須田剛一氏に聞く リメイク版『シルバー事件25区』に対する思いとは?「2018年にはリリースしたい」【A 5th of BitSummit】

会期中に行われたグラスホッパー・マニファクチュア、須田剛一氏へのインタビューの模様をお届けしよう。須田氏は、BitSummitのステージイベントにて、新作としてリメイク版『シルバー事件25区』の発表をしたばかりだ。

●そしてサカナクションによる影響とは?

 2017年5月20日、21日に京都勧業館 みやこめっせにてインディーゲームの一大祭典“A 5th of BitSummit”が開催。ここでは、会期中に行われたグラスホッパー・マニファクチュア、須田剛一氏へのインタビューの模様をお届けしよう。須田氏は、BitSummitのステージイベントにて、新作としてリメイク版『シルバー事件25区』の発表をしたばかりだ

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▲相変わらずサービス精神旺盛な須田剛一氏。たくさんのファンに愛されるゆえんだ。

――『シルバー事件25区』のPC版が発表されましたね。
須田 昨年のBitSummitで『シルバー事件』のHDリマスター版のプレイアブルをだして、PC版を発売、そのあとにプレイステーション4版が決まって……という、トントン拍子に展開が決まっていったなかで、『シルバー事件25区』も具体的になってきたというのがあって、今回のBitSummitがいいタイミングということで発表して……という形に、ようやく持ってこれました。

――『シルバー事件25区』に関しては、『シルバー事件』のリマスター版が出たらやりたいと思っていたのですか?
須田 はい。あわよくば作りたいとの思いはありました。オリジナルの『シルバー事件25区』は当時のフィーチャーフォンで出したゲームで、そのうちに遊べなくなってしまったのですが、そういう意味では“幻のゲーム”なんです。ほかのゲームだと、なんとかディスクを手に入れて遊ぶことはできるのですが、本作の場合はそれができない。作った我々ですら遊ぶことができなかったので、そういうゲームを放置しておくのはかわいそうだという気持ちもありました。せっかく『シルバー事件』が復活したのであれば、『シルバー事件25区』もその流れに乗って……というのはありました。

――開発がたいへんそうですね。
須田 そんなわけで、今回はリマスターではなくて、リメイクです。ほぼ新作に近いですね。

――オリジナル版のデータもないわけですものね?
須田 今回のグラスホッパーのブースで出展しているのが、当時のフューチャーフォンをコンバートしたものです。あれもほとんど手打ちに近いのですが……。サルベージ作業をしてもらって、復元して、せっかくできたので、みんなに遊んでもらおうと思って出展しました。もちろんあれが最終形態ではなくて、今日発表したのはリメイクで、作り直します。

――リメイク版の実作業はこれからなのですか?
須田 それに近いですね。実際作業には入っています。

――どのような感じで作り直すのですか?
須田 高解像度のイラストはあるんですよ。シナリオとイラストはそのままであるので、そこから作り上げていく感じです。アクティブゲーミングメディアが開発してくれた『シルバー事件 HDリマスターPC版』はUnityで作っているのですが、いわゆる“シルバー事件エンジン”というものが存在しまして。それに載せて作り直す感でですね。もちろん、改良も加えていきますが、ベースはそれになります。

――新要素などもあるのですか?
須田 考えています。新しい遊びといいますか。そもそもオリジナルはコマンド選択で移動する、オールドスタイルのアドベンチャーだったので、そこを『シルバー事件』に近いような、いわゆる3D空間を移動する要素だったりとかというのは、新規で付け加えますね。

――もともとフィーチャーフォン前提の操作方法だったわけで、そのへんは変わってきますよね。
須田 そうなんですよ。

――リリースはいつくらいに?
須田 来年にはリリースはしたいと思っています。

――ブースもすごい人が並んでいましたね。
須田 『シルバー事件25区』目当てで来てくださるファンの方もたくさんいて。みなさんそれを楽しみにしてきてくださったようで、ありがたいです。


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――須田さんにとって、『シルバー事件』と『シルバー事件25区』の位置づけというのは、どのようなものなのですか?
須田 うーん、『シルバー事件』はグラスホッパー・マニファクチュアのデビュー作にして、僕のオリジナルゲームの原点になります。僕はヒューマン時代にオリジナルゲームは1本も作っていないので。『シルバー事件』は完全にオリジナルのデビュー作です。『シルバー事件25区』は、当時『ノーモア★ヒーローズ』に取り掛かっていたので、パッションで作った感じですね。『ノーモア★ヒーローズ』を作っているエネルギーみたいなものがあって。そのエネルギー量が暴発していたですよ。

――(笑)。
須田 その暴発したエネルギーみたいなもので、『シルバー事件25区』の物語をばっーと書いたんです。だから、どんなシナリオを書いたか、一切覚えていないんです。もう、意識が飛んでますね、完全に。

――それは情熱的な。
須田 勢いです。勢いで作りました。若き勢いみたいな感じですね。

――須田さんの原点が、いまの時代に蘇るのは、ひときわ感慨深いことですね。そして、それがいまのゲームファンに遊んでもらえるというのも……。
須田 そうですね。さらに言えば、もっと多くの人に届けたいという気持ちはあります。そこは、『シルバー事件25区』が、もっと導火線みたいな役割を果たしてくれればと思っています。

――今回、グラスホッパー・マニファクチュアさんは自社ブースで展開されていますが、パブリッシングはどちらが?
須田 それはもう少ししたら発表できますので、お待ちいただければ……と。まだ未定です。

――せっかくなので、BitSummitのことを少しお聞かせください。今回のBitSummitの印象はいかがですか?
須田 昨年よりもさらに盛り上がっていますよね。どんどん大きなイベントになっていくのではないかなという気配は感じます。実際のところ、おもしろいゲームが多いですよ。よくできています。とにかくよくできていますね。僕も刺激を受けますし、おもしろいゲームが出ることはすばらしいことじゃないですか。メジャーでは絶対に作れないようなゲームを、インディーの人たちがガンガン作ってくるというのは、おもしろいですよね。国の文化だったり風土を背負ったゲームもあれば、新しいクリエティブもある。いろいろなタイプのゲームが存在する時代になってきていますよね。パーソナルなテーマだけで、作っているゲームもあったり。

――そういう観点で言うと、須田さんの背負っているテーマというのは何になるのですか?
須田 僕の背負っているものってなんですかね……。やっぱり自分自身に近いものなのかもしれないですね。自分が作りたいものを作っていくという。初期衝動に忠実にというところ。

――初期衝動ですか?
須田 最初に自分が受けた心のぐらつきみたいなもの。心がぐらっと動いて刺激を受けたものとか。「自分はそこに行きたい」という衝動だったりとか。

――それは物事に関してということですか?
須田 物事だけではないですね。ぼんやりとした衝動と言いますか、「これを具現化したい」みたいな。

――映像を見たり、本を読んだりして突き動かされる衝動?
須田 それもあります。でも、ビデオゲームってもっと奥深いものじゃないですか。見るものだけではなくて、さらにもっと没入していって、その世界に入って体験していく、冒険していく。そこに対するイメージはありますね。「もっとビデオゲームでこういうことを感じてほしい」といった初期衝動があって。

――となると、いまもっとも突き動かされている衝動はなんですか?
須田 いまですか? いまは初期騒動の“初期”がない状態かもしれませんね。“初期”って年を取ると出にくいじゃないですか。初期はだいたい若いころに通過するものなので……。そういった意味では“後期衝動”ですかね。“後期衝動”というには、まだないかもしれません。強いて言えば、僕はサカナクションというバンドが好きなので、それはすごく後期衝動ですね。

――それは、サカナクションと組んで何かやりたいということですか?
須田 じゃないです。音楽から受ける影響は後期衝動としてすごくあります。サカナクションというのは、音楽というものの価値を変えたり、音楽というものでもっと違う場所に行きたいということを考えているバンドなんですね。そこは、「似たようなことを考えている人がいるんだな」と思います。音もすごく伝えやすいですし。それは初期騒動からの後期衝動かもしれません。

――今後の須田さんのゲーム業界での動きは、サカナクションを見ているとわかると言えるかもしれない?
須田 そうですね。サカナクションはとんでもなく好きです。カラオケ言ったら歌いますね(笑)。

――今度ぜひ、サカナクションとコラボしていただくということで(笑)。