最強棋士・柯潔、囲碁AI「AlphaGo」に敗れる。だが開発者は「人間の勝利である」と言う:初戦現地レポート

2017年5月23日に中国・浙江省で行われた、囲碁AI「AlphaGo」と人類最強といわれる棋士・柯潔の3番勝負の初戦は、AlphaGoが勝利を収めた。戦いの場となる“フューチャーGOサミット”は、残り4日。人類とAIの可能性が試される5日間はいかに始まり、何を意図するのか。現地からの速報。

TEXT BY WIRED.jp_Y

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    1/5開会式でモニュメントに碁石を置く、世界最強の棋士・柯潔(右から4番目)とAlphaGoを開発したDeepMindのCEO、デミス・ハサビス(右から2番目)、Googleの元CEO、エリック・シュミット(右から3番目)。PHOTOGRAPH COURTESY OF GOOGLE

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    2/5試合前にエリック・シュミット(写真右)と握手を交わす柯潔(写真左奥)。デミス・ハサビスも加えた3人の姿に多くの人々が詰めかけた。PHOTOGRAPH COURTESY OF GOOGLE

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    3/5会場には中国トップ棋士も駆けつけた。25日に開催される「ペア碁」と「チーム碁」は彼らが試合に臨む。PHOTOGRAPH COURTESY OF GOOGLE

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    4/5対局はカンファレンスとは別の特別室で行われた。向かい合う、左手の柯潔と右手のアジャ・ホアン。アジャはモニタ―のAlphaGoからの指示に従い碁盤に石を置く。PHOTOGRAPH COURTESY OF GOOGLE

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    5/5勝負の結果は半目差でAlphaGoの勝利。柯潔は試合後の会見で「人工知能と囲碁を打つのは、あと2回で終わりだ」と語った。PHOTOGRAPH COURTESY OF GOOGLE

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開会式でモニュメントに碁石を置く、世界最強の棋士・柯潔(右から4番目)とAlphaGoを開発したDeepMindのCEO、デミス・ハサビス(右から2番目)、Googleの元CEO、エリック・シュミット(右から3番目)。PHOTOGRAPH COURTESY OF GOOGLE

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試合前にエリック・シュミット(写真右)と握手を交わす柯潔(写真左奥)。デミス・ハサビスも加えた3人の姿に多くの人々が詰めかけた。PHOTOGRAPH COURTESY OF GOOGLE

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会場には中国トップ棋士も駆けつけた。25日に開催される「ペア碁」と「チーム碁」は彼らが試合に臨む。PHOTOGRAPH COURTESY OF GOOGLE

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対局はカンファレンスとは別の特別室で行われた。向かい合う、左手の柯潔と右手のアジャ・ホアン。アジャはモニタ―のAlphaGoからの指示に従い碁盤に石を置く。PHOTOGRAPH COURTESY OF GOOGLE

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勝負の結果は半目差でAlphaGoの勝利。柯潔は試合後の会見で「人工知能と囲碁を打つのは、あと2回で終わりだ」と語った。PHOTOGRAPH COURTESY OF GOOGLE

人類の歴史において注目されるべき対局が、中国で始まった。2017年5月23日から27日まで開催される「フューチャーGOサミット」(Future of Go Summit)において、グーグル傘下のDeepMindが開発した人工知能(AI)「AlphaGo」と、世界一と目される棋士・柯潔(カ・ケツ)の対決が行われているのだ。

関連記事AlphaGo記事のまとめ:AIが人類に勝つ以前の世界と、以後の世界

本戦は、囲碁における人類とAIの最終決戦といわれているが、先ほど4時間を超える戦いの末、柯潔は1戦目を落とした。3番勝負のため、25日の第2戦もしくは最終日の27日を迎えるまで、その決着はわからない。だが、AlphaGoの全貌がまったくの謎だった2016年のイ・セドル戦とは異なり、その敗北はある種予想されたものだった。

AlphaGoを開発したDeepMindのCEO、デミス・ハサビスは、サミットの開会式で「柯潔が勝とうとAlphaGoが勝とうと、それは人間の勝利である」と語った。AIはあくまで人間が使う道具であり、これまで見通せなかった領域に人間を導いてくれる「ハッブル宇宙望遠鏡」のような道具となるのだと強調した。そしてそれは、囲碁の世界においても同じだという。

ハサビスのこの説明も、試合の結果をある程度予測したうえだったのだろう。2016年のイ・セドル戦の直後に柯潔は「自分なら負けない」と発言していたが、昨年末にオンラインで非公式に実施されたAlphaGoとの戦いで、柯潔は3連敗を喫している。さらに、そこからAlphaGoは進化していることが予告されていたのだ。

人間らしい人工知能と、AlphaGoらしい人間

第1戦において興味深かったのは、柯潔がAlphaGoの打ち筋を明確に意識した一手を放ったことだ。2016年末、オンライン上に「Master」という名前で登場したAlphaGoは、柯潔を含むプロ棋士をなぎ倒し、60連勝を記録した。このときの棋譜は、いまも多くの棋士によって分析されている。

そして、今日の戦いの序盤で柯潔は、AlphaGoに特徴的な「三々入り」と呼ばれる手を打った。昨年に続いて実況解説を務めた囲碁棋士のマイケル・レドモンドは、「柯潔の打ち方は、AlphaGoのやり方を意識したうえで、彼なりに理解して進化させようとしている」と語った。その一方で、柯潔は試合後の会見において、「AlphaGoの打ち手は、まるで人間のようだった」と脱帽の意を示した。人間がAIから囲碁を学ぶ時代が、確実に来ていることを実感させられる。

DeepMindのCEO、デミス・ハサビスは、AlphaGoのような手を柯潔が打ったことを、「興味深い」とツイートしている

だからこそ、このサミットには「チーム碁」「ペア碁」と呼ばれる、これまでとは異なる変則的なゲームが組まれているのだろう。5人のプロ棋士が同時にAIに立ち向かうチーム碁、もしくはAlphaGoとプロ棋士のタッグ同士が戦うペア碁で、人間は新しい発想を得ることができるのか。人類とAIの新しい関係性が模索されることになる。サミットの冒頭でDeepMindのハサビスが否定したように、人間対AIという構図では、もはや囲碁、ひいては人類の未来を考えることは難しい。

明日24日に開催されるカンファレンスでは、CEOのハサビスやエンジニアのデイヴィッド・シルヴァーといったDeepMindの首脳陣がAlphaGoの開発について語るほか、グーグルの研究者と中国の研究者によるパネルディスカッションなどが予定されている。その後の25日、27日に行われる柯潔とAlphaGoの試合、そして26日のペア碁とチーム碁にも注目したい。

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