ざざむし。

エクストリーム納豆作りをしてみた

納豆は茹でた(または蒸した)大豆に納豆菌を繁殖させ発酵した食品で、好き嫌いは別にして日本人で知らない人は殆どいないだろう。私は美味い上に便通もよくなるので納豆がとても好きだ。
平安時代には納豆という言葉と共に親しまれてきたのがわかっているが、納豆という呼び名になる前の起源は諸説ありどこまで遡るのかはっきりわかっていない。起源は偶然の産物とされているが、現代人であれば納豆菌をはじめとする枯草菌が身の周りにいくらでもいることを知っていれば偶然できても不思議ではないと思うだろう。

納豆はススキでも作れる。

でも実は太くて硬いのでススキは使いにくくオススメしない。
水戸納豆の藁苞(わらづと)が稲藁だったのは風味もさることながら安定供給と使い勝手の良さゆえであることが実際作ってみると納得できます。

いまや納豆は茹で大豆をパック詰めしてから納豆菌かけて発酵させて販売するのが普通になっているが、元々は稲藁による藁苞に包んで作られた。納豆菌は稲藁1本に1000万個くらいいるらしいので、学生時代に面白い教師に当たった人などは学校で作ってみた経験がある人もわりといるんじゃないだろうか。今は保健所とかPTAが煩そうだからやらないかな?
実際の藁には菌1種ではなく、枯草菌だけでも様々なものがいるだろう。販売されている納豆と違って草の香りも混ざった野性味ある納豆を作ることができる。(ただし雑菌を繁殖させてしまえば体に害が出る可能性はある)

で、だ。
いまさら普通に納豆作っても面白くないじゃないですか。
そもそも、納豆は販売単価が安いのでよほど美味いものができるという違いでもない限りは作ってもコスパが悪い。大豆が余りすぎて困ってるなんて人は少ないだろうし。かといって普通の食材は納豆学会の方々がいろいろ試している。ということで今まで作ったことがないもので作ってみたいと思います。

まずは材料を用意します。

これはメハジキ中心の混合雑草。
そのへんの枯草なら大抵は枯草菌がいるので、納豆を作るだけなら毒草かよほどクセのある植物以外ならなんでもいいのです。その点、やはりイネ科植物は細長く藁苞にしやすいという長所があります。他にはイチジクのように丈夫で幅広く包める葉を使用するという手もあります。
丈の低い草の場合は犬の小便のかかっていなさそうな所から採集してくるのが精神衛生上好ましいかもしれません。

比較実験にはブランクが必要なので大豆も前日から水に浸しておきました。
同時に作って大豆Ver.が問題なければ失敗した場合にその素材に難があったということがいえます。

おっきくなっちゃった。


枯れメハジキで作った藁苞とキムワイプ先生です。

今回はできるか否かが知りたいだけなので藁苞は最小限のサイズで作りました。
枯草を茹でてから束ねて作ってもよいのですが、茹でた後は繊維が硬く切りにくくなるので、手間取っていると雑菌がついて意味がなくなるというのもあり先に藁苞にしてサイズを揃えておきます。

がっつり煮沸します。
カビや腐敗に繋がる雑菌はこの煮沸で殆ど死に絶えますが、納豆ができるのに役立つ枯草菌は芽胞で高温に耐えるので問題ありません。

ところで納豆誕生の瞬間は諸説ありすぎて実際どうだったのかわからないんですが、空気中の茹で大豆に自然に納豆菌が付着して繁殖したのが始まりとしても藁苞納豆に行き着くまでの間は埋まらない訳で、最初はわざわざ藁苞殺菌なんかしてなかったんじゃないかと思うんですよ。それじゃ雑菌も涌き放題だろうからどこまで行っても本当に偶然の産物だったんでしょうねぇ。

→大豆茹でて置いといたら糸引いて変なニオイになっちゃった
→食べ物が無駄にできない
→だから食べる
うまい!(テーレッテレー
こういうのはだいたい体にいいか悪いかなんてのは後からついてきた話で、最初は美味くて腹壊さなかったから広まったんだと思う。最近ほかの何かでも同じこと言った気がする。おじいちゃん御飯はさっき食べたでしょ。
浮いてしまうのを押さえ続けるのが面倒だからキムワイプで落し蓋代わりにします。

沸騰して20分くらい煮ました。

圧力鍋で加熱した大豆を藁苞に包みます。
必ず藁苞にどこかで触れて繋がるので適当に包めてあれば問題ありません。

こんな感じ。
先に藁苞を作っておくとホント作業が早いです。


ついでにキムワイプなんですが、落し蓋は仮の姿。
藁苞を煮出している間に芽胞も鍋の中に流出してると思うんですよね。
納豆菌は納豆では歓迎されるけど日本酒作りでは大敵とされるくらい、空気中から僅かに侵入するだけでも麹作りが失敗するほど強力で繁殖力の強い菌です。汁の中に使えるヤツがわんさかいるはず。

キムワイプ納豆できるんじゃね?
心配なのは好気性細菌なので、ちょっと通気性悪いかなぁ?というところ。

基準となる大豆はこれでいいとして、他の食材を何にするかです。
インゲンでもトウモロコシでもヒマワリの種でも銀杏でもできるのはわかっています。
かつて昆虫料理研究会の内山さんが虫納豆を作っていましたが、昆虫でもモノによっては納豆らしくなったのは確か。ナットウキナーゼを産生するのはいまのところ大豆が飛びぬけて優れているそうですが、とりあえず納豆化させるだけなら動物蛋白でもいけるんじゃないでしょうか。

ということで今回のメイン食材。

シロザケとアカハタを適当なサイズに切りました。
これらを圧力鍋で3分加熱。
雑菌を殺すと共に、この後に何かの間違いで混ざったとしてもビブリオを増殖させない為に塩などは使いません。

縮みますね。

何故に魚を使おうと思ったかというと、やっぱり釣りしてると余る魚って出てくるんですよね。
さばいて初めてわかるハズレ身質のでかいメダイとか、遡上の為の体の変化が始まったシロザケとか、単純にイマイチなものって誤魔化して食べ続けるにも限度があります。もし美味く化けさせられるのであれば納豆混合でイージーに発酵させて美味しくするという未来も見えるのではないか。そのためにまずは納豆の風味に邪魔されない実力を知りたかった。平行して、キムワイプで可能になるなら藁苞も作らなくていいし納豆も買わなくていいからもっとイージーになる。うまくいけば保温も夏場ならば放置で可能になるので本当のエクストリームな納豆化も夢ではない。(屋外放置はハエも寄るだろうし雑菌涌いたら終わるリスク満載なのでオススメはしないが)
かといって青魚や肉は納豆菌増殖させる温度でヒスタミン産生するといけないので、今回は白身魚であるシロザケとアカハタを使用したという訳です。

混ざると嫌なのでジップロックに別々に入れます。
好気性細菌なのでジップロックの口は開けたままにします。


途中留守にする都合上、炊飯器の40℃で30時間近く保温しました。
材料によりますが45℃で12~20時間で十分だと思います。

魚の低温調理では雑菌の増殖を防ぐ為にオリーブオイルなどの油脂に漬けこみますが、この場合は素どころか枯草に包んでいるので失敗したら最悪の場合食中毒まっしぐらです。真似はしないほうがいいでしょう。

できたかなー?


食べなくてもわかる。
君は納豆や。


キムワイプ納豆もなんとなくできてる感じするやん?


めくろうとしたらキムワイプ崩壊。
納豆菌のバイオフィルムもめくれてキムワイプと同化してかよくわからなくなったが糸は引くので納豆になっとう気がする。
納豆になっt(デュクシ


これはダメだ。納豆になってたとしても扱いがめんどくさすぎる。
やはりキムタオルにしておくべきだったか。
いや普通に綿の布巾などでやるべきでしたね。目が粗く丈夫なものなら通気性も良いでしょうし。
保温器など広げて加湿保温できるスペースがあるのならば枯草と煮たキムタオルや綿布巾を敷いて、上に大豆や銀杏を並べるだけで十分できるんじゃないかという気がする。

さて、問題の魚達はどうでしょうか。

あー


あぁーーーーあぇ?
ひょっほ えんないおいがふるお?

藁苞を広げると糸は引く。

シロザケはどうだろうか


こっちはベースにアスタキサンチンの色がある分だけバイオフィルムが若干見やすい。左のほうが緑っぽくも見えるけど、写真写りのせいで実際は白いです。
しかし明らかに純粋な納豆の香りじゃない。


出揃いました。
もはや豆状ですらないので、成功していようがいまいが納豆と呼んでいいのかどうかわかりません。


大豆でできたものは食べ慣れた良い香りがしますね。
単体で食べ比べると、藁苞のほうは芯まで分解が進んだ美味しい納豆ですが、キムワイプのほうは芯が若干残ります。通気性の問題なのか菌数の問題なのか。前者の気がするなぁ。

混ぜていくとどんどん粘りが出て、見慣れた納豆と化していきます。
唯一市販品と違うと感じるのは、やはり草の香りが混ざること。それも結構強く混ざるので野性味を感じる納豆になります。


アカハタ納豆を混ぜてみましょう。


えっ・・・

完全に崩壊しました。
しかしそぼろではない。粘りが強いのでなんと表現したらいいのかわからない。
見た目は粘着シーチキン。


シロザケ納豆はどうだろうか。


こっちは確実にそれっぽくなっては見えるんだけどなぁ。


崩壊。

マヨネーズ混ぜてないのにマヨ混ぜたような見た目。
そしてやはり強い粘り。neverねばねばー。

語彙


エクストリーム納豆のはずがよくわからない丼。
それぞれに醤油と小葱を少し加えてあります。というか、醤油でいいから少し水分加えないと粘りすぎてまとまらない。

さて、問題の味なのですが、臭い。
特にアカハタ。普通に加熱すれば美味しいアカハタが、微塵も面影がなくなりました。そして納豆的な美味しい香りよりも青ポリバケツ寄りの香りになっています。シュールストレミングのアンモニアの拡散力だけ取り除いたような臭気が半分混ざってるといえばわかり易いでしょう。そしてヌルヌルなのにバラバラになった繊維が主張しているので舌触りがザラザラする。
これはダメなのだ。

そしてシロザケ。
臭い。アカハタに比べれば若干弱いものの基本的な食感や異臭の質は変わらない。しかしこちらのほうがまだサケの面影が残る風味があるだけマシだ。
おまけして100点満点中11点くらいはあげられるぞ。

こうしてみると大豆の安心感ハンパない。
やはり細胞壁のない魚では細胞の結び付きが弱いので蛋白質が分解されると崩壊してしまうということなんでしょうか。(異臭は全く別問題だと思うんだけど)


ならば普通の筋肉じゃないヌタウナギならどうでしょうか。
皮剥いて干物にしてあったものを水で戻し、圧力鍋で3分加熱。

この状態でも既に普通の魚っぽくないので、どうなるか少しは期待する。
同じようにして藁苞で30時間保温。


見た目あまり変わらないけど、口に入れたら粉々になる物体が生まれました。
粘りはあるんだけど、シロザケやアカハタほどにはならなかった。粘りも少ないけど臭味も少ない。極端に悪い方向へも振り切らなかったけどこれでは問題児を引き立てるモブくらいの存在にしかなっていない。

んー、正直、ヌタウナギがダメだったのか干物にしてあったからダメなのかイマイチ判断つかない。
こうなってくると、もっと素直になったほうがいいのではないか。


素直とは一体・・・


気付いたらイカを爆発するくらいまでチンしていたので詰めていきます。

正直、銀杏で美味しい納豆いっぱい作って心ゆくまでつまみにしたいです。
でも逃げちゃダメだ。

在宅時間の都合上、今回は45℃20時間くらいでどうなるか。
ギリ間に合いそうではあったんだけど、こういうのは用事の直前に摂取して腹壊すと面倒なのでなかなかタイミングが難しい。

正直、うまくいくカタチが想像できなくなってきたのでやる気がなくなっていたのですが、藁苞だけは在庫作ってあったので最後の希望に賭けます。イカやタコならば長時間煮ても身崩れしない実績がありますし、加熱して水分が適度に抜けたものなら大豆の70~80%程度の蛋白質を含有しています。世では味が薄いイカは価値が低く扱われる傾向があるので、うまくいけば活路があるのではないでしょうか。成功したら面白いことになるのではないか。なったらいいな。

できました。
皿の中心に寄せる気力のなさからもやる気のなさがうかがえます。


できた・・・のか?


・・・。


あぁ、肉眼ではイマイチよくわからなかったけど、拡大してみるとなんとなくそれっぽくはなってる・・・か??
でもやっぱりベースが白いからかよくわからないし、大豆の時ほどはっきりとしたバイオフィルムが形成されていなくて判断しかねますね。
なにより、香りがやっぱり納豆というよりはアカハタやシロザケで作ったものに少し寄ってる。

とりあえず混ぜてみましょう。

あるぇー?
粘性はあるのに全く糸引かないんですけど。
これっぽっちもまとまってこない。
大丈夫なのかこれ。
他の菌大増殖ってことになってないのかな。


ゲソはあえて刻まずゲソのままにしてみたんだけど、見た目ゲソのままなんだよね。
食べる前にひとつ指でつまんでみようか。


うわぁ。
もちゃて潰れたよ。もちゃて。
ゲソの形をした何かに変わってますね。

見た目がイカなので頭が混乱しているのと、イカと藁苞が原料ゆえに腐敗してるんじゃないかという恐れがまっとうな判断力を阻害してくるようで、見ているだけでは食べて問題ないかどうか全く判断がつきませんでした。
こんな時は昔の人が通過してきたように、とりあえず口に入れてみましょうゲソ。

溶け・・・
付け根のほうは若干ゲソの歯応えが残っているけど、足先のほうは完全に舌で潰せるくらい均一の柔らかさになっていますね。長時間煮込んだおでんのタコなどとは全く違う、舌で潰すと口の中で溶解する感じ。
そして胴体のサイコロも同じく舌で潰せる柔らかさ。この感じ、大豆で作った納豆と同じ感じだ。ただ、発酵の進み方に差があったのかイカっぽい弾力が残っているサイコロもあったので藁苞に触れている部分が多かったものと中心近辺にあったもので差が出ていたのかもしれない。
全体にほんのりイカの香りが残っているので相変わらず混乱しているが、基本はやっぱり藁苞を煮込んでカビっぽくなったような香りに苦味が浮き上がってくる感じ。この苦味もよくよく脳を落ち着かせてみると、大豆の納豆を洗ってヌメリのなくなった豆の中身だけから感じる苦味や風味をそのまま強くしたような感じ。
完成度ひっく!
発酵具合にバラツキがあり、食べ慣れていないのもあってか安心感もついてこず、正直美味しいとはいえなかった。
最終的には、おなかの弱い私が食べて一晩経ってもなんともなかったので多分大丈夫だったとは思うんだけど。多分、これアカンやつやと脳が負けた状態で食べたらプラセボで腹下すパターンのやつだと思う。

まぁ、まだ考えられる方法はなくもないんだけど、世の中には「誰も思いつきもしないこと」もあれば「みんなが考えるけど誰もやらないこと」もあって、更に「誰でも思いつくけど試したら地獄だった」なんてのも山ほどある訳で、ここまでやってみた段階でやっぱりこれ植物でなきゃ美味しい納豆になんねーんじゃね?って気持ちになってくる。
きっと表にあまり情報がないだけで、商品開発に携わる人達は動物性タンパクで屍の山を築いてきたに違いない。
そういう意味では昆虫ってのは外骨格によって崩壊しにくいという長所もあるので、蛹なら一旦干したものからフレッシュなものまで試してみても面白いのかなという気はしている。

とりあえず、植物タンパク以外で納豆作るのはリスクもありそうなのでやめといたほうがいいです。
おわり。

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  • コメント ( 3 )
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  1. 豆とメハジキのわらづとの比率が可愛い、わさび漬けが好きな人には美味しそうに見える画像かな?と読み進めていったら。
    魚介納豆にクトゥルフ的なおぞましさ(食味)を感じる。
    全然胃腸強靭ですよ、アレルギーでチョイチョイマーライオンになる自分羨ましいッス。

  2. ワカメでやったら普通のワカメがメカブに化けるのですね、わかります。

  3. キムワイプって初めて見聞きしました。理系の方にはおなじみウエスなんですね。

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