モラ夫の予備軍の特徴って?
前回に引き続き、臨床心理士であり『「モラルハラスメント」のすべて』の著者である本田りえ先生に「なぜ結婚を機にモラ夫となるのか」「モラ夫に好かれる女性像」、そして「モラ夫を撃退する方法」をうかがいました。
◆本田先生インタビュー前編
≪ご用心!モラハラ男は結婚には好条件!?モラ夫と結婚しないために知っておきたいこと≫
◆モラ夫と離婚した女性の座談会
≪「俺を怒らせたから10万円払え」読者3人が明かすモラハラ離婚で学んだこと≫
≪「母親に対するあたりの強さが異常」スピード離婚した3人が語るモラハラ男の共通点≫
結婚を機に変わるのはなぜ?
臨床心理士の本田りえ先生
――なぜモラ夫って結婚を機に豹変するんでしょうか。ずっと「いい人」でいてくれたらいいのに……。
H:本当にずっといい人でいてくれたらいいと思います。でも普通の人と一緒で、「慣れてくるにしたがって本性が出る」というのはあると思います。それと、籍を入れることによって、「もう簡単には逃げださないぞ」と確信したから、というのもあるでしょう。そういう意味では結婚とは限らず、転勤で知り合いがいない土地に引っ越したり、子どもが生まれたタイミングで本性を出すモラ夫もいます。
――彼しか頼る人がいない状況ってことですね。
H:そうです。あとは、「おまえの思い通りにはならないぞ」とアピールするため、というのもあると思います。女性は親しい人に「あなたのことわかってるよ」と理解をしめしますよね。モラ夫は、心理的な距離が近くなって自分のテリトリーに侵入されるのを嫌います。だから「突然怒り出す」など予測不能の反撃に出て「お前の手のひらで転がされないぞ」という意味でモラハラをすることもあるんです。
――ええ~。
H:昔「カミナリ親父」なんていましたよね。でも、カミナリ親父が怒る理由は一貫しているので、家族はどんな時にカミナリが落ちるか予測できたし、怒らせないようにすることも可能だった。でも、モラ夫の怒りは正当な理由はなくて些細なことで上げ足を取って、突然スイッチが入ったように怒りだして勝手にヒートアップする。怒る理由はいつも同じじゃないんです。どこに地雷があるかわからないから常にびくびくしなくちゃいけない。
――何が理由で怒るのかわからないと、ずっと顔色をうかがってないといけませんね。
H:巧妙でいやらしい手口ですよね。他にも、相手に決定権を譲って、決めたことを否定する、なんていうのも常套手段です。たとえば、夫婦で呼ばれたお食事会に「何を着ていけばいいかな?」なんて相談すると「そんなこともわからないのか、自分で決めろ」と決定権を譲る。で、用意した服を「おまえそんな格好で行くつもりか!」と責める。
――後だしじゃんけんみたいですね。
H:まさにそうです。彼女が何を選んでも、結局ダメなんですよね。どちらも不正解。相談にもならない。
モラ夫に好かれる女性
――モラ夫が好む女性のタイプってあるんですか?
H:あります。モラ夫が好むのは、「俺様にふさわしい女性」なんですね。座談会に参加されていた女性も、学歴が高かったり、きれいな人じゃなかったですか?
――そうです。みんな四大を出て、美人でした。
H:そんな「ハイスペックな女性」のなかでモラ夫のターゲットになるのは、いわゆる「素直でいい人」ですね。モラ夫は、交際当初はターゲットを取り込むためにロマンティックな演出をします。彼のこそばゆいような発言にも「何言ってるの?」なんて言わずに、付き合ってくれる人です。
――まさにいい人ですね。
H:そうです。さらに、気が利いて、優しくて、頼みごとを聞いてくれる、つまり有能で自分を受け入れてくれる女性をモラ夫は好みます。
――普通の人間関係上は長所となることばかりだけど、モラ夫にとっては「都合がいい」んですね。でも、そんな優しい女性がモラ夫を拒絶できるでしょうか。
H:モラ夫と相性の悪い女性になるのもひとつのテです。モラ夫が理詰めでせめてきたとき、「え~なんで?」といちいちひっかかったり、「私はそう思わない」と真っ向から反対したり、コロコロ気が変わったりすると、モラ夫は嫌がります。
理由を説明する必要はありません。むしろ、理由なく「いやだ」とストレートに言ってしまった方がいいかも。
――それなら自分の長所を変えずに、「相性が悪い女性」としてモラ夫のターゲットから外れますね。
H:また、被害者女性は努力家が多く、相手が望む姿になるために、すごくがんばれちゃうんです。過剰適応しちゃう。無理せず、「なんでそんなことしなきゃいけないの?」と素直に思えるといいのですが。
モラ夫は自分の言うとおりにしてほしいから、相手に利用価値がないと判断すれば関心が薄れてきます。関係性が深くなる前に気付けばターゲットから外れていくでしょう。
――モラ夫って、どんな女性相手でもモラ夫になるんですか?
H:前の奥さんにはモラハラしてたけど、今の奥さんにはしない、なんてことはないと思います。交際している男性に離婚歴がある場合、離婚理由は一応聞いたほうがいいかもしれないですね。
――でも、自分に都合がいいように話すんじゃないでしょうか。
H:モラ夫にモラハラをしている意識はないので、だいたい「自分が忙しくて家庭を顧みなかった」とか「相手が欝(精神病)になった」など言いますが、自分も同じ道を辿るかもということは一回考えたほうがいいですよね。偏見かもしれないけど、理由を聞くくらいはいいんじゃないでしょうか。
なかには3回も4回も離婚しているモラ夫もいますよ。
――それだけの回数結婚できるなんて、やっぱり一見好条件な男性なんでしょうね。
モラハラを自分が、友人が受けている場合は?
――友人のパートナーがモラ夫だと気づいた場合、どうしたらいいでしょうか?
H:親しい友人でも夫婦間のことに口を出すのは勇気がいりますよね。判断するひとつの基準として、友人が外出や交友関係など「自由を制限されている」と感じたら、それとなく夫婦の関係について聞いてみてもいいんじゃないでしょうか。あと、いつもオシャレだったのに、身なりに頓着しなくなったり…元気がなくて欝っぽかったり、その人らしさがなくなっているように感じたら、「どうしたの?いつものあなたじゃないみたい」と一度話を聞いてみてもいいのでは。
――具体的にどうしたらいいんでしょう?
H:一番は何が起こっているか本人が理解するために「情報を提供すること」です。モラハラについて書いてあるサイトや本がたくさん出ていますから教えてあげて下さい。自分に当てはまることが多ければモラハラ被害に気づけるでしょう。
――友人に相談された場合、どう接したらいいですか?
H:相談にのるときは、否定しないで聞いてほしいです。「旦那さんそんなふうに見えない~」とか「考えすぎじゃない」とか言わないでください。そう言われると、「やっぱりわかってもらえない」気がしてしまうので。
――うっかり言ってしまいそうなワードですね。
H:解決法ってひとりひとり違うから、「別れなよ」と言っても別れられない人もいるし、「がまんしなよ」なんてことも、本人が決めること。それぞれ事情がありますから軽々しく「こうしなよ」と指図しないでください。希望があれば近くの相談先(カウンセリング、病院、法律相談など)を調べて情報提供するのは役に立つと思います。
――モラハラ被害を受けた女性が立ち直るためには、どうしたらいいのでしょうか。
H:人格否定をされ続けて自尊心が傷ついています。時間がかかるかもしれませんが自分らしさを取り戻すことが大事です。彼と付き合う前の自分。たとえば学生時代の友人に会ってみたり、実家に帰ってみたり。昔の日記を読んでみると、「ああ、私ってこういうものが好きだったんだな」って思い出せるんじゃないでしょうか。
モラ夫に選ばれる人ってね、本人が思うようなダメな女じゃ、絶対にないんです。本当に不必要に自己評価が下がってるから、それを回復するのが一番の治療です。彼がいうような、バカで非常識で生きる価値もない女性だったら、絶対に選ばれてない。
――そうですよね。
H:それなのに、そう思わされている。
もし、彼がちょっとおかしいな、モラハラかもと思ったら、「結婚したら変わるかも」「子どもができたら落ち着いてくれるかも」なんて根拠のない希望を持たず、信頼できる誰かに相談してください。誰かに話してみることで客観的な視点が持てることもよくあります。
――ありがとうございました!