行動経済学ー基準値の誤りー
こんにちは。えびです。
毎日コーヒーを飲み過ぎて、最近ちょっと健康の心配をするようになりました。(笑)
パソコンやスマホを見ていると、『コーヒーを飲む人は○○になる確率が〇%減少する』や『コーヒーを一日5杯以上飲む人は、3杯未満の人よりも○○する確率が〇倍高い』というようなニュースを良く目にします。
中にはショッキングな内容のものもあり、僕の不安感が異様に煽られたりもするのですが……
コーヒーに限らず、こういった経験をしたことがある人は多くいると思います。
しかし、統計的なデータを見る目を養っておけば、このような情報に振り回されることを少なくすることができます。
今日の記事はそんなテーマで書きました!
行動経済学
先にも述べた通り、現代には過度に不安感や危機意識をあおるような表現が意図的にされているニュースが数多く存在しています。
その拡散の仕方も多様で、ブログであったりSNS、テレビ、動画配信など情報を拡散する媒体も特定の形に限定できないでしょう。
元来、僕たちは、複数の事象を比較して判断することが苦手です。それは、特に異なった範疇、領域に属するものや対象となる次元や時間に差異があるものを比較するときに色濃く顔を出します。
もっと言えば、比較検討だけでなく事象を関係づけようとするときにさえ、エラーを起こすことも珍しくありません。
では、この種のエラーを少しでも回避するために僕たちにできることは何かというと、
その一つに「確率や数字に触れ、その比較(数字)が何について述べているのかを正確に把握する」ということが考えられます。
おそらく、確率や計算と聞いて眉をひそめる人も多いはずです。しかし、この場で取り上げる数字とは少し頭をひねって考えると容易に理解できる範囲のものです。
また、意外と自分自身が数字や割合といった概念を正確に扱えていないかを知ることが出来て、驚くと思います。
基準値の誤り
今日のテーマである「基準値の誤り」とは、上記の確率や割合を考える際に大いに関係してくるものです。
まず、この考え方を説明してから実際の数字を使った具体例に触れていきます。
そもそも「基準値」とは何かというと、
ある種の出来事や事象が起こる発生頻度、または対象の性質や特徴などが母集団に占める割合
などと表わされることです。
抽象的過ぎてわかりにくいので、抽象度を下げて言うと
ある出来事が起こる通常の確率値や人の職業や家族構成などといった特徴の母集団に占めると一般的に計算される値
となります。
この基準値は僕たちが統計値や数字を見る際に無視されたり、軽視されてしまう傾向があるのですが、大変重要な情報となるので、よく注意を払わなければいけません。
そして、「基準値の誤り」とは
個別の事象に捉われて、その確率を重視するあまりに基準となる発生頻度を軽視してしまうこと
を指します。
一つ例を挙げると、
『発病すると死に至るある病気を治す新薬が開発され、治癒力がこれまで使用されてきた薬の2倍になった。今ならちょっと高額なお金を払えば、予防接種を受けられる』、というニュースを目にしたとしましょう。
この際多くの人であれば2倍という言葉に強く反応してしまうと思いますが、そもそもこの病気が発症する確率や元の薬を投与されて完治する確率を知らなければ、本当にお金を払って予防接種を受ける価値があるのか、判断できないはずです。
冒頭でも述べた通り、現代のニュースでは『○○%増加』や『○○倍の効果』といった表現が多用されているので、元となる基準値をしっかり把握することが大事です。
間違いのイエスと間違いのノー
「間違いのイエス」と「間違いのノー」とは、ある結果が出た際にその結果の内に誤った事象が含まれる場合のことを言います。
この概念を混同していると、統計的数値などを誤った認識のまま受け入れてしまうことがあるので、注意が必要です。
また、これは同じことを述べていたとしても「確率の入れ替え」や事象の前後の入れ替えを行うだけで、姿を変えて現れるものなので罠にはまりやすいものの一つです。
例えば、以下の文章を比較してみてください。
A:もしもある人が妊娠をしていれば、妊娠検査薬の検査結果が陽性となる確率は90%である。
B:もしも妊娠検査薬の検査結果が陽性となったら、その人が妊娠している確率は90%である。
上のAとBの文章は確率論的には同じことを言っていますが、その確率が持つ意味合いが大きく異なったものとなり、客観的判断を下す場合でもその判断も異なってくるでしょう。
Aの場合、仮に100人の妊婦さんがいて妊娠検査薬を用いたとすると、90人は陽性反応が出て病院に直行すると考えられます。
しかし、そのほかの10人は「間違いのノー」のせいで実際は妊娠しているにもかかわらず、自分の妊娠に気づくことが出来ない、という風になります。
一方Bの場合だと、100人の女性が妊娠検査薬を使用し、100人全員が陽性の結果が出たとしても、そのうち90人は実際に妊娠しているけれども、10人は「間違いのイエス」によって妊娠していないのに陽性反応が出ていることを意味しています。
実際に出された問題
こんなことを言われると、数字の面倒くささに嫌気がさしてきます。
おそらく、自分は頭が悪いからしょうがない、と思った人もいるかもしれません。
しかし、この種のエラーは頭がいい人でも、専門的な知識を持つ人でも直感に基づいて判断すると容易に犯してしまうことが確認されています。
実際の医者に次のような問題が出され、その患者が病気である確率はどれくらいか答えてもらいました。
ある病気についての検査では、5%の確率で「間違いのイエス」が出ます。(「間違いのノー」が出る確率は0)
この病気は1000人に1人の割合で発生するが、病気の疑いがあるかどうかとは関係なく、たまたま検査を受けた人たちがいました。
ある人の結果が陽性と出た場合、この人が実際にその病気を持つ確率はどれくらいですか?
質問された医者の内、ほとんどの人が95%と答えました。
しかし、この答えは95%とはかなりかけ離れたものになります。一緒に見ていきましょう。
仮に1000人の人が検査を受けに来たとします。病気に実際にかかっている人はこのうち1人と計算することができます。
この人は検査の結果が陽性と出ます。(「間違いのノー」はないと仮定しているので。)
このほかに陽性の結果が出る人は、約50人と考えられます。(「間違いのイエス」が5%なので。)
そうすると、検査の結果が陽性と出るのは計51人となりますが、実際に病気にかかっているのはそのうちの1人だけです。
よって、検査結果が陽性と出ても、その人が実際に病気を持つ確率は2%弱であると導かれます。
頭がよく、専門的知識も豊富であると思われる医者でさえ、これほど大きく間違えてしまうのです。
僕たちも巷にあふれるニュースによって誤った情報をつかまされないように、十分気を付けたいものです。
防ぎようがないこともあるかもしれませんが、だからと言ってノーガードで立ち向かうのはお勧めできません。
一発KOもしくはTKOが目に見えています。
インファイターに必要なものはただの無謀ではありません。大事なことは、勇気と技術、自分を守る術を兼ね合わせることです。
そのための知識と言ってもいいかもしれません。
文責:えび
参考文献
丹羽由一(2016)『カイジから経済を学べ』日本経済新聞出版社
マッテオ・モッテルリーニ(Matteo Motterlini)(2015)『経済は感情で動く』(泉典子=訳)紀伊國屋書店
マッテオ・モッテルリーニ(Matteo Motterlini)(2014)『世界は感情で動く』(泉典子=訳)紀伊國屋書店