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 自殺に追い込まれた人は直前にSOSを出しているという。身近な人が気づくことが大切だともいう。そうであるなら、見落とした私たちはどれほど愚かなのか――。34歳の長男を自殺で失った大阪市の母親(53)と父親(52)は「この世の地獄そのもの」と、ひたすら悔いる日々を送る。

 「これが私の産んだ子か」。棺(ひつぎ)の中にいる長男の左ほおに右手を添えて、母親は思った。

 「葬儀が終わったら、自分も死のう」。長男の右ほおに左手をあてて、父親は考えた。

 父親だけが泣いた。「冷たい」という手の感触は、2人とも同じだった。

 昨年9月に長男が亡くなってから、2人は月命日の墓参りを欠かさない。語りかける言葉は変わらない。

 母親は「いつもわがままを言ってきたやんか。どうしてこの時だけ、この道を選んだんや」。

 父親は「ごめんな。もっと早く何かに気づいてやれれば。ごめんな。SOSに気づかれんで」。

 周囲がSOSに気づいてあげて。自殺防止をめぐって必ず出るこの言葉に、2人は打ちのめされている。

 離れて住んでいた長男は死の2日前、2人の家に遊びに来た。いつもの何でもない日常。何の印象も残さなかった。

 前日、「お金を貸して」と電話をかけてきた。たまにあったことだ。「いまから取りにくるか」と尋ねた父親に、「明日でええ」と答えた。

 亡くなった日の夜、「おかんたのむわ(笑)」というメールを友人に送っていた。そのことを、2人は翌朝に知った。

 父親は「無念。断腸の思い。悔い。いろいろ言えますが、正直に言うて、今も理由が分かりません」。

 母親は、長男の人生すべてがSOSだったのだと思いつめている。

 離婚したとき、小学4年の長男を引き取った。いまの夫と同居するようになった4年前まで、ミナミのクラブで働き、雑貨店も営んだ。「小学生に独り暮らしをさせたようなもの」

 幼稚園の連絡帳に、「元気です。でも、お友だちにいじわるしたんですよ」と書かれた。夢はお相撲さん、後にプロボクサー。高校を出て職を転々とした。20代の一時期、うつ病だった。毎年一緒に行った沖縄旅行では、浜辺でぼんやり寝そべってばかりだった。

 「孤独だ」「寂しい」。長男はいつだって、そう叫んでいたのだ、と母親は考えるようになった。SOSじゃないと思えるのは、3600グラムで生まれたことぐらい。自分の子育ては全て間違っていた。あらゆるSOSに気づけなかった。そう自分を呪い続けている。

 長男の遺影は枕元に置いてある…

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