【ドライブレコーダー】

2015年06月01日(月) 初版

■ ドライブレコーダーと交通信号機の点滅


【ドライブレコーダーと言う名称】


  ドライブレコーダーは和製英語らしく、Event Data Recorder (EDR)と言うらしいです。



戻る


【自動車事故を記録するドライブレコーダー】




  ドライブレコーダーは、交通事故の記録やタクシー車内トラブルの記録などの用途で取り付ける人が増えました。
   GPSにより、いつ、どこで撮影したかも判るようです。


【信号機が消滅!】





  ドライブレコーダーの記録を再生すると、信号機が真っ暗で点灯していないことがあります。
  この現象は、西日本でよく起こります。なぜでしょうか?


【AC電源と周波数】


  まず、電源周波数についてです。ACとはAlternating Current、交流電流の事です。




  有名な話ですが、東京電力の前身となる会社はドイツから発電機を輸入しました。(当初は直流送電でした)
  ドイツの電源周波数が50Hzなので、東京と東日本の電源周波数は50Hzになりました。

  大阪の関西電力の前身となる会社は、米国から発電機を輸入しました。
  米国の電源周波数が60Hzなので、大阪と西日本の電源周波数は60Hzになりました。

【電源周波数とテレビの規格】

   アナログ・テレビ放送規格ですが、



  ヨーロッパでは1秒間に25枚のフレーム、その2倍、50フィールドで画面を作るテレビ規格を作りました。
  これは、画面更新間隔を電源周波数の50Hzに一致させる事で、テレビ画面が電源周波数とビートを起こす、電源フリッカーを目立たなくする為です。

  米国では1秒間に30枚のフレーム、その2倍、60フィールドで画面を作る規格を作りました。理由は同じで、電源フリッカーを防止する為です。





【テレビのカラー化と規格変更】


  上記の規格は白黒時代の規格で、カラーに変更する時に、米国の方式はそのままではカラー信号から音声への妨害が激しく、規格を少し変更する事にしました。



  水平同期周波数は映像から4.5MHz離れた周波数にFM音声があり、これへカラー信号が妨害を与えないように、水平同期周波数は15.75kH(白黒テレビ)から4.5MHz(音声周波数)÷286=15.734265KHz(カラー)へ変更されました。

  この周波数15.7kHzはブラウン管からキーーーーーン、と言う音で聴こえていました。










  垂直同期周波数ですが、先ほど決まった水平同期周波数から15.734265KHz÷(水平走査線数525本÷2)=59.94005994Hzと決まりました。
  つまり、約59.94Hzです。白黒テレビはぴったり60.00Hzでした。

【世界のテレビ規格、日本のテレビ規格】

  基本的にヨーロッパ(英国やフランス)関連の国もしくは共産圏は50Hz系へ(フランス:PAL,ドイツ:SECAM)、アメリカ関連の国は60Hz系になりました。
  日本は戦後、米国方式(NTSC)60Hz系を採用しました。




【テレビの垂直同期周波数と西日本の電源周波数】

  この59.94Hzは、大阪の電源周波数に近いです。60Hzと言われる電源周波数ですが、偏差が±0.2Hzあるので、59.8~60.2Hzの間を出来るだけ60.0Hzを目指しつつ、変動します。

【ハイビジョンの垂直同期周波数】

  2015年現在、私達が見ているデジタルハイビジョン放送の垂直同期周波数は、アナログの名残で59.94Hzです。




  1989年から2007年まで放送していたアナログFM伝送のMUSEデジタル圧縮ハイビジョン放送では60.00Hzでしたが、既存の放送ライブラリが全て59.94Hzだったこと、アナログ放送とのサイマル放送で、垂直同期周波数が違う事による弊害が大きく、ハイビジョンがデジタル化される時に59.94Hzに戻されました。


【交流電源】

  私たちが使っているAC100V電源は、-141Vから+141Vまで電圧/電流が変化している交流です。正弦波、SIN波です。
 (実際は、AC100Vと言っても、AC90~110Vの間をふらふらと変動しています)




  電源を直流にしないのは、交流が送電時のエネルギーロスを少ない方法で安価に送電できるからです。




【交流の欠点】

  交流にも欠点があります。交流電力は一定ではなく、電力が無い瞬間があります。0V付近の時間帯は電力が得られません。これは60Hzでは1秒間に120回発生します。



  白熱電球は、電力を熱エネルギーへ変え、熱から光へ変換しています。



  普通使う100V40Wや60Wの白熱電球になると、電球が大きく、フィラメントの熱容量が大きい為、入力電力が変動しても、あまり熱変動が起きない為、さほど点滅にはなりません。(明るさが多少変動しています)

  この為、旧式の白熱電灯の信号機で交流を使っていても点滅しません。

  豆電球はフィラメントの熱容量が小さく、入力変動がダイレクトに光出力へ影響します。

  直流電流に音声信号を重畳して豆電球を点灯すると、音声信号が光の強度に変換され、音声通信が出来ます。

  100Vの普通の電球では出来ません。



【人の目と光源の点滅】

  人の目は、光源の明るさで、明滅の気が付き易さが異なります。

  照明や信号機など明るい光源は、高い周波数まで明滅に気付きますが、電源周波数50Hz地域で100回の明滅、60Hz地域で120回の明滅なので、気になりません。

  蛍光灯の端っこをじーーーっと見ていると、若干明るさが変動している事が判る程度です。




  フィルム映画は1秒間に24枚の写真を連続して映写します。コマが切り替わる瞬間、どうしてもスクリーンが暗くなります。
  人間の目は、1秒間に24回程度の”明るい”明滅だと、明滅がある事が判ります。

  上映中の映画館は、屋外に比べて暗いです。しかし、暗くても、1秒間に24回の明滅は、見ている人が判ってしまいます。
  そこで、フィルム式映画館では途中、シャッターを閉じる事で、48回点滅させ、点滅が気にならないように工夫しています。




  テレビは映画館のスクリーン程暗くないので、コマ数が25枚/秒や30枚/秒では、フリッカーがきになってしまいます。
  そこで、飛び越し走査にしてコマ数を50枚/秒や60枚/秒にしました。







【LED信号機の点滅】

  交通信号機が徐々にLEDへ取り替えられています。白熱電球がOKで、なんでLEDではNGなのでしょうか?

【LED信号機の点灯】


  LED信号機は単相交流100Vか単相3線式200Vを使用しているようです。(一般家庭と同じです)

  ※電源として三相交流を使用するか、内部で安定した直流電圧を作れば、ドライブレコーダーでの信号機の点滅は起きません。



  LED信号機は①AC100VをAC12Vなど低い電圧へ落とします。次に交流を直流にします。(②全波整流)
  しかし、これだけでは電圧が0Vになる瞬間があります。


  このままLEDを駆動すれば、③点滅します。

  この点滅は十分に早く、人間が見ても連続して光っているように見える為、信号機としては問題がありません。

【ドライブレコーダーの撮影タイミング】



  ドライブレコーダーには動画として撮影するカメラ・撮像素子が内蔵されています。
  撮像素子が画像を撮影する時、上から下に順繰りと撮影した画像を取り出します。
  信号機が画面の上の方に映っている時、走査開始から早い時間に読みだしています。

【ドライブレコーダーの撮影タイミングとLEDの発光タイミング】

  ドライブレコーダーのカメラがノンインタレース (=プログレッシブスキャン、順次走査)であると仮定すると、④ カメラは1秒間に30回(29.97回)撮影しています。

  ※ もしかしたら、インタレース、飛び越し走査かもしれません。その場合、⑥点線の△でも撮影しています。

  信号機のLEDは ③1秒間に120回、点いたり、消えていたりしています。(東京では100回)

  この2つの③発光と④撮影タイミングが一致すると、信号が連続的に点灯しているように撮影されます。




【ドライブレコーダーの撮影タイミングとLEDの発光タイミング】

  もし、タイミングが一致しないと、暗く映ったり、全く消えているように見えます。




【ドライブレコーダーの撮影周期とLEDの発光周期】

  ドライブレコーダーの撮影周期とLEDの発光周期が①完全に一致している場合、信号機の撮影画像は1、ずーっと点灯、2、暗く点灯、3、全く映らないの3パターンになります。
  ② 撮影サイクルが29.94回/1秒、LEDの発光タイミングが120.00回の時は約16.6秒周期で点滅します。

  これでは数秒間は信号機が映らず、青信号で進入したのか判らず、記録の意味がなくなります。
  電源周波数はほぼ60Hzですが、59.8Hzから60.2Hzまで変動する為、点滅間隔は以下の様に変動します。





  赤信号は、撮影タイミングとLEDの発光タイミングが一致した時、入ってくる光が強すぎ、赤の撮像素子はオーバーフローし、緑の色フィルターで赤を阻止しきれずに緑の撮像素子の画像信号に緑色が混ざり、結果的に黄色く見えます。




  信号機は明滅しており、人間の目には平均化されて、普通に赤く見えます。
  緑と黄色で同様の事が起きても白っぽくなるだけです。




【どうすれば良いのか?】

  日本の電源周波数が50Hz,60Hz。撮影サイクルがフィールド周波数59.94Hz(フレーム周波数29.97Hz)です。

  両者の周波数が近いと明滅の間隔が長くなり、信号が消えている時間が長くなります。

  逆に撮影サイクルが遠ければ良いので、55Hz(27.5Hz)にすれば、50Hz地域でも60Hz地域でも差が5Hz(60Hz-55Hz=5Hz、55Hz-50Hz=5Hz)になるので、1秒間に5回点滅するようになります。



  これならば、交差点を通過する間、信号が消灯しきっている、という事が避けられます。

  この為、業務用では27Hzか27.5Hzを採用しています。

【三相交流】

  信号機の電源が三相交流を使っていた場合、常に電力が供給される為、信号は常時点灯しており、ドライブレコーダーの信号が消える現象は出ません。

  しかし、交通信号機はLED化して更に省エネになっていて、大電力を消費するモーターを使っている訳でもないので、わざわざ三相交流は使いません。

  また、信号機は屋外に設置され、温度環境が厳しい為、コンデンサーを使って脈流を平滑化していないようです。(コンデンサーは熱に弱く壊れる)



【信号機を録画するには】

  信号機を撮影する目的でドライブレコーダーを買う時は、撮影コマ数をチェックしてから買いましょう。

  27.5Hzで撮影出来ないのであれば、西日本では25Hzで、東日本では30Hzで撮影すれば良いでしょう。



戻る