日にとっては、命掛けの賭博であろう。その勇気がないか?
2007/8/6(月) 午後 2:21 [ johnkim ] 返信する
確かに、北朝鮮の安くて従順な労働力は企業にとって魅力的でしょう、しかも、韓国、日本、中国と大消費地も近く、海を越えれば米国にも繋がる、経済発展の潜在性はかなりあるでしょうね。後は、政治がどう動くかですが、将軍様のさじ加減を我々にとって有利な方向に持っていく為の戦略が必要でしょう、その答えが最近の米国政府の政策なのかもしれませんね。
2007/8/6(月) 午後 5:32 [ skywave1493 ] 返信する
金正日は市場経済化がカネになるとしたたかに計算していますよ。
コラムにある韓国企業の進出、「2.13合意以後、中国、韓国、ロシア、EU諸国の石油資本をはじめとする大企業が北朝鮮での石油採掘権獲得やその他の目的でピョンヤン詣を一斉にはじめた」などを許可しているのは彼ですからね。
2007/8/6(月) 午後 8:26 [ 読者A ] 返信する
同感です。市場経済化は明らかに金正日に莫大な利益をもたらしていますね。
先軍政治ですが、イラクのような混乱を避け、政治的安定をもたらした点ではやむをえない面があったかなと思います。
管理人さんが指摘するように朴正煕型の開発独裁に向かっているのではないでしょうか。
2007/8/6(月) 午後 8:38 [ リピーター ] 返信する
ですね。
日本のマスコミが使いたがる定番の市場経済化=金正日体制崩壊論では単純すぎて、説明不能でしょう。
2007/8/6(月) 午後 9:16 [ 読者A ] 返信する
「新航路寄港先に境港が名乗り 働き掛けへ市長訪中」、日本海新聞、2006.07.05
http://www.nnn.co.jp/news/060705/20060705003.html
「トロイツァ−新潟の航路は琿春進出の日系企業が中心になって開設を目指しており、同振興会は琿春の物流、荷主企業に対して関西圏を背にした境港の地理的優位性をPRし、荷の確保を図ると同時に、寄港地に選定されるための条件面を把握する考え。現地では境港市と友好都市提携を結ぶ琿春市人民政府なども表敬訪問し、意見を交わす。
境港の新航路の開設をめぐってはトロイツァをはじめ、ロシアのウラジオストクや北朝鮮の羅津、韓国の東海、束草の各港を結ぶ「環日本海国際定期航路」(仮称)の構想があり、関係都市がその実現性を調査研究中。中村市長は「中国は現在、(貿易航路を)日本海側に持とうと(羅津港に)投資している。トロイツァ−新潟の航路が境港にも寄港し、環日本海国際定期航路が実現するよう取り組みたい」と話している。」
2007/8/9(木) 午後 4:02 [ - ] 返信する
「日本海横断航路:4カ国合弁の運航会社、来月設立 日本側は16%出資 /新潟」、毎日新聞、 2007年7月9日
http://www.mainichi-msn.co.jp/chihou/niigata/news/20070709ddlk15010136000c.html
「就航時期については、実質的に主導権を握る韓国側が「9月中旬をめどに」と要請。しかし、新潟で使用が予定されている新潟西港中央ふ頭の整備や、CIQ(税関、入管、検疫)への手配などから日本側の準備が間に合わないため、実際は更にずれ込むという。同社の関係者は「運航に向けた枠組みが決まってよかった。就航時期は、日本の調整次第」と話す。
航路は韓国の「東春(ドンチュン)フェリー会社」が運航するトロイツァ−束草の定期便のうち、週1便をチャーターして新潟経由の三角航路にする構想。トロイツァからウラジオストクに立ち寄る間、陸路で中国東北部を往復するため、4カ国を結ぶ輸送路となる。【黒田阿紗子】」
2007/8/9(木) 午後 4:07 [ - ] 返信する
「第5部 表玄関への道―北東アジア編 第3回 韓国・束草 「大動脈」へ期待感 高い利便性 新事業模索」、新潟日報、2007年05月16日掲載
http://www.niigata-nippo.co.jp/rensai/n70/n70h5k3m1.html
「新航路構想は当初、中国東北部を後背地に持つロシアと、新潟との直行便を目指した。それが船舶を決める際に、ロシア・トロイツァ―束草航路でノウハウを持つ「東春フェリー」(ソウル)が名乗りを上げたため、日ロ韓を結ぶ「三角航路」になった経緯がある。」
「既存の束草―トロイツァ間の旅客利用の主力は「ポッタリ」(ふろしき包み)と呼ばれる運び屋たちだ。新航路でも、当面は彼らが旅客の大半になるとみられている。
束草港で段ボールを担ぎ上げた男性(48)は、ポッタリ歴6年。5―7人で班を組み、貿易商から頼まれた家電製品や野菜類などを「個人手荷物」扱いで双方の港から運んでいる。週4回は船中泊。「さまざまな国の人と知り合うことができ、楽しいことは多い。荷物があれば新潟にだって喜んでいくよ」」
2007/8/9(木) 午後 4:16 [ - ] 返信する