Photo Stories撮影ストーリー
砂岩で作った顔料でジュリアさん(右)の顔をペイントするニキさん。森の生活共同体「ワイルド・ルーツ」の敷地を流れる小川で撮影。(PHOTOGRAPH BY MIKE BELLEME)
2007年、1組の男女とその友人たちが米国ノースカロライナ州の森で小規模なキャンプを始めた。やがてキャンプは彼らの家となり、さらに1つのコミュニティーに発展した。
これが「ワイルド・ルーツ」の成り立ちだ。ワイルド・ルーツはノースカロライナ州西部の森にある生活共同体で、いくつかの原則に従ってつくられた。その原則とは「自由に生きる」、「無駄を出さない」、「常に学び続ける」だ。約12ヘクタールの土地に集団で暮らし、食事をし、水浴びをし、生きていくための「アーススキル」を駆使している。自分たちの知恵で何でも作り、知らないことがあれば、森に教えを請うという生活だ。
ワイルド・ルーツの創始者はトッドさん。反体制派でもなければ、発展した社会を恐れているわけでもなく、ただ嫌悪感を抱いているだけだ。「われわれはばかばかしいほど膨れ上がった社会のぜい肉を食べて生きているんです」。コミュニティーの住人たちが時々、スーパーへ「ごみ箱あさり」をしに行くことについて、トッドさんは写真家のマイク・ベレム氏にこう説明する。森ではドングリやクリを収穫し、おかゆの材料にしている。(参考記事:「捨てられる食材で5000人に食事、米NYで」)
ベレム氏が初めてコミュニティーを訪問したのは2009年。12~14人ほどが暮らしており、皆が歓迎してくれたが、共通の哲学というものが存在しないことにベレム氏は興味を抱いた。社会規範への反発や環境保護を目的としたほかのコミュニティーと異なり、ワイルド・ルーツには共通したビジョンはない。彼らにとって居心地が悪いのは、箱のような家に閉じ込められたり、社会から疎外されたり、拒絶されたりすることだ。もし共通点があるとすれば、ただ学びたいという気持ちだとベレム氏は考えている。(参考記事:「27年一度も人と接触せず、ある森の「隠者」の真相」)
2011年、森での生活にすっかり慣れたトッドさんは手に入る材料だけで、屋根に樹皮を張った山小屋を建て始めた。木を削って釘にし、オークの木で梁をつくり、ユリノキの幹から樹皮をはがした。しかし、完成後間もなくトッドさんはこの家を放棄した。一帯の濃霧が原因でカビが発生し、別の家に移らざるを得なくなったのだ。
トッドさんは当初、土地で獲れる物だけを食べることを理念としていたが、考えが甘いかもしれないとすぐに気付いた。自然が失われていることで、一帯の動物の数も減少していたのだ。時折、狩猟者たちが森に立ち入るのと引き換えに、余分に捕まえた獲物をコミュニティーに置いていく。とはいえ、いつもごちそうにあり付くことができるというわけではない。ベレム氏が訪れたときは、住人たちは1頭のクマから肉を取った後、脳と舌、目玉を煮込み、保存食として容器に入れていた。ベレム氏も味見をしたという。(参考記事:「【動画】珍事!車に戻ったら中にクマが」)
森での暮らしに不便は付き物だ。テクノロジーのない生活は自由だが、同時に、社会からの隔絶を意味する。そのため、一部の住人は週に1度、トラックで近くの町へ行き、公共図書館のコンピューターで家族に電子メールを送ったり、ニュースを読んだりしている。肉屋を訪ね、廃棄される部分を譲ってもらうこともある。(参考記事:「『電気があると睡眠時間が減る』は本当か」)
ベレム氏によれば、ワイルド・ルーツは10年弱で、小さな生活集団から教育的なコミュニティーに成長したという。現在はウェブサイトを開設し、事前に連絡すること、病気でないことを条件に、訪問者も受け入れている。現地では、料理や鍛冶、木工を体験できる。
コミュニティーに序列がないということは、誰でも学び、教えることができ、誰にも成功あるいは失敗の可能性があるということだ。ただし、ある季節が来ると、誰が最も献身的かが試される。冬になると、集団が小さくなるのだ。コミュニティーに残るのはトッドさんだけということもある。