------------------------------------------------------------------
・
「さ、ここですよぉ」
ツバキが指さした場所は舞台脇の道具部屋である。
「・・・・・」
ゆっくりと辺りを見回すスミレの目に映った道具部屋には以前の面影などなにもない。
狭いながらもきちんと整理されていた部屋は、まるで泥棒が入った後のように散らかり
小道具を収納していた木の箪笥は、引き出しが全て抜き取られ、部屋の隅に積み上げられている。
そして、部屋の中央にはかつて帝劇の舞台で使われた小道具の数々が
木箱に詰め込まれ雑多に散乱していた。
それぞれの木箱には筆書きで「ゴミ」と大書きされている。
「この部屋はねぇ、あんた達変態さんを満足させるためのいろんなお道具を集めた
変態グッズ部屋として生まれ変わるんですぅ!」
「鞭とかぁ、首輪とかぁ、張り型とかぁ、浣腸器とかぁ!」
「ウレシイでしょ!スミレ豚さん?!」
「は、はいぃっ!う、嬉しいですわっ!」
「さ・・スミレ豚さん!そこに積んである汚らしいゴミ!
とっとと分別してくださいよ!」
「ちゃあんと!クズ屋に出すものと燃やしちゃう物と分けるんですよぅ」
「は、はいっ!精液便所豚スミレっ!
一生懸命ゴミ片づけ致しますぅっ!」
気を付けの姿勢で年下の元同僚の指示を復唱する華族令嬢の何という情けなさ!
まるで、軍隊の士官と新兵のようだ。
・傍らの折り畳み椅子に腰掛け現場監督宜しくあれやこれやと指示を出すツバキに監視されながら
素っ裸の家畜奴隷がいそいそと肉体労働にいそしむ。
(あぁ・・・これは「青い鳥」でアイリスが使った鳥篭・・)
(「西遊記」でカンナさんが使用した如意棒・・・)
(あら・・懐かしい、わたくしが「椿姫」で使った扇子だわ・・・)
懐かしい小道具を前に、スミレの脳裏に過ぎ去りし日の楽しい想い出が次から次へと蘇る・・・
「こらっ!どうせみんな捨てちゃうんだから
はやくしてくださいよぅっ!」
「は、はいぃっ!」
感慨に浸る暇もない。
スミレは木箱を次々に開けては金属製の物と布や木で出来た小道具を必死になって仕分け続ける。
そして、スミレの手がある木箱の前で止まった・・・
縦横40cm、深さ60cm位の桐箱である。
箱には蓋が付いていない。
中に入っているのはカツラのようだが、おかしなことにそのカツラからは
箱からはみ出すように金属で出来たポールが二本、にょっきりと生えているのだ
(あら・・これはなにかしら?カツラ?変な角が出てますけど・・・)
スミレはその二本のポールを掴むと、ひょいと箱から取りだした・・
・
・
・
・
・
「!!!!!!!!!」
「・・・!・・・!」
声すら出せぬ!
自ら箱から取りだした物体は、なんと歌劇団の盟友!
帝劇の誇る天才エンジニア、紅蘭の首!!!
「うひいいいいいいいいいいっ!」
あまりの衝撃にスミレは持っていた紅蘭の首を放り投げた!
三つ編みに編み上げられた少女の首が宙を飛ぶ!
ゴッ!
紅蘭の首が床に落下し鈍い音を奏でた
そのままコロコロとツバキの足下に転がる。
「あらあら・・・」
ツバキは何事なかったように椅子から立ち上がると
床に落ちた天才エンジニアの首を拾い上げた。
わざとらしくスミレの方に紅蘭の顔を向け、そのままポンポンとホコリを払う。
「ああああ・・・そ・そんな・・そんな・・・」
スミレはパニックに陥っていた。
膝がガクガクと笑う!全身の血の気が引き、頭の中が真っ白になる!
そんなスミレにツバキが紅蘭の生首を抱えたまま言葉をかけた。
「非道い女ですねぇ!紅蘭ちゃんの頭にこぶが出来ちゃぃましたよぅ!」
「せっかく、久しぶりの再会なのにねぇ!紅蘭ちゃん!」
ツバキが手に持った紅蘭の首に話しかける。
すると・・
・
・
・
パクパクパクパクパク・・・
!!!!!
なんと首だけになった紅蘭の口が動いている!
「・・しゅ・・・しゅみ・・れぇ・・」
「・・・たひゅけ・・て・・たひゅ・・けて」
・
・
・
「うわああああああああっ!」
・
恐怖と衝撃で錯乱したスミレの絶叫が劇場中に響き渡る・・・
・