ああ、素晴らしきかな、経営再建
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本屋やネット書店を眺めると、経営論やマネジメント論に関した、ビジネス本や自己啓発本で溢れています。
しかし、その多くは、安定した大企業の成功体験ばかりです。経営をしていく中で、本当にどうしたら良いか分からなくなった時、例えば、「売上の8割を超える最大の顧客を失ってしまった」、「資金調達を今週中になんとかしないと」などという、切羽つまった経営危機状況で役に立つような本は、なかなかありません。
そこで今回ご紹介したいのが、不朽の名作と名高い映画「素晴らしきかな、人生」。
130分の映画を通じて学べる「ピンチを乗り越えるための企業戦略」は、忙しい経営者の方にうってつけの最高のマネジメント名画です。
《あらすじ》
ジョージ・ベイリイは子供のころから、生まれ故郷の小さなベタフォードの町を飛び出し、世界一周旅行をしたいという望を抱いていた。彼の父は住宅金融会社を経営し、町の貧しい人々に低利で住宅を提供して尊敬を集めていたが、町のボス、銀行家のポッターはこれを目の仇にして事毎に圧迫を加えた。大都会のカレッジを卒業したジョージは懸案の海外旅行に出ようと思ったが、突然、彼の父が過労のため世を去った。ジョージは、株主会議で後継社長に推され、承諾せねばならぬ羽目となった。やがてジョージは幼馴染みのメリイと結婚した。そして豪勢な新婚旅行に出発しようとした時、世界を襲った経済恐慌のため、ジョージの会社にも取つけ騒ぎが起こった。ジョージは旅費として持っていた5000ドルを貧しい預金者たちに払い戻してやり、急場をしのいだ。そのため新婚旅行は出来なくなったが、2人は幸福な結婚生活に入り、次々と4人の子供に恵まれた。住宅会社の業績も着々と上り、それに恐れをなしたポッターはジョージ懐柔策に出たが…
「素晴らしきかな、人生」は、世界恐慌、2度の世界大戦、競合他社の陰湿な妨害などによる経営危機を乗り越えていく、住宅金融専門会社の2代目社長の話です。主人公ジョージの経験から、経営危機の対処法を学びましょう。
人は人で動く。顧客ロイヤリティを高めよ
主人公ジョージが経営する会社は、資金調達に苦しんだ時に、地域住民や古い友人から融資・寄付を受け倒産を免れます。
資金調達に苦しんでいるローン会社を、地域住民が寄付をして助けるという話は、確かに、荒唐無稽かもしれません。
しかし、ここで学ぶべきは、主人公の会社の顧客ロイヤリティの高さです。
主人公は、『貧しい人に住宅を』という顧客第一主義を掲げ、実際に恐慌や戦争が起こった際には、個人資金を使ってまで、地域の貧しい人たちを救います。
これが顧客満足度の向上に繋がり、会社がピンチの時には、彼らが手を差し伸べてくれるような、ロイヤルカスタマーの創出に成功しました。
「人、製品、利益、この順番に大切にする。」と言ったのは、数々の経営危機を乗り越えた「HARD THINGS」の著者ベン・ホロウィッツです。
彼も経営危機の際は、顧客の声を正確に把握することが重要だと述べています。経営者は特に、ロイヤルティを測定する指標をしっかりと把握すべきです。
ロイヤルティを数値化する指標として代表的なものに、NPS(ネットプロモータースコア)という指標があります。NPSは、アップルやグーグル、P&Gなどが導入していることで知られ、近年日本企業でも導入が進んでいます。
たとえ短期的な利益最大化に繋がらずとも、常日頃顧客ロイヤルティを重視した経営は、有事に必ず強い足腰となって会社を支えてくれるでしょう。
悪いニュースこそ共有せよ
劇中、主人公ジョージは資金調達で追い詰められ、自暴自棄になり、自殺しようと家を飛び出します。その時、妻のメアリーは、町の住人や顧客、友人に、会社の状況を説明して、助けを求めます。その行動が人々の善意の寄付につながります。
自分の弱みを見せずには助けを求められません。
経営がピンチの際には、社内間のコミュニケーションが最大の課題であり、そこで最も重要になってくるのが信頼関係です。ピンチに強くなる企業文化を創り出すには、物事をありのままに伝え、悪いニュースを共有することが大切です。
どんな問題でも自由に語れる会社は、迅速に問題を解決できる会社でもあります。
これを実務レベルに落としこんで、考えてみましょう。問題に最初に気付くのは、ほとんどが現場担当者です。彼らが、上からの叱責に怯え、自分の保身の為に報告をしない事が一番恐れるべきことです。
対策として、社員間では気軽に話し合えるような雰囲気を醸成すべきです。また、問題があることを報告するインセンティブを与えるような施策をとりいれるのも有効でしょう。
ビジョンと情熱を忘れるな
現在は名作として名高い本映画ですが、公開当時は興行的に失敗しました。しかし、年月を経て再評価され、アメリカ人が一番好きな映画と呼ばれ、あのスティーブン・スピルバーグ監督も一番感銘を受けた映画としています。
この映画が公開当時は評価されなかった要因として、『勧善懲悪なストーリー』と、『善行を積めば救われる』、といった、単純で“理想主義的な面”が挙げられます。
それに対して、この映画が再評価されたのは、ベトナム戦争後でした。理不尽な出来事で夢を潰され、自己肯定感が低く、己の不幸を嘆く主人公が、理想の為に身を削り、人生のどん底から復活していく様が、当時の疲弊したアメリカ市民の心を掴んだのでしょう。
やはり、人生も経営も、逆境の時に最も必要なのは「理想」や「ビジョン」なのではないでしょうか。例を挙げるまでもなく、ビジョンが浸透していない組織は、統制が取れていないために、大きな決断を迫られた時に、動きが鈍くなってしまいます。全体として方向性を見失わない組織になることで、ピンチの時に小回りがきく判断と実行が早くなります。
ビジョンの明文化、ビジョンを判断軸とした練習の場、社内報や社長賞など、ビジョンを体現する社員の働きに報い、労う仕組みは多数存在します。有事に応急処置が効くことは珍しく、常日頃からの社内エンゲージメント向上努力がものを言うのです。
人生を肯定する力を貰える映画
この映画はパブリックドメインになっており、比較的容易に鑑賞することができます。
鑑賞後は、ただただ、やる気が湧いてくるような人生賛歌になっており、ストーリーが分かっていても何度も見たくなる映画です。
経営危機マニュアルのバイブルとしてはもちろん、名作映画としても、ぜひお楽しみください。