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万年Dランクの中年冒険者、酔った勢いで伝説の剣を引っこ抜く 作者:九頭七尾

第二章

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第25話 夜になるとパーティの男女が怪しい行為を始めるんだけど!?

「さっきからどうしたんだ、クルシェ?」
「え?」
「なんか目を逸らされてる気がするんだが……」
「そ、そうかな? き、気のせいだと思うよっ? それより早く出発しよう! やっぱり十五階層以降まで潜らないと、今のぼくたちには大した訓練にはならないからね!」

 翌日、俺たちは十一階層へと歩みを進めた。
 朝起きてからクルシェがどこか余所余所しいというか、ぎこちない感じだったのだが、さすがに魔物が現れ始めると段々と普段通りに戻っていった。
 ……何かあったのだろうか?

 入学試験のときはオーガが引っ切り無しに現れて苦労したこの階層だが、今回は良心的な出現率だったのでそれほど苦も無く進んでいくことができた。
 もちろん、クルシェの加入やアリアが〝疑似神剣レプリカ・ウェヌス〟を手に入れた影響も大きい。
 そして俺たちは、試験のときにゴールになっていた十五階層の安全地帯へと無事に辿り着くことができた。

「二人とも体力の方はどうだい?」
「俺は問題ないぞ」
「わたしもよ」
「じゃあ、休憩せずにこのまま十六階層に行ってみようか? 疲れたらすぐに戻って来れるよう、階段からそんなに離れてない場所を探索しよう!」

 そのクルシェの意見に俺とアリアも賛同して、十六階層へと降りてみることに。

「うおっ、なんだここは?」
「氷の世界……?」

 初めてこの階層に足を踏み入れた俺とアリアは、目の前に広がった光景に思わず息を呑んだ。

 そこは一面の銀世界だった。
 地面や壁が氷や雪によって覆われているのだ。
 森林のフロアも凄かったが、ここもダンジョンの中だとは思えないな。

「十六階層から二十階層までは氷雪地帯になっているんだ」
「さ、寒いな……」
「ほんと……じっとしてたら風邪を引きそうだわ」

 ご丁寧なことに気温もしっかりと極寒となっていた。

「ここにはどんなモンスターが出るんだ?」
「えっと、そうだね……最も数が多いのはアイスウルフっていう、口から冷気を吐き出す狼の魔物かな。アイスブレスって呼ばれてるけど、何体かで群れて距離を取りながらそれで少しずつ獲物を凍らせて動けなくしてしまうんだ。単体だとせいぜい危険度Dくらいの強さなんだけど、そうやって集団で狩りをしてくるから危険度はCの中でも最上位とされてるよ」

 狼系の魔物は頭が良く、群れを形成することが多いのだが、アイスウルフもその例に漏れないらしい。しかもブレスまで吐くとか。

「単体で強いのはホワイトグリズリーかな。体長三メートルを超す大型の魔物で、たぶんトロルやオーガよりも怪力だね。鋭い爪や噛みつき攻撃も厄介だし」

 こちらも危険度はCの最上位だという。

「あと気を付けないといけないのは、この足場だね」
「確かにこれは滑りそうだな」
「雪の上だと滑りはしないけど、今度は足が埋まっちゃって動きにくいわね」

 足元にも注意が必要そうだ。

 それから俺たちはあまり階段から離れないようにしつつ、魔物を探して歩き回った。

「っ! 早速だな」
「あれがホワイトグリズリーだよ!」

 真っ白い毛で覆われた熊がこちらに気づき、物凄い速度で迫ってきた。
 身体もでかいため、なかなか威圧感がある。

「ぼくに任せて!」

 それを真正面から迎え撃ったのはクルシェだった。

「でえええいっ!」

 あろうことか彼は迫りくるあの巨体の懐に飛び込んだ。
 激突。
 普通の人間なら間違いなく吹き飛ばされるだろう。
 だがクルシェはその小さな身体で突進を受け止めてしまっていた。

「どりゃあああっ!」

 さらにホワイトグリズリーの身体を持ち上げ、豪快に放り投げる。

「グルアアアアッ!?」

 氷の上に叩きつけられ、悲鳴を轟かせるホワイトグリズリー。
 そこへすかさずアリアが躍り掛かった。

 背中を切り裂かれたホワイトグリズリーの身体から炎が燃え上がる。
〈火属性攻撃〉の効果だ。

「グアアアアアアアアアアアアアッ!」

 あっという間に巨体が炎に包まれ、氷の上をのた打ち回る。
 どうやらこの熊、火属性の攻撃に弱いらしい。

充填チャージ〉で力を溜めていた俺は、苦しみから解放してやろうと巨大熊を斬り付けた。
 巨躯が崩れ落ちる。
 そして灰となり、【魔獣の爪】という素材がドロップした。

「っと、今度はアイスウルフか」
「三、四、五……全部で五匹いるわね」

 ドロップアイテムを回収していると、そこに間髪入れず次の魔物が出現した。

「っ、あれがブレスだよ!」

 クルシェが叫んだ直後、凍てつく風が押し寄せてくる。
 うお、痛い! 肌を焼けるような痛みが襲ってくる。ただ冷たいだけでなく、これはダメージになるな。
 凍らされる前に距離を詰めて――いや、こっちの方が速いか。

「〈衝撃刃ブレイドインパクト〉ッ!」

 俺が放った衝撃波が冷気を押し返し、さらにアイスウルフたちを吹き飛ばす。
 引っくり返ったアイスウルフへ、ここぞとばかりに三人で一気に攻めかかった。





 この日の冒険を終えて、俺たちは再び十五階層の安全地帯へと戻ってきた。

「それにしても二人ともすごいね。十六階層でも全然問題ないじゃないか。入学したてとは思えないよ」
「クルシェこそ、ホワイトグリズリーを投げ飛ばすなんてびっくりしたぞ」
「はは、言った通りパワーだけはね……」

 クルシェはそう謙遜する。

「だけど、それだけじゃあんな綺麗に投げられないと思うわ。あまり詳しくないけど、体術だってかなりのものよね」
「どこで学んだんだ? 体術戦闘ってあまり見かけないよな」
「えっと、一応、故郷の村で……」
「故郷? へぇ、なんていう村なんだ?」

 訊いてみたが、北方の辺境にあるらしく、まったく聞いたことのない名前だった。

「知らないよね。すっごい田舎だからさ」
「そんなところからわざわざ王都まで来たのか」
「……うん」

 なぜか先ほどからクルシェの歯切れが悪い。
 あまり訊かれたくない話題なのかもしれない。

「それにしても二人の剣はかなりの業物だよね? 特にアリアさんのなんて属性系の【特殊効果】が付いてるし…………って、あれ? でも四次試験のときはナイフだったような……」
「ま、まぁ、色々あってな」
「……そ、そうね」

 ウェヌスのことはまだ黙っておいた方が良いだろう。
 クルシェは信頼に足る人物だとは思っているが、それでも万一ということもある。
 それに俺とアリアの関係を知ってしまうと、疎外感を覚えてしまうかもしれない。もう少し親しくなってからでも遅くはないだろう。

 そんなふうに歓談しつつ食事を終えると、明日に備えて仮眠を取ることになった。



   ◇ ◇ ◇



 お母さん、お姉ちゃん、お元気ですか?
 ぼくは元気だよ。
 でも、英雄学校に入学してもう四年目になちゃった!
 今年こそはと決意を新たにしてます。

 去年までパーティを組んでいた二人が退学してしまったけど、どうにかすぐに新しいメンバーを見つけることができたよ。まだ暫定だけれどね。
 二人とも優秀で、ぼくには勿体ないくらい。
 なのでこのまま一年間、一緒に頑張って行けたら嬉しいなと思っているんだけど……実は今、この二人に関して大きな悩みがあって……。


 ――夜になると怪しい行為を始めるんだけど、ぼくはどうしたらいいんだろう!?


「クルシェ。……まだ起きてるか? ………………寝たようだな」

 その行為は、そんなふうにぼくが寝てしまったのを確認した後に始まるんだ。
 ……実は寝たふりをしているだけなんだけどさ。

 しばらくして、聞いているだけで何だか変な気持になっちゃう水っぽい音が鳴り出す。
 時折「んぁ」なんていう悩ましげな声も漏れ聞こえてきたり。

 一体この二人は何をしているんだろう?
 ぼくは怖くて後ろを振り返ることができない。

 ……でも、ある程度の推測は付いている。
 ぼくだっていつまでも子供じゃないからさ。
 ま、まだ経験はないけれど……それくらいの知識はある。

 きっと二人は〝男女の営み〟というヤツをしているんだと思う。

 もちろん二人がただならぬ仲だということには最初から気づいてた。
 もしかしたら恋人同士かも、と。
 だけど……

 何もこんなところでしなくてもいいよね!?
 ほんと勘弁してよ! 気になってなかなか寝れないじゃないか!
※二人はキスしてるだけですが、クルシェは勘違いしてます。

5月15日追記:運営様から『18歳未満の閲覧に不適切と判断される性描写が存在する』との指摘をいただいたのでラストの部分を修正しました。他にもアウトっぽい描写があったら感想などで教えていただけると嬉しいです。。。
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