2017-05-23
■AIをとりまく状況はおもしろい 
最近、テレビや映画関係の人から「AIの描写の考証をしてほしい」と依頼されることが増えた。理系が増えてきているからリアリティのある描写をしたい、ということなのかもしれない。
脚本を渡されて「こういうことってあり得るんですか?」と聞いてくる。どのみち絵空事なんだから、そんなに真面目に考えなくてもいいと思うが、まあある程度はリアリティのあるストーリーにするにはこんな感じかなあ、という程度の感想をお伝えする。
で、AIの面白さをすごく短く伝えることの大事さを日々痛感している。
昨日はフジテレビのネット配信番組ホウドウキョクで、25分という短い尺の中でAIの面白さをいかに伝えるべきか考えたら、案の定詰め込みすぎてしまい物凄い早口になってしまった。でもAIの面白さは伝わってるんじゃないかと思う(伝わってるといいなあ)
世の中には真のAI的であるものと、そうでもないものが入り乱れてる。誰も大きな声で言わないが人工知能学会ですらそうである。まあ僕はもともとアカデミズムに属しているわけではないので(いまはやや属しているが)、しがらみもなく適当に「それはインチキ」と言ってればいいというわりと気楽な立場ではある。
日本の会社は残念ながらほとんどAIとは呼べないものをAIと呼ぶことにして名前をつけて商品化することに勤しんでいる。たぶん、そのやり方でもごまかせる相手がいるのだろうし、そういう人(会社)は技術の内容よりも誰がそれを売っているかということのほうを重要視しているのだろうからある意味でWin-Winであると言える。ただ、日本国内の資産が全く無駄なことに使われ、騙されてAIもどきを導入したみんながなんとなくAIは胡散臭くてインチキなものだという誤った失望が生まれることを考えると、あまり社会のためになっているとは言えない。
国としては、こうしたインチキなAI商品が跳梁跋扈する状態を見逃すべきではないし、早急な対策が求められる。
というのも、なぜこんなインチキがまかり通ってしまうのかというと、そもそもこれまでAIと呼ばれていたものは、30年間の間、ほとんど進歩らしい進歩をしなかったからだ。
ところが全くみんな(AI研究の主流派)が無視していたところから突然、深層学習(ディープラーニング)というとんでもない成果が生まれ、それまで30年間、だらだら続けてきてあまり成果の出てこなかった人間の研究者たちを次々と乗り越えていった。
これにアワを食った人間の研究者たちは、慌てて「はい、こちら人工知能の専門家でございます」ととりあえず言ってみることでドサクサに紛れて予算と仕事を確保しようと画策しているである。
残念ながら、学会にも企業にも深層学習の専門家はほとんど居ないというのが厳然たる事実であり、これは世界的に見てもあまり変わらない。だからこそ、最新の成果がGoogleやFacebookといったわずかな組織からしか出てこなくて、ちょっと前まで世界の最先端を突っ走っていたように思えるAppleやMicrosoftでさえ、AIの世界では存在感が薄いのである。
日本ではプリファードネットワークス(PFN)が深層学習の総本山という認識をみんなが概ね抱いているが、彼らが本来専門としていたのは深層学習以前の機械学習であり、深層学習の経験値は実際にはそれほど高くない。せいぜい2,3年のアドバンテージに過ぎず、今から若くてエネルギッシュな学生ベンチャーが目指しても易易と超えてしまう可能性があることは指摘しておく。
PFNが他の会社と違うのは、たいていの機械学習研究者と異なり、深層学習の可能性を早々に受け入れ、飛び込む覚悟を決めたことにあった。深層学習そのものは2006年からあるわけで、これまで殆どの人がまるごと無視していた領域であることに変わりはない。面白い偶然だけど、僕が深層学習を本格的にやり始めた頃とPFNがChainerの開発をしていた時期は重なっており、たぶんそのタイミングで深層学習をやるかどうか経営判断できたというのが今は効いてるのだと思う。
が、これとてしがらみの産物なので、全く無垢な学生が深層学習ベンチャーを立ち上げて大成功する可能性は低くない。PFNの強みは独自のフレームワークchainerを持っていることだが、これは弱みにも成りうる。
確かにフレームワークを持っているのは強く見える。が、フレームワークを持っているだけでは商売にならない。GoogleやFacebookのように湯水の如く入ってくる広告収入があるならまだしも、そういう源泉を持たない会社がフレームワークだけを武器としてこの市場を闘うには少々分が悪い。敢えてフレームワークを持たないことで敢えて特定の技術に依存しないことが強みの会社が出てくるだろう。たとえばうちはそうだ。
AIのもうひとつの面白いポイントとしては、未だ有効な利用法があまり分かっていないということにある。Googleが計算資源を無償で開放し、フレームワークを広める裏側には、「誰でもいいからAIで儲けて見せてくれ(おれたちがあとで真似してごっそりいただくから)」という本音が見え隠れする。
AIは究極的にいえばヒトである。それを目指しているんだから。
ということは、なんでもできるが何も出来ない。Googleのように所数の天才が無数の秀才級の人間を集めた会社の場合、凡人と同等の知能のAIが何個入ったところで大勢に影響がない。要はネット企業ほど実はAIの使い所が限定されるという性質がある。
それでもAIにはなにかある気がする、とみんなが思っていて、その有効な利用法を必死で探しているのが現状だ。
僕らは深層学習AIを現実の業務に適用するコンサルティングを生業にしているが、個人的に今一番面白いのはこの仕事である。
なぜならば、特定のAIの用途を限定してしまうと、たとえば自動運転なら自動運転、金融なら金融でいいんだけど、AIの用途が限定されると、実は相対的にAIの出番が少なくなってしまってAIの開発以外のところにエネルギーを傾けなければならなくなるのに対し、AI導入コンサルティングの場合はAIの開発のみに集中でき、そのぶん、純粋にAIに対する理解が進み、たくさんの知見が得られるのだ。
Naumanniのクソリプ発見AIやNSFW判別AIは副産物だが、迷惑メールフィルタ(という少し前の世代のAI技術)がそれなりに機能しているように、こうしたAIもそれなりに機能するはずだ。
なぜネット企業がAIを上手く活用できないかという話しに一つ付け加えると、彼らは学習用のデータを持っていないのだ。ネットにある情報ならいくらでも集めることが出来るが、現実の世界の情報はほとんど持っていない。もちろんうなるほどの札束でデータを買うことはできるだろうが、「何を買えばいいのか」ということすらわからないというのが現状だと思う。ここにワンチャンあるのではないかと個人的には思っている。
ちなみにPFNの海野さんが書いた深層学習による自然言語処理、発売前重版決定だとのことです。おめでとうございます。僕も買いました。
深層学習による自然言語処理 (機械学習プロフェッショナルシリーズ)
- 作者: 坪井祐太,海野裕也,鈴木潤
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2017/05/25
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