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 環太平洋経済連携協定(TPP)は、米国の離脱ショックに揺れながらも、漂流することは何とか避けられたようだ。

 米以外のTPP参加11カ国の閣僚会合が開かれ、共同声明にTPP早期発効へ向けた選択肢の検討を始めることが盛り込まれた。作業は11月までに終えるとしている。

 国内総生産(GDP)で見て域内の6割を占めていた米国の離脱が、TPPの意義と経済的な魅力を損なったことは否めない。それでも発効を目指すことで11カ国がまとまったことは評価できる。

 世界貿易機関(WTO)での交渉が停滞するなか、貿易自由化の主役は、二国間や地域内の自由貿易協定(FTA)に代わった。中でも規模が大きい「メガFTA」への期待は大きい。21世紀型の新たな通商ルールを目指して、その先頭を走ってきたのがTPPだ。

 とはいえ、各国の考えには溝も目立つ。ベトナムやマレーシアは、巨大な米国市場が開かれることを前提に、痛みを伴う国有企業改革などを約束した。米国抜きなら協定の見直しが必要という立場だ。

 カナダとメキシコにとっては、米国との北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉が喫緊の課題だ。米抜きTPPを進めることがどう影響するか、見極めようとしている。ペルーやチリは、TPPに中国を加えることにも関心を示す。

 こうした個別の事情を乗り越えていく道筋はまだ見えない。議論を深める機運をいかに保ち続けるか。日本の提唱で7月に首席交渉官会合を開くことになったが、11カ国の中で経済規模が最大の日本がリーダーシップを発揮する機会である。

 米国に直言することも日本の役割だ。

 日米経済対話でも、日米間の通商問題に焦点をあてがちな米国に対し、日米によるアジアの通商ルール作りなど多国間の枠組みの意義を、粘り強く説き続けなければならない。日本が先頭に立ち、米国をTPPに呼び戻す可能性を探ることが、11カ国の結束を維持することにもつながる。

 アジア太平洋地域では、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の議論も進む。日本が高いレベルでの自由化を目指しているのに対し、中国は緩めのルールで新興国や途上国を取り込む動きを強めるとみられる。

 この地域で水準の高い自由化を実現していくためにも、先導役としてTPPの旗を掲げ続けることが欠かせない。

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