たしかに便利だけど…少し不安。デルタ航空が導入する顔認証システム

たしかに便利だけど…少し不安。デルタ航空が導入する顔認証システム

空港での手続きが簡単になりそうです。でも…

オーストラリアやフランス、カナダなど、乗客の追跡のために顔認証システムを導入する空港は世界的に増えています。アメリカでもドナルド・トランプ大統領の掲げる「過剰な審査(extreme vetting)」制度改革の一環として、保安検査場で顔のスキャンを要求するなど米国民に対する顔認証が始まっています。

米・デルタ航空も、60万ドルを投資した試験的プログラムを今年の夏に開始します。新たな顔認証システムとして、パスポート写真と乗客が一致するか識別検査するマシン「バイオメトリック・バッグドロップ」をミネアポリス・セントポール国際空港に設置するんです。

預け入れ荷物のセルフサービスの導入も合わせて、今回の新技術によって乗客の空港手続きの簡易化や時短が期待されています。プレスリリースでは「お客様の旅行をこれまでになく簡単に、一流の顧客体験を提供し続けます」とシニアバイスプレジデントのGareth Joyce氏がコメントしました。一方で、プライバシーに関する詳細が希薄だという指摘も。広報担当によれば「デルタ航空はすべてのプライバシー法を遵守する」とのことですが、それでもまだ懸念が残るのには要因がいくつかあります。

ひとつは、どこがやるのか。アメリカ国土安全保障省、税関、国境警備局であれば、連邦政府の機関として、どんなデータを収集・使用するかについて透明性が求められます。その一方で民間企業に求められるのは、プライバシー法を遵守すること。アメリカでは、バイオメトリックデータを収集することについて(テキサスとイリノイの2つの州を除いて)主な規制がないのが現状です。そのため、バイオメトリックスやフェイススキャンといった領域に足を踏み入れる民間企業が、人々の不安を呼び起こすのは当然だと言えそうです。

ところが、規制されてもなお問題は残ると考えられます。2016年のジョージタウン大学ローセンターの調査によると、アメリカの成人の半数以上がFBIの顔データベースに記録されています。 当初は凶悪犯罪者向けに作られたものですが、FBIがパスポートや運転免許証の画像を扱いはじめてから一般市民のデータが急増。結果として、大多数は犯罪歴のない人々のデータまで蓄積されていて、多くの人は自分の顔が記録されているさえ知らない状態だといいます。フェイススキャンが一般化されると、将来的には空港にいただけでデータベースに追加されることだって懸念されます。すでに難民に対するソーシャルメディア検閲を行なっている米国務省では、同様のデータベースを構築していることが明らかになっています。

デルタ航空は、今回の顔認証システムが「乗客の写真を保管することはない」と主張しています。ただ、乗客のデータが悪用されようとそうでなかろうと、今回のシステム導入は空港での顔認証プロセスの一般化につながる重要なステップになり得るでしょう。

今回の新技術はたしかに空の旅を簡単にするかもしれませんが、ひとつの民間企業が巨大な顔認証システムを保有することのリスクにも目を向けたほうがよさそうです。とりわけ、顔認証、預け荷物のチェック、保安検査場など一連の空港審査プロセスでバイオメトリックデータや渡航歴など非常にセンシティブな情報が扱われるのですから。

top image: Sorbis / Shutterstock.com
source: Engadget
reference: Pr Newswire, The Guardian, Bloomberg Technology, CBC News, The Verge, Gizmodo US, Proskauer Rose LLP

Sidney Fussell - Gizmodo US [原文
(Rina Fukazu)