古都・鎌倉で「あじさい寺」として名高い明月院を探訪

2017.05.23

美しい自然と歴史の情趣が迎えてくれる鎌倉。どの季節に訪れても魅力たっぷりですが、梅雨どきに咲く花・あじさいを見ながらの古都の風情はまた格別です。あじさいの名所は長谷寺をはじめ数あれど、別名「あじさい寺」と呼ばれる北鎌倉「明月院」の美しさは実に圧倒されます。しのつく雨に憂いが漂う季節、空のように澄み切ったブルーに染まる世界へ訪れてみませんか。四季折々の寺の風情も併せて紹介します。

JR北鎌倉駅から徒歩10分。古都の風情と静けさに満ちた場所へ

JR鎌倉駅の隣駅、北鎌倉駅。改札を出て線路に沿ってそぞろ歩いていくと、小川沿いに伸びる明月院通りに出ます。途中に咲く季節の花々を愛でながらの散策も楽しいひとときです。
永暦元(1160)年に創建された明月庵が起源という「明月院」は、臨済宗建長寺派のお寺。あじさいの名所が多い鎌倉でもとくに名高く、別名“あじさい寺”と呼ばれるほどです。

「明月院ブルー」と呼ばれる、透明感あふれる青に染まる世界へ

▲あじさいの開花期は例年5月下旬から7月上旬まで続きますが、ピークは6月中旬から下旬ごろ。花を求めて訪れる多くの観光客で賑わいます
総門から境内へ入り、山門へ続く石段を進む一歩一歩が夢心地。参道の左右に手まりのようにころんと丸く咲くあじさいの花は、青一色です。
その名も「明月院ブルー」と呼ばれるこの青は、梅雨どきのしっとりした空気の中で、透明感と爽やかさを放つ清冽(せいれつ)さが魅力。およそ2,500株といわれるあじさいが一斉に咲き誇る眺めは、まさにこの日、この時季だけの花の絶景です。
様々な色や品種の花の競演を楽しめる「長谷寺」もあじさいで有名ですが、ここ明月院では青く咲く「姫あじさい」という名の品種で統一。一本一本挿し木で増やして、この世と思えないほど美しい花景色をつくりあげています。

この「姫あじさい」ですが、名付け親は、かの有名な植物学者・牧野富太郎(まきのとみたろう)氏。昭和3(1928)年に長野県戸隠で見つけたあじさいの可憐さを愛し、この名をつけたのだそうです。
一重大型手鞠咲きの「姫あじさい」。雪国生まれのあじさいの枝はしなやかでたれやすく、まるでおじきをしているように頭をたれ、訪れた人を迎えてくれます。花の色は咲き始めから次第に濃さを増し、澄み切った青から深いブルーへ変化するのだとか。雨の日をはじめ早朝や夕方の柔らかい光の中で、美しい姿を見せてくれます。

あじさいばかりでなく、四季折々の花が咲く明月院。境内全体が国の史跡

あじさいはもちろんのこと、花の寺と呼びたいほど、いつ訪れても四季折々の花が咲き、風情漂う明月院。また、低い山々の間に谷が多い鎌倉特有の地形「谷戸(やと)」の奥へ続く境内全体が、国の史跡に指定され見所もたっぷり。ここかしこに季節の花が生けられ、いつ訪れても歓迎の想いと優しさに包み込まれるようです。

ここから先は、あじさいとはまた趣が異なる季節の花の佇まいと共にご案内しましょう。

「悟りの窓」の向こうには、年に2度開放される「後庭園」が

山門をくぐると、すぐ左手に「方丈(ほうじょう)」と称される本堂があり、ご本尊の聖観世音菩薩がまつられています。ここにある円窓は、悟りや真理、大宇宙を円形で表現したもの。別名「悟りの窓」と呼ばれ、四季に彩られた「後(うしろ)庭園」の風景が切り取られ、その眺めはまるで一幅の絵のようです。
▲もみじ色づく錦繍(きんしゅう)の秋の眺めは実に艶やか

悟りの窓の向こうには、かつて関東十刹の一位だったという往時をしのばせる名園「後庭園」が広がっています。こちらは紅葉期の12月と、6月の花菖蒲開花期と、年に2度のみ特別公開。驚くほど広い園内に、6月に見ごろを迎える花菖蒲園の凜とした美しさも見事です。あじさいに境内が染まる時期、さらに奥の後庭園では、様々な種類の花菖蒲が咲き誇っているのです。
▲およそ3,000株の花菖蒲がいっせいに開花する初夏の眺めも圧巻
▲方丈前には枯山水の庭園が。晩春には、簡素な白砂の庭をしだれ桜が優美に彩ります

時がゆるやかに流れる旧本堂「開山堂」周辺でほっこり

方丈からさらに奥へ進むと、山の懐に抱かれた「開山堂」があります。現存する建物では最も古く、享保4(1719)年建立。堂内には、密室守厳像が安置されています。

あたりに満ちる自然の息吹のなかで深呼吸すれば、いつの間にか穏やかな気持ちになっていきます。
中世鎌倉時代の歴史的な遺産である洞窟墳墓「やぐら」。明月院のものは現存するなかでも最大で、「明月院やぐら」と命名されています。壁面には釈迦、多宝の二仏と十六羅漢が浮き彫にされ、中央に大形の石造宝篋印塔(せきぞうほうきょういんとう)を据えています。
岩盤を掘り貫いて作ったとみられるこの井戸は、鎌倉十井(かまくらじっせい)の一つ。内部に水瓶のような膨らみがあることから、「瓶の井(つるべのい)」と呼ばれているとか。現在も良質な水がわく井戸の周辺にも季節の花のしつらえが。
▲願いを記して奉納する絵馬も、あじさい模様
▲季節の花が捧げられた「花想い地蔵」。あじさいの頃は、あじさいが飾られます
臘梅(ろうばい)、梅、木瓜(ボケ)と早春から花が絶えることがない明月院。訪れる季節ごとに楽しめるよう、いつも手入れが行き届く境内の美しさは、庭園部の努力のたまもの。木々が散らす木の葉も集めて回収し、肥料にしているのだそうです。
冬から早春のやぐらの周囲には、冬の貴婦人と呼ばれるクリスマスローズの群落が。いにしえの高貴な人のお墓を、そっと守るようにうつむいて咲いています。
▲大ぶりの花があでやかな木瓜の花
▲あじさいが新芽を出すころ境内をブルーで染めるのは、諸葛菜(ショカッサイ)の花たち
▲爽やかな風がさわさわと吹き抜ける竹林も。ベンチが置かれ、静かなときを過ごせる配慮もうれしい

茶処で休憩したり、ご朱印をいただく愉しみも

豊かな自然を求めて、野鳥やりすたちも集まってくる明月院。「月」がつく寺の名にちなみ、うさぎの姿をあちらこちらで見かけるのも心和む雰囲気です。うさぎとふれあえるコーナーなどもあり、子供連れでゆっくり過ごせます。
境内をしばし散策したら、「月笑軒」でお茶タイムを。水琴窟のある庭と季節の器を愛でつつお抹茶やお菓子を味わえます。ゆっくり休息したら、総門近くにあるご朱印所へ。名残惜しいと思いつつ、明月院を後にする前にご朱印をいただきます。
▲お抹茶やお菓子をいただける茶処「月笑軒」
ご本尊の「聖観世音菩薩」の名が記されたご朱印と、方丈でご本尊にお参りした際にいただいた、あじさい模様の開運の鈴(500円)。この鈴の音を聞くたび、明月院で過ごしたときの思い出が甦ることでしょう。

あじさいのころもよし。ほかの花の季節もよし

名刹が連なる北鎌倉で、あじさいで名をはせる明月院。梅雨空がうっとうしいと感じたら、ぜひ足を伸ばしてブルーに染まる世界を訪れてみませんか。混雑する場合も多い時期ですが、雨に濡れてその美しさを際立たせるあじさいに、心洗われるひとときが過ごせるはず。

また、落ち着いた古都の佇まいに浸るなら、6月以外の季節に訪れるのもおすすめ。一年中何かしら花が咲く明月院は、美しくめぐる四季の風情で、いつでも温かく迎えてくれるのです。
ゴトウヤスコ

ゴトウヤスコ

ホテル、レストラン、神社、婚礼、旅、食、暦&歳時記、ものづくりなどの広告コピー、雑誌記事、インタビュー記事などを多数執筆し、言葉で人と人をつなぎ、心に響くものごとを伝える。旅は、基本一人旅好き。温泉、パワースポット、絶景、おいしいものがあるところなら、好奇心がおもむくままどこへでも。得意技は、手土産&グルメハンティング。最近は伝統.芸能、日本刀、蓄音機など和文化への興味を深堀中。読書会なども開催。(制作会社CLINK:クリンク)

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