2017-05-23

フリー素材モデル募集をやっていた男

とある有名なフリー素材サイトで、ディレクターをやってる奴が俺の知り合いにいる。

そいつとは6年前に、都内で一緒にイベント業をやっていた。

 

そいつは「1ヶ月の間で1000人集客できるタレントバーターで連れて来い」と言われて、その3日後に売れっ子モデルを何人も連れてくるような奴で、

海外有名ブランドからスポンサーを引っ張ってきたり、大手芸能事務所交渉して、売り出し中のモデルタレントアテンドしたりと、レコード会社から広告代理店ラジオ局まで、幅広い人脈を持ち、営業力と行動力が物凄い奴だった。

 

知らぬ間に大手レコード会社委託イベンターとしての肩書きも手に入れていた。

が、そんな肩書きをひけらかさず、自分ストイックで、いつもどこか寂しそうで、半グレからケツ持ち料をせびられても、文句一つ言わずに黙って支払っていたし、

どれだけチーマー連中から誘われようが、ほとんど飲みにもいかず、遊びにもいかず、常にメモを取り、眉間に皺を寄せ、何かに追い詰められているように生きている感じの奴だった。

 

一度飲みにいった時、先輩から「お前は秋元康みたいなプロデューサーになりたいのか」「それとも自分タレントとして表に出たいのか」「何かのディレクターになりたいのか」と聞かれて

「本当はバンドメジャーデビューがしたかったけど、それができなかった。」「ただ、何も実績が残せなくて、悔しくて、今自分にできること、やれることを必死で探している。」と、少し寂しそうに、淡々と落ち着いた口調で答えていた。

 

そいつイベントラジオ舞台と、色々なイベントキャスティングを受け持っていたが、ある日からフリー素材モデル」の募集もするようになっていた。

なぜ奴が急にフリー素材モデル募集するようになったのかはわからないが、当然、フリー素材モデルになれば、ネット中で自分の顔が使われるわけで、しか無償に近い案件、誰もやりたがらない。この案件には奴も苦戦しているようだった。

それでも奴は必死になって「これからWEBから有名になる時代が来るんです」「内輪だけのイベント舞台に出るよりも、ネットを使って露出したほうがよほど知名度につながるんです。」と、関わりのある、あらゆる素人モデルや売れない役者くずれに声をかけ続けていた。

 

今思えば、奴の言っていることは正しかったのかもしれない。

現に俺は、イベント業だけじゃ食っていけないから、日雇い労働派遣をしながら、YouTube動画配信をし、僅かな希望に縋り生活している。

 

ある日、そいつイベントプロモーターをやってる「ボス」と呼ばれる人に思いっきりぶん殴られていた。

ボスが可愛がっていたモデルと、フリー素材モデル契約を結ぼうとしたからだ。

「お前フリー素材モデルなんて正気か、何を考えてるんだ、頭がおかしいんじゃないか

だが、5年経った今、そのフリー素材サイトから、少しずつだが著名なモデルが輩出されていっている。

 

それから数ヶ月後、そいつはまたボスからぶん殴られていた。

どうやら「イベント業をやめてゲーム業界に行きたい」「子供のころからの夢」らしい。

「金儲けのことしか考えていないイベントや、芸能業界を目指す人を騙すような仕事には心底うんざりした。」と漏らした。

「目をかけてやったのに」「入れるわけないだろ」とボスは相当そいつに怒り狂った様子だった。

 

そして、奴がイベント業を離れてから、5年経った。

名前を聞けば、誰もが知っているような会社で、誰もが聞いたことのあるゲームの、最新作のスタッフロールに、デザイナーとして名を連ねている。

5年の間に、奴はゲーム業界に入り、世界的に有名なタイトルに、開発者として名を連ねた。

学校も出ず、独学で勉強し、ゲームクリエイターとして最前線で働いている。

 

フリー素材のサイトにはまだ関わってるのか。」

5年ぶりに再会した奴に、話を聞いた。

「ああ、やってるよ、仕事優先だけどね。この間はドローン飛ばしたし、今度は山に行く。」

「なんでやってるんだ、もうお前はイベント離れたし、関係ない案件だろ。」

「好きだからだよ。コンテンツを作って運営するのは勉強にもなるし、関わる人皆が得をする。いつまでも後ろを追って勉強していきたい。」

仕事はどうだ。」

給料は低いししんどいけど、自分達が作ったもの世界中の人に楽しんでもらえる。これほどやりがいのある仕事はない。」

 

「どうしたらお前みたいな生き方ができるんだ。」

ふとそいつに聞いたところ、こんな返事が返っていた。

「常に最悪な自分の姿を想像し、そうならないように生きてるだけだ。」

 

奴がディレクターをやっているフリー素材サイト写真は、ネット毎日見るようになった。

その写真を見る度に、常に苦悶の表情を浮かべていた奴が、「俺はゲーム業界に行きたいんです」と言って殴られた直後に見せた、微笑んだ顔を思い出す。

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