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別居の父、4歳娘殺し自殺 離婚の妻の胸の内

松本侑莉ちゃんの遺影や描いたイラストを見つめる母親=兵庫県伊丹市で2017年5月21日午後4時27分、矢澤秀範撮影

 兵庫県伊丹市の集合住宅で4月、離婚後の面会交流中だった父親(40)と長女、松本侑莉(ゆうり)ちゃん(4)が死亡した。県警は父親が無理心中を図り、侑莉ちゃんを殺害したとして殺人容疑で書類送検する方針。侑莉ちゃんの母親(38)が毎日新聞の取材に応じ「どうしたらよかったのか答えはない」と胸の内を語った。識者からは「面会交流決定までの家庭裁判所の審理が妥当だったかの検証が必要だ」との声が上がる。

     母親によると、2010年2月に結婚し、母親が家事育児を担っていたが、父親は生活費を月2万円しか渡さず借金を繰り返した。感情の起伏も激しく、夜通しの説教や家具を壊すといった暴力が続き、昨年11月に父親が突然離婚届を提出。母子は実家へ戻った。

     母親はその後、神戸家裁伊丹支部に養育費請求調停(審判に移行)を申し立て、その中で面会交流についても話し合った。父親の求めに応じ、昨年11月~今年1月は月1回、父子2人で面会したが、その後父親が面会頻度を上げるよう要求し、調整が難航したため、事件当日まで面会は行われていなかった。最終的に月1回(午前10時から午後5時)の面会を取り決め、4月に審判が終了。事件当日の4月23日は審判後、初めての面会日だった。

     離婚後3回の面会ではトラブルはなく、侑莉ちゃんも楽しんでいたという。母親は家裁で娘の意思を確認された際も「面会を喜んでいる」と答えたといい、「事件当日も何も疑わなかった」と唇をかむ。

     母親自身は父親への恐怖心が強く、日程調整や面会に立ち会う支援機関の利用も検討したが、近隣になく利用料も高額で諦めた。また、事件後に初めて父親が休職していたことや精神科に通院していたことを警察から知らされ「(面会交流の前に)現状を把握していたら対策が取れたかもしれない」と悔やむ。

     家事事件に詳しい斉藤秀樹弁護士によると、面会交流を積極的に進めてきた米国では、裁判所が監護権や面会交流権を認めた親が子を殺害する事件が09年6月以降の7年間で475件報道されている。日本でも長崎県諫早市で今年1月、面会交流の際に元夫に子を預けた女性が殺害された。斉藤弁護士は「今回の伊丹の事件では父親は同居時から精神的に不安定で別居後さらに悪化したと推測される。現在の家裁実務では仮に同居親が不安感を申告しても過小評価され、面会が強要される。家裁は同居時の状況も合わせ慎重に判断すべきだった」と警鐘を鳴らす。【矢澤秀範、中川聡子】

    面会交流

     父母が離婚後または別居中に、別居する側の親が子と面会や電話・手紙による交流を行うこと。当事者間で取り決めが難しい場合は、家庭裁判所に調停を申し立てることができる。近年の家裁実務では「面会交流は子の福祉になる」という考え方が浸透し、子への虐待が立証されるなどの特別な事情がない限り、面会交流は認められる。同居親が取り決めに従わない場合、間接強制(罰金支払い)の対象となることもある。

    危険性の認識が甘くなかったか、十分に検証を

     棚村政行・早稲田大教授(家族法)の話 今回は母親も父親を信用しており、不測の事態が起こる可能性を認識できなかった。裁判所が同居時の父親の言動や現状から自暴自棄な行動に出る可能性を把握できなかったか、言葉の暴力やモラルハラスメントについての危険性の認識が甘くなかったか、十分に検証する必要がある。「面会交流実施が当たり前」という風潮そのものがその原因になった可能性もある。身近に面会交流に利用できる施設や、専門的支援を受けられる体制を整えることも急務だ。

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