原則として大学まで学費が無償の大陸ヨーロッパ
わたしはエストニアの大学で留学生として学んでいますが、英語で教授される留学生向けのコースのみを履修しているので、普段から交流しているのもエストニア人学生より各国からの留学生のほうが多いです。
留学生のほとんどは学費の支払いが必要ないのはもちろん、生活費まで支給されているので、アルバイトをしている学生はほとんどいないですね。エストニアの物価がかなり安いためか、みんな生活にそこそこ余裕があるようで、学期を終えるとヨーロッパ諸国を数週間かけて何か国も旅行してから自国に帰る学生が多いです。
一般のエストニア人学生はそこまで余裕はないようで、アルバイトをしている学生がわりといます。とはいえ、他の大陸ヨーロッパ諸国と同様、エストニアも原則として大学まで学費が無償なので、日本の大学生ほどの過大な負担を抱えるケースはあまりないようです。
「原則として」無償という前提を設けたのは、
- 大学入学試験の成績により、「学費負担という条件付きで」合格した
- すでに所有している学位と同等の学位を取得するために再入学した
(例:いちど大学を卒業し、『文学』のBA学位をすでに持っているが、『社会学』の学位を取得するために大学のBA課程に再入学した)
といった場合については学費が有償になるらしいからです。まあ、そういった例外は少数で、基本的にほとんどの学生が無償で大学で学んでいます。エストニアは人口規模も経済規模も小さい国なので、国際競争に勝つための手段として「国民の教育レベルの高さ」を売りにしているんですよ。エストニアの大学進学率は70パーセントで、フィンランド(87.3パーセント)やデンマーク(81.5パーセント)には及ばないものの、日本(63.4パーセント)を大きく上まわっています。(数字はいずれも UNESCO, 2016)
高等教育を無償化できない日本の「貧しさ」
わたし自身は北欧の国立大学で好きな学問に思う存分時間を費やすことができる身分なのでなんの不満もないのですが、それでもため息をつかざるを得ないのが、
「もしも大陸ヨーロッパの国々に生まれていれば当たり前のように無償で高等教育が受けられただろうに、日本の貧困家庭に生まれてしまったばかりに将来をあきらめなければならない若者がたくさんいるんだろうなあ」
ということです。これは本当に心が痛いですね。
不幸にも日本に生まれてしまったばかりに、どれだけ努力をしても夢を叶えられない若い人たちがいるんだろうなあ、と。大陸ヨーロッパではあたり前の社会保障すら提供できないって、やはり日本は「貧しい」国なんですねえ。
多くの日本人は「機会の平等」というものに興味がないんだろうなあ、と思います。それどころか、むしろ「社会的平等」みたいなものに肌に粟を抱くような嫌悪感を持っているんじゃないんでしょうか。「平等?? そんなものを保障するなんてとんでもない!」と。
日本で好まれるのは、もっとこう「身の程を知る」とか「身の丈に合った」とか「身分を弁える」みたいな発想なんですよね。
「社会的な不平等は社会的な要因によるものなわけだから、そういった不平等を取り除こう」
などという発想は大嫌いで、
「いくら不平等が存在しようが、それを決して社会のせいにせず、努力と根性で這い上がることこそ日本人の美徳!!!」
みたいな考えがスタンダードなんです。
「貧しい家庭に生まれたために高等教育が受けられないだと?! そんなやつは世の中にたくさんいる!! 自分の環境のせいにせずに根性で這い上がれ!!」
とか。なんというか「ザ・ニッポン」って感じですよね(笑)
そういう思想の人たちが、自分たちだけで「組体操!!」「素手で便所掃除!!」「サービス残業は日本人の美徳!!」「汗と涙!!根性根性ド根性!!」などと勝手にやっててくれる分には何の問題もないわけですが、この手の人たちは他人まで巻き込もうとするので困ったもんです。
日本のみなさんは国際スポーツ大会があるたびに自国の代表をやたらと「サムライ JAPAN」だのなんだのと武士になぞらえたがりますが、ほとんどの人たちのメンタリティは被支配階級のそれですからねえ。江戸時代の農民みたいなアタマでしか考えられないわけですよ。「社会にモノ申す」なんて、とんでもないことだと思っているんでしょうね。
ま、NHKで「子どもの貧困について考えてほしい」と訴えた高校生を寄ってたかって袋叩きにし、「保育園落ちた日本死ね」という子育て中の親御さんの悲痛な叫びさえ平然と踏みにじるような日本については、わたしは「とんでもない民度の国なんだなあ」としか思えないのですがねえ。ま、わたしはすでに日本に住んでおらず、今後も帰ることはないでしょうから、どうでもいいことです。日本にお住いのみなさんがお好きなように決められればよろしいのではないでしょうか。
しかしヨーロッパに移れて、本当に良かった……。
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