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2017.05.23
医療者からの副作用報告増やそう
東北大病院などが研究
医薬品の安全確保には、副作用情報を当局が早期に把握することが重要だ。現行制度は、製薬企業からと医療関係者からの2ルートで国が副作用情報を集める仕組みだが、実態は企業報告が9割を占める。「医療者がもっと積極的に役割を果たせないか」と、医療現場での副作用情報の収集や報告を促進するための研究を、東北大病院などのチームが進めている。
▽より重要に
医薬品は、実際に患者に投与する臨床試験(治験)で効果と安全性が確認され、国の承認を受けたものだけが販売される。しかし、治験で薬を試す患者の数は限られているため、頻度が少ない副作用などは、販売後に広く使われて初めて明らかになる場合もある。
かつては、海外での販売から大きく遅れて承認される薬が多かった。新薬の恩恵が患者になかなか届かない半面、副作用では海外事例を参考にすることもできたが、近年は海外とほぼ同時に承認される薬が増加。「その分、販売後の副作用監視は重要性を増している」と研究チーム代表を務める東北大病院薬剤部長の真野成康教授は指摘する。
製薬企業は、医療関係者から自社製品の副作用情報を収集し、国の窓口である医薬品医療機器総合機構(PMDA)に報告することが求められている。医師、薬剤師ら医療関係者も報告することになっているが、PMDAによると、2015年度に報告された薬の副作用5万7千件余りのうち89・3%は企業からだ。
▽不十分な理解
なぜ複数ルートの副作用報告が必要なのか。「情報の偏りを防ぐことができ、未知の副作用の兆候をつかめる可能性が高まる」とチームの小原拓・東北大病院准教授。
チームは「医療者からの報告を増やすには、報告が進まない原因を探る必要がある」として15年、全国の病院勤務の薬剤師を対象に調査を実施。約3800人の有効回答を分析したところ、PMDAに副作用報告をしたことがない薬剤師は58%に上った。
報告しなかった理由を尋ねたところ、「既に知られている副作用だった」「医薬品と副作用との関連が不明確」などが上位を占めた。
小原さんは「既知の副作用も、関連が不明確でも報告すべきとされている。制度の趣旨が十分に理解されていないことが分かった」とまとめる。
チームが国立大学病院や宮城県内の病院計167施設にさらに詳しい調査をしたところ、医薬品情報を一元的に管理する部署がある施設、副作用報告のフォーマットをあらかじめ定めている施設では、副作用の報告率が高いことが分かった。
真野教授は「報告基準を明確にして広く知らせることが、報告を増やすには有効ではないか」と話し、今後、適切な基準についてさらに研究を進めたいとしている。
▽工夫で増加
東北大病院薬剤部では約10年前から、医薬品の安全性に関する情報を1カ所に集め、副作用情報を記録する現場の負担をなるべく減らすよう工夫を重ねた結果、院内での副作用情報の共有が進み、PMDAへの報告も増えたという。
「今後、在宅医療やジェネリック医薬品の使用はますます広がるとみられ、企業や大規模病院頼りでは副作用の発見が遅れる可能性がある。薬局をはじめとする地域の医療者がこの制度への理解を深める必要がある」と真野さんは指摘する。PMDAも「特に小規模な医療機関について講習などを通じ、制度を知ってもらうよう努めたい」(広報課)と話す。
患者にもできることがある。小原さんは「気になる症状があったら我慢せず医療者に訴えてほしい。それが全ての出発点になる」と話している。
(共同通信 吉本明美)