元サッカー日本代表監督の岡田武史氏が「自分と異なる考えの持ち主をコーチに抜擢した」理由とは?指導者が意識すべき"2つの約束"に迫る
- 福富信也
- 2017年5月22日
- ニュース
- 2,025
起きている時間のほとんどを職場で過ごす私たちですから、職場の充実はすなわち人生の充実と言っても過言ではないはずです。
「スポーツ×ビジネス」という切り口から、チームビルディングというテーマのもと、上司目線・若手社員目線・組織全体への提案など、様々な角度からアプローチしていきます。
▼プロフィール
1980年3月生まれ。信州大学大学院教育学研究科修了(教育学修士)。
横浜F・マリノスコーチを経て、2011年に東京電機大学理工学部に教員として着任(サッカー部監督兼務)。日本サッカー協会公認指導者S級ライセンスで講師を務め、Jリーグのトップチームから育成チームまで幅広い対象へのチームビルディング指導を行う。
2015年5月、組織論を主としたスポーツ指導、講演や執筆などの事業を展開すべく株式会社Humanergyを設立。
▼指導
サッカー界のみならず、スポーツ全般、幼~高までの教育分野、企業などへの講演、研修会、セミナーなど多数。
▼著書
スポーツ向けの「個」を生かすチームビルディング(KANZEN)
ビジネス向けの「勝つ」組織 集団スポーツの理論から学ぶビジネスチームビルディング(KANZEN)
▼その他
オンデマンドセミナー、雑誌の執筆やテレビ出演など。
>> 執筆記事一覧はこちら
突然ですが、皆さんはチームビルディングの本質とも言える「チームを機能させるための重要な要素」が何だかご存知でしょうか。
答えは2つあります。
私はそれを“2つの約束”と呼んでいます。
実際、細かい部分にまで目を向ければ要因は無数にあるでしょう。ただ、枝葉(現象)の部分の話ではなく、根や幹(原因)に着目すると数は限られ、最終的に2つに集約されるのです。
では、なぜ枝葉よりも幹や根が大事なのでしょうか。
枝葉への対処は即効性があるかもしれませんが、キリがありません。根や幹から変えていくのは時間がかかりますが、ここさえ変えてしまえば、枝葉は自然とよくなるはずだからです。
ちなみに、本記事内の"チームビルディングメソッドの本質"というのは、この後さらに詳細をお話しますが、スポーツシーンだけではなく、これは何気ない日常会話、ビジネスシーンでも同様で、常日頃から意識することが重要です。
そこで今回は、皆さんにチームビルディングメソッドの本質とも言える「チームを機能させるための重要な"2つの約束"」をご紹介します。
この後、ご紹介する簡単なゲームやチームスポーツの事例で理解を深めていただき、皆さんの職場活性化の一助となれれば幸いです。
参考:
"北京で銅"と"リオで銀" なぜメダルを獲得できたのか?「陸上競技4×100mリレー」から見るチームビルディングのヒント【スポーツ×ビジネス】|ferret
2014年サッカーW杯前に日本代表・本田圭佑が口にしていた"個の成長" "個の質を上げること"の重要性!そこにこそチーム力向上のカギがあった|ferret
チームビルディングにおける2つの重要メソッド
十人十色!互いに発想が「違う」ことがチームにとって重要な武器に
ここで1つ、皆さんに簡単なゲームに挑戦していただきます。まず初めに、何人かメンバーを集めてください。もし近くに仲間がいなければ、1人で試していただいても構いません。その場合は、改めて仲間にもチャレンジしてもらってください。
このゲームは仲間とともに実施してもらうもので、内容は至ってシンプルです。「○○ロール」という言葉を2分間で思い付くだけ考えて、いくつ挙げられるかを個人戦で競います。○○に入る文字数に制限は設けませんが、「ロール○○はNG」、「具体的な商品名もNG」です。早速ゲームを始めてみてください!
果たして、皆さんは「○○ロール」をいくつ思い浮かべられたのでしょうか。きっと、ほとんどの方が3つ程度だったのではないでしょうか。人によっては1つも浮かばなかったという方もいるはずです。もっとありそうなのに思い付かない、これが現実です。
では、それぞれ思い付いたワードを仲間と比較してみましょう。自分では思い付かなかったワードがいくつも出てくるはずです。仲間とシェアした瞬間に「なるほど!」「すごい!」「全く思い付かなかった」という、仲間への賛辞の言葉が思わず出てきます。仲間とシェアすることで、1人では思い付かなかったアイデア(選択肢)が自分の手元に増えていくのです。
約束1:メンバー全員がリスペクトの関係で結ばれていること
「1人では思い付かなかったアイデア」が手元に増えていく。
まさに、これこそがチームの力であり、多くの方がゲームを通じて「チーム > 個人」を実感できたはずです。このプログラムは、いかに自分が不完全な存在かと認識させられ、謙虚かつオープンマインドでいることの重要性を教えてくれます。
仲間は誰でも自分にない発想・価値観・アイデアを持っていて、自分に新たな気付きを与えてくれる存在だ、ということです。そんな気付きを与えてくれる仲間は「リスペクトに値する」と思いませんか。
「チームのメンバーは全員がリスペクトの関係で結ばれていること」
これが私の提案する1つ目の約束です。ただし、「チーム > 個人」の図式が成り立つには、忘れてはいけない前提条件があります。それは「1人ひとりの発想が異なる」ということです。○○ロールで、全員が「クロール」を浮かべたとしたら、シェアしたところで一向に数は増えません。
つまり、皆の発想が「違う」ということが、チームにとっては大きな武器になるのです。
「違い」を認め合えるチーム、「違い」を学びの材料にできるチーム、「違い」を武器にできるチームは、永続的に発展します。
なぜなら、1人ひとりの「違い」は無くそうとしても、永遠になくならない恒久的な資源だからです。せっかく人を雇用し、給料を支払っているのに、この無限に溢れる資源を組織活性化につなげない手はありません。残念ながら多くの組織がメンバーの「違い」を活かし切れず、またその大き過ぎるロスに気付いていないのが現状です。
ついつい、自分と違うもの、異質な考えにアレルギー反応を示し、排除したくなるのが人間ですが、それを学びのチャンスと捉える発想が何より大切です。
チームワークの実現は、自分と違うものを排除しようとする人間的な弱さの克服から始まります。その克服に必要不可欠なのが、まさに「意識改革」です。先ほどのゲームのように、納得感がある体験によって意識改革の意義が感じていただければ、次のステップである「行動改革」につながっていきます。
ちなみに、仲間との「意見の衝突」を怖がる人が多いですが、誰かと意見が衝突するということは「内なる自分の価値観に気付く」というプラスの解釈もできます。
約束2.:過度な気遣いを排除して本気で互いに向き合う
2つ目の約束は「ためらわずにチームの成長につながる言動をする」ということです。
スポーツ界でよくある問題は、優秀な選手が集まったチームにおいて、選手同士がお互いに過去のキャリアを配慮しすぎた結果、「相手のプライドを傷つけてはいけない」と神経質になってしまうことです。この状態では、過度な気遣いで逆に本音が言えない、という事象を引き起こします。すると、個々の能力は高いのに一体感が感じられず、思ったほどの成績が出せないまま終わってしまいます。
1つ目の約束は「チームメイトはリスペクトの関係で結ばれている」でしたが、過度なリスペクトは逆にチームの風通しを悪くするだけでなく、衰退させていくことにつながります。メンバーは、「成長につながるはずだ」と思うことはためらわずに積極的に伝えていく義務を負っています。「波風立たせないために黙っている」という考えは一見するとチームワーク行動のようですが、実は「チームワーク違反」に該当するのです。
「リスペクト」と「チームの成長」、この2つの約束を同時に満たすような言動を心掛けていくと、チームは確実に良い方向へと進みます。
ビジネスへの応用 - 重要なのは謙虚でオープンマインドな姿勢 -
「2つの約束」についてご理解いただけたとしても、具体的にどう実践すればいいのかわからない、というご意見が圧倒的多数だと思います。
そこで、わかりやすい例を交えて説明しましょう。
先ほどご紹介したゲームでは、人は誰しも不完全で、どんな人からも学ぶ謙虚でオープンマインドな姿勢が必要だとお伝えしました。例えば、職場にフレッシュな新入社員が入ってきた時に、上司や先輩たちはどのように接するでしょうか。
「最初から仕事を覚えさせなければならない」「教育しなければならない」と考えることは、もちろん間違いではありません。しかし、視点を変えることで私たちが新入社員から学ぶこともできるは思いませんか。立場が「違う」人から学ばないのは、せっかくの資源・財産を放棄しているようなものです。
入社して長い年月が経つと、どうしても新入社員の頃のフレッシュさを欠いてしまい、凝り固まった先入観を排除することは極めて困難です。そこで、働き始めてみて感じる社風などについて、率直な意見を求めてみるとどうでしょうか。もしかしたら、誰も疑問さえ持たなかった社内の役割分担や業務フローなどについても、新たな気付きをもらえるかもしれません。若者の流行を教えてもらうことで、新しいヒット商品の開発につながるかも知れません。
私の関わるサッカー界での事例もご紹介します。これは以前、元サッカー日本代表監督の岡田武史氏(現JFL所属FC今治代表取締役会長)を訪ねた時にうかがった話です。岡田さんが監督時代、コーチの人選については「自分と考えの異なるメンバーを入れることを意識していた」という趣旨のお話を聞きとても印象的でした。
つまり、自分自身の考え方の偏りや限界を理解した上で、対極の意見にも耳を傾けてバランスをとろうとするオープンマインドな姿勢があったということだと思います。「自分とは異なる考えの仲間をリスペクトする監督、成長のために必要だと思えば監督にも進言するコーチ」という関係だったと推察されます。身近なところを自分の理解者で固めたほうが居心地がいいのは間違いありませんが、それでは組織は活性化しないのかもしれません。
まとめ
大切なことは、相手が仮に新入社員であっても「リスペクト」を忘れないこと、そして「チームの成長につながる」と思えば立場に関わらず率直に意見を伝えられる、風通し良い成長路線の組織をつくろうとする意識です。
繰り返しになりますが、人は誰でも感じ方や価値観が違うため、それを学びや気付きにつなげるマインドさえ持てれば、アイデア資源の枯渇とは無縁の組織になるはずです。このマインドが本当に浸透した時、お客様からのクレームからも学べる組織になり、クレームを「ニーズ」と捉えることができるはずです。
まずはチーム内の何気ない日常会話に「2つの約束」を浸透させていくことが大切ですが、表面的なテクニックの話をしているのではありません。「違いを武器にする」ことの素晴らしさに本心から納得していただき、実践していこうとする内面的な変化がなにより大切なのです。