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EU イギリス フランス
なぜイギリスは「EU離脱vs残留」の国内分裂を修復できたのか
同時並行で進む英仏の「実験」

イギリスのEU離脱と総選挙

昨年6月、イギリスが国民投票で欧州連合(EU)離脱を決めた際、この国は分裂を深めると予想された。しかし、現実は逆になっているようだ。

来月8日に迫った総選挙では、EUからの強硬離脱(ハード・ブレグジット)を掲げるテリーザ・メイ首相の保守党が地滑り的な勝利を収めそうな勢いである。

奇妙なことは、大陸欧州諸国では過激なポピュリスト政党が勢いを保つのに対し、イギリスではその存在感が低下していることだ。

イギリスで一体、何が起きているのか。

メイ首相テリーザ・メイ首相〔PHOTO〕gettyimages

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昨年の国民投票では離脱支持52%、残留支持48%の結果が出た。

この結果に世界は衝撃を受け、「イギリス人はポピュリスト政治家に騙された」などの主張がまかり通り、悲観主義が跋扈した。

諸悪の根源とされたのは「ポピュリズム(大衆迎合主義)」である。

今や、ドナルド・トランプ大統領を生んだアメリカの「トランプ現象」と、イギリスのEU国民投票の結果を一対のポピュリズム現象として見る捉え方が定着している。

それでは、国際社会からポピュリズム(知性が足りない、愚か者)批判を受けたイギリス国民は、この問題をどう咀嚼してきたのか。

 

調査会社「ユーガブ」は5月12日、興味深い世論調査の結果を発表した。それによると、今もEUに残留すべきだと考えている人は2割しかいないというのだ。

具体的にみると、離脱支持45%、残留支持22%、そして第3のグループとして国民投票では残留に投票したが結果を尊重し「政府には離脱する義務がある」と考える層23%などとなっている。

国民投票の結果に照らし合わせると、残留に投票した人の半数以上が民主主義のルールを潔く受け入れ、もはやEU残留を選択肢として捉えていない、ということである。

メイ保守党圧勝予想の背景には、こうした有権者のEU離脱に対する意識の変化があるようだ。

現時点での各党の平均的な支持率は、保守党45%、労働党32%、自由民主党8%、英国独立党(UKIP)6%、スコットランド民族党(SNP)5%などと続く。

イギリスの総選挙(下院)は完全小選挙区制で行われるため、保守党は圧勝のコースにあると言えるだろう。

国際社会が期待した「EU離脱決定の撤回」というような事態は、イギリス国民の大多数がもはや望んでいないのである。その現実は、2度目の国民投票の実施を公約に掲げる野党・自由民主党への支持率が8%に留まっていることが端的に示す。