家計バランスシートの使いどころを誤解しないように
どうも千日です。住宅ローンを組むにあたって家計を見直そうと、色々調べているうちに一度は目にしたことがあるかもしれません「家計バランスシート」。
家計バランスシートとは何か?まずはバランスシートから説明しておきましょう。日本語では貸借対照表といい、企業の決算日時点の財政状態を一覧表示する決算書の一つです。
企業を家計に置き換えて作ってみようというのが、家計バランスシートです。
- 左側が資産です。現金預金や機械や備品、不動産などを書きます。
- 右側が負債です。借金です。
- 差額が純資産
家計でも企業のようにバランスシートを作れば資産、負債などの状況が一目で分かり、対応策を考えやすくなると言えるかもしれません。千日も記事の中で何度かこのバランスシート(貸借対照表)を使って住宅ローンの実体を解説しました。
分かりやすいんですよね。
しかし、使いどころを間違えると全然役に立たないどころか我々の判断をミスリードしてしまうのが、この家計バランスシートです。特に住宅ローンの判断をする際には注意が必要なのですよ。
今回は千日の住宅ローン無料相談.comからのスピンオフ企画です。丁度この家計バランスシートの使い方をご説明するのに良いご質問がありました。
では始めますね。
- 家計バランスシートの使いどころを誤解しないように
- まとめ~家計バランスシートが債務超過になった?
相談:資産運用との兼ね合いでベストな住宅ローンとは?
ブログ記事興味深く拝読させて頂いております。新築するにあたり相談させてください。物件は新築の注文住宅で6月着工12月引き渡し予定です。
家族構成と年収
- 私 35歳会社員 年収600万円
- 妻 35歳会社員 年収480万円
- 子 0人(1-2人は欲しい)
借入金に対する自己資金と頭金
- 必要資金 3,200万円
- 頭金 200万円(貯金額は1,500万円)
- 借入 3000万円(つなぎ融資不要) 35年ボーナス払い無し
頭金を600万円まで増額することは可能ですが、個人の資金調達として低金利の住宅ローンは非常に優れていると思いますので、フルローンに近い形での借り入れとしたいと考えています。
年利1.2%固定で計算して15-17年で残債と貯蓄額が釣り合うかな?と思っています。
老後資金の資産運用と住宅ローンの兼ね合いでベストな選択とは?
悩んでいるのは、資産運用を絡めて老後資金の形成を考えた場合です。
現在10年間ほどの実績ですが、投資信託などの金融商品で安定した利回りでの資産運用が出来ています。元本割れのリスクが低い商品を主体にしているのですが、利益部分についても当然いつまで続くかはわかりません。
金利方式の選択に迷っております。
①変動金利で借りて、金利が許容範囲を超えた場合は繰り上げ返済で圧縮
②10年固定で借りて、10年後の適用金利が許容範囲を超えた場合繰り上げ返済
③30年、35年の長期間固定で借りる
住宅ローンを返す事を主眼に置くと②or①が良い気がします。
この運用を継続する事を考えた時に、③の方法で長く安く借りて運用元本を高く維持した方が得ではないかと悩んでいます。
千日様のご意見をお聞かせいただけないでしょうか?
回答:住宅ローンと資産運用は別々のバランスシートで考えます
ではお答えしていきます。「資産運用と住宅ローンは切っても切れない関係にある」と誰が言ったは知りませんが、どちらも『金利』という要素がありますので、同じステージで考えることが可能です。
お悩みのポイントは、住宅ローンの金利タイプをどうするか?という選択の基礎になる部分のモヤモヤです。まずはこの点をクリアにしておきましょう。
資産運用と住宅ローンを一つの会計(バランスシート)で考えると落とし穴にはまる
資産運用と住宅ローンは切っても切れない関係にあると言う人の頭の中には、下記のようなバランスシート(貸借対照表)があるのだと思います。
とても分かりやすい仕組みですが、この考え方をそのまま個人の資金計画に当てはめることには、千日は懐疑的です。
ダメな所を挙げだしたらキリが無いほどあるんですけど、最も致命的な欠陥は「資産」の項目に全く性質の異なる老後資金(運用)とマイホームが並んでいることです。
営利企業の目的は「営利」
営利企業に共通の目的は「営利」です。この貸借対照表は営利を目的とする企業の価値の測定や意思決定に使えるように発展してきたものです。
そして貸借対照表で言うところの「資産」とは現在所有することで、又は将来売却することで企業に利益をもたらすものなんです。
「営利」という共通の目的を達成するために持っているものだから、一つの表に一覧することで把握するんです。
マイホームは営利目的で所有するものではない
では、我々の場合はどうでしょうか?
運用している老後資金は、一定の利回りで増やすことを目的としていますね。「営利」に近い考え方をとっても問題無さそうです。
では、マイホームは?
持っていても1円も『儲け』はありません。なのに負債の住宅ローンを負い、利息というコストを払って所有しているものなんです。「企業会計的にはあり得ない資産」なんですよ。
例えるなら、タクシー会社の社長が会社名義のローンで2人乗りのスーパーカーを購入して乗り回すようなものです。
それは自分のカネ(サイフ)でやってくれよ。
こうなりますよね。
つまり、所有目的の異なる資産を同じバランスシート(貸借対照表)に並べるのは、やろうと思えばできます。無意味とまでは言いません。
- 今この瞬間に全てを清算したら幾らの現金が残るかを知る。
こういう機能はあります。しかし今はそれが知りたい局面ではありませんよね。
資産運用と住宅ローン、それぞれのバランスシートの考え方
千日がお勧めするのは、資産運用と住宅ローンを別々に分けて考えるというものです。これは企業会計というよりは、官庁会計に近い考え方かもしれません。
官庁会計は税収を目的別に「会計」に振り分けて記録します。
例えばバランスシート(貸借対照表)は次のように目的別に2つ出来るということです。
資産運用のバランスシート
借金をしてまで投資する人はごく少数派ですから、資産=純資産という貸借対照表になるでしょう。利回りがプラスであれば資産=純資産は増えていくというものですね。資産を増やすことがこの会計の目的です。
借入が無ければ、純資産がマイナスなんてことはあり得ません。
住宅ローンのバランスシート
マイホームの購入には住宅ローンがひも付きで付いてきます。つまり資産としてのマイホームの財源は住宅ローンという負債ということです。
この会計では資産の利回りというものは存在しません。少子高齢化の人口減少によって基本的に土地の市場価格は下がっていきます。そして建物の価値も経年劣化によって下がっていきます。
これを動的に表現すると、こんな感じですね。
資産の価値が下がるより早く住宅ローンの元本を減らしていけば、債務超過にはなりません。ちなみにこれについて詳しくはこちらで書いていますので、ご一読ください。
もう少し突っ込んだ話をすると、債務超過になってもいいんです。
というか、住宅ローンを組んているほとんどの人は初めは特に債務超過です。
購入するのが新築住宅だとすると買った瞬間に価値が2割から3割下がりますから、フルローンとか頭金1割程度であったら、最初からこのバランスシートは債務超過なんです。
約定の元利均等返済をつつがなくやっていれば、会社のように融資を止められたりはしません。
大事なことなので繰り返しますが、債務超過になってもいいバランスシート(貸借対照表)なんですよ。
住宅ローンのタイプ別の考え方
では、次のご質問の部分に参りましょう。住宅ローンの金利タイプ別の考え方です。会計としては資産運用と住宅ローンは別々に考えますけど、収入は一本です。
判断の基準は以下の二つです。
- 長期間の住宅ローンを完済できる可能性とそのスピード
- 少子高齢化社会での老後の生活資金をより多く残せるか
変動金利はスピードが速い半面、老後の生活資金にリスクを取る選択
変動金利は最も金利が安いですから、元本の減少スピードは最速です。ただし金利上昇リスクに備えるために、返済額の25%を老後資金とは別に貯蓄することをお勧めしています。
もしも金利が上がらない場合は、この貯蓄が老後資金にオンされますよね。プラスαで老後資金を増やせる可能性があるという点に魅力を感じるならば、変動金利がお勧めであると思います。
シミュレーションしました。
《前提条件》
- 借入元本3,000万円
- 返済期間35年
固定期間終了後の金利は現在の変動金利の基準金利をベースにしています。なのでこの通りの総返済額になるということではありません。
(単位:円)
総返済額の変動金利との差に注目してください。もしも変動金利が上がらなければ、以下の金額だけ老後資金を増やすことが可能ということです。
- 変動金利は10年固定よりも206万円支払いが少なく済む。
- 変動金利は30年固定よりも325万円支払いが少なく済む。
10年固定は金利負担の最小化を最優先する半面、10年後の支払いにリスクを取る選択
10年固定もまだまだ金利が安いです。その安い金利が10年固定されるということです。
10年後の金利がどうであれ、そのまま借りたままの可能性がある場合は、最初から変動金利にしておいた方が金利の負担額という点では正解です。
- 10年後に多額の繰上げ返済をする。
- 10年後に金利交渉して優遇幅を自分だけ拡大してもらう。
- 買い替えてリセットする。
このどれかを行わないと10年固定を選ぶ意味がありません。上記の中で自分が最もコントロールしやすいのが一つ目の多額の繰上げ返済ですね。
シミュレーションすると以下のようになります。
《前提条件》
- 借入元本3,000万円
- 返済期間35年
10年固定、30年固定はそれぞれ固定期間が終わった瞬間にその時の残高を全額繰上げ返済するという条件です。
(単位:円)
10年固定が最も返済額が少なくなますね。
しかしその反面、10年後の繰上げ返済は支払い面で大きなハードルを自ら課すということです。その時に「繰上げ返済に使ってもいい」という、まとまったキャッシュが用意できないリスクがあるのです。
その代わりに利息の負担を確実に少なくできるというメリットがあります。これを極限まで突き詰めた方法が10年と20年のミックスローンということです。
ミックスローン10年固定と20年固定の金額割合はどうやって決める?
確実に金利負担が安くなりますが、そもそも固定金利の水準が低いので人によっては、そんなに魅力を感じないかもしれません。これは実際に金額を当てはめて総返済額が幾ら変わるかをシミュレーションしてみれば分かります。
また、住信SBIなどのネットバンクは10年20年のミックスローンには少し向いていません。こちらをご一読ください。
保証料に相当する融資手数料2.16%は文字通り手数料なので、繰上げ返済しても返ってこないんですよね。
三井住友信託も一部繰り上げ返済では保証料は返ってきませんが、ワンライティングミックスローンによって手数料が抑えられるのと、2回目に繰上げ返済したときに保証料が返金されるのです。
10年とセットにする中長期の住宅ローンとしては20年固定と30年固定がありますが、20年固定が1%、30年固定が1.05%で0.05%しか変わりません。例えば30,000,000円を35年返済で比較すると、以下のようになります。
(単位:円)
あんまり変わらないですよね。
30年、35年の超長期固定は支払面をフィックスさせる半面、少し割高
完全に金利が固定されています。これは支払額が固定されるということです。ですから資金計画が立てやすいということですね。
変動金利との比較では、老後資金でプラスαの貯蓄が出来るというメリットがありません。その代わり金利が上がることで繰上げ返済資金を別途用意する必要もありません。
10年固定との比較では、支払にリスクを負う必要がありません。その代わり利息の負担は少し割高になるということです。
以上、参考になれば幸いです。
まとめ~家計バランスシートが債務超過になった?
いかがでしたでしょうか。資産運用と絡めて考えると、頭がこんがらかってくるんですが、それはそもそも目的の異なる資産を並べているからなんです。
会計の世界では負債にある借入金は資産を調達する手段と考えます。
我々が借入金で投資信託を購入するなんてあり得ないんですが、企業会計の世界では例えば証券会社や保険会社なんかだと普通にあり得ますよね。これは営利企業が「営利」だけを目的にしているからです。
家計バランスシートは『一覧してみる』という所までは役に立ちますが、それをさらに意思決定に利用するのは間違いなのです。
家計が債務超過にならないように…
たまにこんなことを言う『専門家』や『アドバイザー』が居るかもしれません。
イヤイヤ、住宅ローン組んだら、まずその時点ではみんな債務超過です。住宅ローンのバランスシートに関しては『債務超過』が即問題にはならないんですよ。
どのタイミングでも債務超過にならないようにすれば、より安全性が高いとは言えますが、それだけで浮足立つ必要はありません。
以上、千日のブログでした。
《あとがき》
このエントリーは今年の冬に出版予定の家の買い方指南書の備忘メモとして書いたマイホームとお金-千日メソッド カテゴリーの記事一覧 - 千日のブログ 家と住宅ローンのはてな?に答えるです。今後も本を執筆するにあたりヒントになることは今後このに書き貯めて行くことにします。
また、住宅ローンの相談に無料で答える千日の住宅ローン無料相談.comでは日々寄せられる実際の住宅ローンの相談に千日が答えています。色々な人のケースが参考になると思います。
自分のブログ以外では現在2つのメディアに寄稿しています。
住宅ローンの選び方[2017年]|ザイ・オンラインでは、各金融機関の住宅ローンの商品を比較したり、千日であればこういう借り方返し方をするというような実践的な内容を連載で取り扱っています。
住宅ローン | いえーる すみかるは住宅ローンと不動産会社選びの情報サイトです。いまさら聞けない住宅ローンの基本や何となくモヤモヤしていた疑問点などを分かりやすく解説する記事を不定期に寄稿しています。
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2017年5月23日