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 中国との関係を重んじる国民党から、台湾の独立を志向する民進党へ。政権の交代を果たした蔡英文(ツァイインウェン)総統が就任してから、20日で1年になった。

 この間、中台関係に大きな変動はなかったものの、少しずつ緊張が増している。

 蔡政権の姿勢は、対立を避けるために抑制的だったと評価できる。一方の中国・習近平(シーチンピン)政権は、国際的に大きな非難を招かない程度の抑圧や牽制(けんせい)を重ね、台湾への圧迫を強めてきた。

 民進党の元職員、李明哲氏が中国で「国家の安全に危害を与える活動をした」として拘束されたのは、その一例だ。2カ月が過ぎても連絡がとれず、国際人権団体が釈放を求めている。

 きのう始まった世界保健機関(WHO)年次総会には、09年以来続いた台湾代表の出席ができなくなった。中国の働きかけは明らかだろう。

 窓口機関の間で行われた中台対話は中断しており、中国から台湾への観光客は減った。

 圧力をかければかけるほど、台湾社会で中国への反感が強まるのは当たり前だ。

 いまの対立のもとは、中国が主張する「一つの中国」の原則を台湾が認めるのか、という問題をめぐるものだ。

 この原則は、台湾を中国の不可分の領土とする考えを含む。だから蔡氏は正面から答えずに「現状維持」を強調して接点を探った。それでも習政権は「答案はまだ完成していない」と、問いを突きつけている。

 台湾海峡に横たわる問いは、それだけではないはずだ。

 台湾では1991年、当時の李登輝政権のもとで、対中政策の基本方針となる「国家統一綱領」を定めた。その中で、中台統一への必要条件として、中国の民主化をかかげた。

 後に綱領は事実上廃止され、話題にならなくなったが、台湾社会の底流には中国の民主化をめぐる問題意識がある。

 台湾自身が80年代以降、民主化を経て今日に至っているからでもある。自由にものを言えるのか。政治に参加できるか。いつまで一党独裁が続くのか。習氏は答えられるだろうか。

 中国は一方的な要求を改め、自らを見つめ直し、民主化への歩みを探るべきだ。それなしに台湾の民意が中国になびくことはあるまい。

 現在の中台関係は「冷たい平和」と評されている。それでも貿易や人の往来は活発に続いている。この交流を広げつつ、中台とアジア太平洋地域の安定を図ることしか、いまの中台関係の中で選べる道はない。

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