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野球
全12球団が欲しがった「天才球児」のつまずきと葛藤〜早熟の宿命か
野球選手の人生は13歳で決まる(5)

栴檀(せんだん)は双葉より芳し。幼い頃の彼も「才能」という名の香りを全身から発していた。だが、中学からプロ入りに向け一本道で突き進んできたからこそ、いざ壁にぶつかった時、逃げ道はどこにもない。

(*連載「野球選手の人生は13歳で決まる」第1回はこちら http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51417

プロ全12球団が欲しがった

福岡ソフトバンクホークスのファームに、古澤勝吾という20歳の内野手がいる。

右投げ右打ち、177cm、79kg。

プロでは目立つほどの体格ではないが、3年前には福岡の強豪・九州国際大学付属高校で通算27本塁打、50m6秒フラットと俊足巧打で勇名を馳せた。

プロ全12球団が獲得の意思を示し、2014年のドラフト会議でソフトバンクが3位指名する。指名順位も、契約金5000万円、年俸600万円という条件も、将来性と潜在能力に対する評価の高さをうかがわせた。

会見で目標を聞かれ、古澤はこう宣言した。

「将来は日本を代表する選手になりたいですね。松田(宣浩)さんのバッティング、今宮(健太=いずれもソフトバンク)さんの守備、両方とも身につけたい。将来は井口(資仁=ロッテ)さんを超えたいと思ってます」

大言壮語で自分を追い込み、モチベーションを高めた。「お手本はサッカーの本田(圭佑=ACミラン)選手」だった。

その後、3年目の今年まで、古澤は一度も一軍に昇格していない。昨季は二軍で64試合、打率2割2分、本塁打0、打点9にとどまった。今季は右肘を痛めたこともあってか、出場しているのは三軍の試合がほとんど。依然として一軍は遠い。

 

私はこの連載で、中学で素質を開花させた少年たちの姿を追ってきた。彼らのほとんどはぜひにと請われ、高校や大学の強豪校に進んでいった。

が、プロに入った途端、壁にぶつかり、もがいている少年も多い。

古澤がまさにそうだった。彼が伸び悩んでいる原因は何なのか、二軍監督の水上善雄はこう指摘した。

「1年目はバットが金属から木に変わって、感触の違いに戸惑ってましたね。2年目からコーチがいろいろアドバイスしたんですけど、古澤自身は高校時代にすごく打ったイメージを捨てきれなかったらしい。

教えられた通りにやって、打てなくなると昔の自分の打撃に戻ろうとする。2年間、その繰り返しでした」

三軍監督・佐々木誠の評価はもっと厳しい。

「古澤はまだ自己分析ができてない。自分を過大評価してると思います。ウチの松田や西武の浅村(栄斗)とは、まったくタイプが違うんだから。もう一度自分を見つめ直して、高過ぎる自己評価を改めるべきです。そうしたほうが、違った意味で伸びると思う」

もう長打を捨て、俊足を生かし、小技のできる脇役を目指せ。水上や佐々木がそう勧めているのは明らかだ。いまの自分が置かれた立場は、古澤自身も理解している。

「とにかく、全然結果が出てませんから。ここでへこんだら終わりです。前向きに考えてやるしかないんで、絶対負けんとこう、負けんとこう、という気でやってます」

首脳陣の助言は正しいのかもしれない。だが、自分がドラフトされたのはそもそも、超高校級のパンチ力を買われたからだったはずだ。

中学、高校で素質が開花したゆえの葛藤に、かつての〝天才球児〟は揺れている。