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ブランディングの戦略家が【ブランド戦略の全て】を解説するブログ

ブランディングの戦略家が
ブランディングの全てを解説する個人ブログ

使えるPEST分析とは?PESTを思考ツールとして使い倒す方法を解説

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あなたがマーケティング担当者なら、PEST分析や5フォース分析、あるいは3C分析といったビジネスフレームワークは、どこかで耳にしたことがあるはずだ。

しかし一方でこれらの外部環境分析は、様々な施策立案とは異なり直接売り上げや利益に貢献する業務ではないため、ついおろそかにされがちだ。

その結果、外部環境分析の分析スキルが身につかず「単なる枠組みに沿った情報収集」で終わってしまう事例も散見される。

しかしPEST分析や5フォース分析、あるいは3C分析などの外部環境分析は、情報収集だけでなく、意思決定に活かせてこそ価値がある。そして意思決定とは、極論すれば以下の2つしかない。

  • やるのか?やらないのか?
  • やるとすれば、どの程度やるのか?

ブランディングやマーケティングの実務は、常に上記のような岐路に直面し、意思決定を迫られる。外部環境分析は、そのアウトプットが戦略のインプットとなるため、非常に重要な業務となる。

今回の記事では、外部環境分析の中でも、まず初めに着手が必要となるPEST分析について解説する。

一般的にPEST分析は「マクロ環境を整理するためのフレームワーク」として認識されている。しかし一方で、あなたは以下のような経験をしたことがないだろうか?

  • PEST分析を使って情報収集し整理しようとしたが「どこまで範囲の」情報を「どのレベルまで」収集すべきかわからず、際限なく情報収集をするはめに陥った。
  • PEST分析や5フォース分析、3C分析など、とりあえずフレームワークの「箱」を埋めてはみたものの、そこから先の示唆を導き出せない。

どのようなビジネスフレームワークも、知識を表層的に理解しているだけでは、いざというときにほとんど役に立たない。そしてただ単にビジネスフレームワークに沿って情報を収集し整理するだけでは、価値ある示唆を導き出すことはできない。

一般に、様々な情報は「情報の収集」→「情報の整理」→「思考」→「解釈」→「示唆」という筋道を辿ることで、初めて価値ある分析となる。しかし実務の現場では「情報の収集」→「情報の整理」のみに終始してしまい、その後の「思考」→「解釈」→「示唆」まで至らないことも多い。

もしあなたや、あなたのチームメンバーがうまくビジネスフレームワークを使いこなせていないなら、まずはビジネスフレームワークに対する認識自体を、以下のように改めてみよう。

ビジネスフレームワークとは

ビジネスフレームワークとは、情報収集や整理をするためではなく「柔軟に思考を巡らし、有益な示唆を導き出す」ためのビジネスツールである。

 

何事も、基本技を繰り返すことで、初めて自分の血肉となる。

PEST分析を含む様々なビジネスフレームワークは、実務の現場で繰り返し使いながら「どういう視点を外してはいけないのか」「深めるべきポイントはどこなのか」といった思考を巡らし、習熟を重ねる必要がある。

今回の解説では、以下のポイントについて解説する。

  • PEST分析とは何か?
  • PEST分析の構成要素
  • なぜPEST分析が重要なのか?
  • PEST分析に必要な視点
  • PEST分析のやり方とステップ

もしあなたが「PEST分析について理解したい」「PEST分析を知ってはいるものの使いこなせない」という状態なら、ぜひこの解説を最後までお読みいただきたい。「PEST分析を思考ツールとして使い倒す方法」が理解できるはずだ。

また、記事の後半にはダウンロード可能なテンプレートも用意しているので、ぜひご活用いただきたい。

PEST分析とは?事例も含めて解説

PEST分析とは、マクロ環境(世の中の流れ)が、現在または将来に渡って自社ブランドにどのような影響を与えるかを分析するビジネスフレームワークだ。

PEST分析は、マーケティングの父と呼ばれるノースウェスタン大学ケロッグビジネススクールのフィリップ・コトラー教授が提唱したことで知られる。

コトラー教授は「調査をせずに市場参入を試みるのは、目が見えないのに市場参入をしようとするようなもの」述べているように、PEST分析はあらゆるブランディング&マーケティング戦略の意思決定のインプットとなるため、非常に重要な分析業務であることがわかる。

PEST分析の「PEST」とは、それぞれ「Politics(政治)、Economy(経済)、Society(社会)、Technology(技術)」の4つの頭文字を取ったもので、その目的は、マクロ環境(世の中の流れ)を捉え、機会と課題を見出だすことだ。

PEST分析でぜひ留意しておきたいのは、冒頭でも述べた通り、情報収集や情報整理に終わることなく様々な「思考」を巡らし「機会や課題の仮説を立てる」ところまで辿り着くことだ。

以下、まずはPEST分析の基本である4つの構成要素について、事例を交えながら簡単に解説していこう。

PEST分析の構成要素-1:P(Politics:政治要因)

P(Politics:政治要因)とは、法律や条例、あるいは規制など、行政レベルのルール変化のことを指す。重要なのは、自社のブランディングやマーケティングに及ぼす影響を見抜くことだ。

P(Politics:政治要因)の要素とは?

政治要因がブランディングに影響を与える主な要素を列挙すると下記の通りだ。

  • 法改正・判例・規制緩和
  • 税制の変化
  • 政治動向
  • 政治思想の潮流、変化
  • 補助金制度・交付金制度・特区制度の変化
P(Politics:政治要因)の例

冒頭で、ビジネスフレームワークは情報を収集・整理するだけでなく「思考を巡らし、示唆を導きだすことが重要」だと解説した。

よってPEST分析をする際には「なぜ」政治要因を分析することが重要なのか?も念頭に置きながら分析を進めてほしい。

例えば食品業界では2015年に、機能性表示食品制度が解禁された。

それまでは個別認可が必要だった「特定保健用食品(トクホ)」や自己認証が必要だった「栄養機能食品」とは異なり「機能性表示食品」は規制緩和により事前届出のみで機能性表示が可能となった。

このような規制の変化により、早めに対応に着手したブランドにとっては「機会」となり、対応の検討が遅れたブランドにとっては「脅威」となる。

それまでは法律によって「食品の機能性表示の有無」は明確に区別され市場も分かれていたが、この機能性表示食品制度の解禁により、事実上市場間をまたいだ競争に変化している。

P(Politics:政治要因)はなぜ重要なのか?

ここまでお読みになれば「政治要因」が重要な理由は、もうお分かりのはずだ。

政治要因が重要な理由とは、時に市場競争の前提となる「市場競争のルール」そのものを変化させてしまうからだ。

例えば、2015年に労働者派遣法の改正があり人材派遣業界では日雇い派遣が原則禁止された。このように、政治要因がもたらす変化によって、市場自体が消失してしまうことも有り得る。

PEST分析の構成要素-2:E(Economy:経済要因)

E(Economy:経済要因)とは、経済成長や景気、物価や為替動向など、経済の動向変化のことを指す。こちらも重要なのは、自社のブランディングやマーケティングに及ぼす影響を見抜くことだ。

E(Economy:経済要因)の例

経済要因がブランディングに影響を与える主な要素を列挙すると下記の通りとなる。

  • 景気動向の変化
  • 賃金動向の変化
  • 物価・消費動向の変化
  • 為替の変化
  • 金利の変化
  • 株価の変化
E(Economy:経済要因)はなぜ重要なのか?

もしあなたがどこかで経済学を学んだことがあるなら「需要と供給のバランスが価格に影響を与える」とする経済理論はご存じのことだろう。一般的には「価格均衡理論」と呼ばれるものだ。

PESTの構成要素の一つである「経済要因」は「需要と供給のバランスが価格に影響を与える」とする価格均衡理論に従って「売上」や「投資・コスト」に対して大きな影響を与える。

あらゆるビジネスは、人や原材料を仕入れることからはじまる。まずはこの仕入れ局面で「人や原材料の需給バランス」という経済要因が働く。

もし、為替変動があれば海外からの仕入れコストは変動する。近年見られる労働力不足が今後も続けば人件費は上がり続ける。もしあなたのブランドが「価格競争力」を強みにしているブランドなら、これらの変動はコストや投資面で捨て置けない要素となる。

さらに、多くのブランドは仕入れをもとに付加価値をつけ、顧客に販売する。しかしこの販売局面でも経済要因は働く。

もしあなたが高級嗜好品のマーケティング担当者なら賃金動向や、富裕層の消費を左右する株価動向は、あなたのブランドの売り上げを大きく決定づける。

「経済要因」が重要な理由とは、時にあなたのブランドの「価値連鎖」に影響を与えるからだ。

PEST分析の構成要素-3:S(Society:社会要因)

S(Society:社会要因)とは、生活者のライフスタイルの変化や生活者意識の変化などを指す。社会要因は、多くのマーケティング担当者にとって、最も身近な要素のはずだ。

S(Society:社会要因)の例

社会要因がブランディングに影響を与える主な要素を列挙すると下記の通りとなる。

  • 人口動態の変化
  • 社会インフラの変化
  • ライフスタイルの変化
  • 社会事件
  • 流行
S(Society:社会要因)はなぜ重要なのか?

例えば近年の「社会要因の変化」の代表例は「単身世帯の増加」だ。近年は未婚者の増加、離婚者の増加、単身高齢者の増加の3つの要因によって単身世帯者が急増している。

この変化を受けて、食品業界では単身者にも受け入れられやすいように「小容量化」「個分け包装」が主流となっている。

また、女性の社会進出により「買い物や家事に時間をかけたくない」というニーズが生まれ、ネットスーパーや時短商品の成長が加速しているのもご存じの通りだ。

そして社会要因は、時に突発的な社会的事件が大きく生活者の価値観を変えてしまうこともある。

例えば2016年に明るみになった大手企業の過労死事件などは、それまで「時間外労働=やむを得ないもの」という価値観から「時間外労働=悪」という価値観に一変させ、様々な企業や消費に影響を与えつつある。

社会要因が重要な理由とは、生活者の「需要構造」に大きな影響を与えるからだ。

PEST分析の構成要素-4:T(Technology:技術要因)

T(Technology:技術要因)とは、商品開発技術や生産技術、あるいはマーケティング技術の変化などを指す。

T(Technology:技術要因)の例

技術要因がブランディングに影響を与える主な要素を列挙すると下記の通りとなる。

  • ビッグデータ
  • IoT・デジタル技術
  • 設計技術
  • 生産技術
T(Technology:技術要因)はなぜ重要なのか?

多くのマーケティング担当者にとって「技術要因」の中でも最も身近で、かつインパクトが大きいのが「デジタルテクノロジー」であることは、あなたも異論がないはずだ。

近年、デジタルテクノロジーの進化によって、ブランディングやマーケティングは大きな変化に晒されている。

デジタルテクノロジーによって生じたブランディング&マーケティング手法の変化は、ざっと思いつくだけでも以下のようなものが挙げられる。

  • スモールスタート:
    グーグルやフェースブックなどのプラットフォーマーの登場により安価に広告やWEBサイトのA/Bテストが行えるようになり、これまでと比べて「小さく初めて大きく育てる」ことが可能になった。
  • リアルタイム:
    マーケティングのデジタル化によって、生活者の動きがデータとしてリアルタイムに可視化され、リアルタイムでPDCA改善を行えるようになった。
  • ロングテール:
    デジタルテクノロジーの普及によって顧客獲得の変動費が下がり、ロングテールでも利益化が可能になった。
  • マイクロセグメント:
    デジタルテクノロジーとビッグデータを掛け合わせることにより「個客」を捉えることが可能となった。
  • フラット化:
    デジタルテクノロジーによって、ビジネスのKSFが「規模の論理」から「質の論理」にシフトした(例えば検索結果の上位表示やソーシャル拡散などは「量」より「質」が重視される)。その結果、インターネット上ではフラット化が起き、小資本のプレイヤーにも逆転のチャンスが生まれた。
  • オールウェイズ・オン:
    スマートフォンの浸透により、生活者はいつでもどこでもブランドと接点が持てるようになった。

ここまでお読みになれば 技術要因が重要な理由は、もはや説明するまでもないはずだ。「技術要因」は、競争のKSFを変えてしまうからだ。

PEST分析をおろそかできない3つの理由

あなたは「グレシャムの法則」をご存じだろうか?一般的には「悪貨は良貨を駆逐する」という経済学の法則として有名だが、実はビジネスの世界には「意思決定のグレシャムの法則」が存在する。

「意思決定のグレシャムの法則」とは、日々ルーチンな仕事に追われている人が、ルーチンな仕事の処理に終われ長期的な視点や革新的な解決策を考えられなくなってしまう現象を指す。

冒頭でも述べたが、PEST分析などに代表される外部環境分析は、目先の売り上げや利益につながりにくいため、ついおろそかにされがちだ。しかし目先のルーチン業務にとらわれてしまい長期的な視野を持てなくなれば、いつの間にか大きな時流に取り残され、気付いた時には取り返しのつかないことになる。

「PEST」はブランディングやマーケティングに大きなインパクトを与える

ここまで解説してきた通り、PESTの本質を整理すると以下の通りとなる。

  1. P(Politics:政治要因):
    市場競争の前提となる「市場競争のルール」そのものを変化させる。
  2. E(Economy:経済要因):
    売上やコストなど利益に直結する「価値連鎖」に影響を与える。
  3. S(Society:社会要因):
    売上の元となる生活者の需要構造に影響を与える
  4. T(Technology:技術要因):
    市場競争のKSFを変えてしまう。

上記の通り、PESTはあなたのビジネスの「根本」に影響を与えかねないインパクトを持った要素だということがご理解いただけたのではないだろうか?

「PEST」は一企業の努力では変えられない

戦略には、大きくわけて「市場環境の変化に対応する」という適応型の戦略と「市場環境を成り立たせているそもそもの前提(条件)を変えてしまう」という創造型の戦略の2つが存在する。

しかしPESTは「世の中全般の大きな潮流」であるために、一企業の努力で「前提を変える」ことは難しい。よって「PEST」においては、いかに世の中の流れを正確に認識し「その流れを味方につけるか?」という視点が重要となる。

もしPEST分析をおろそかにし、PESTと逆行するような戦略を描いても、その成果はおぼつかない。

「PEST」は、あらゆる戦略・施策の前提となる

あなたがマーケティング担当者なら、日々実務の中で様々なマーケティング施策を思い描いているはずだ。

しかしもし仮に、あなたの上司やチームメンバー、あるいは他部署に人間から「なぜその施策をやる必要があるのか?」と問われたとき、あなたはどう答えるだろうか?

おそらくあなたは「自社ブランドの戦略に沿っているから」と答えるははずだ。あらゆる施策は戦略に沿ってなされる以上「戦略に沿っている」ことは正解となるが、それでは再度「なぜその戦略をとるべきなのか?」と問われたとき、どう答えるだろうか?

あらゆる戦略は「機会をとらえる」あるいは「脅威を避ける」ために行われる。そして「機会をとらえる」にせよ「脅威を避ける」にせよ、なぜそれらを「機会(あるいは脅威)だと見なすのか?」が説明できなければ、戦略の説明はできなくなる。

そうすると、次にあなたは「環境の変化がこうだから、このような機会(あるいは脅威)が生じる」という説明を迫られるはずだ。

上記からわかる通り、周辺環境の分析がない限り、そこから生じる機会や脅威を説明することはできない。そして機会や脅威を説明できなければ、戦略を説明することはできない。さらに戦略を説明できなければ、あなたが実行しようと思っている施策の正当性を説明することもまた、できない。

ここまでお読みになって、勘のいいあなたならお気づきのはずだ。

PEST分析とは、市場の変化を捉える分析手法の一つだ。そしてもしあなたがPEST分析をおろそかにしてしまったら、あなたが考えるマーケティング施策は社内を通らない。あるいは通ったとしても、全く的外れな施策になってしまうリスクが生じる。

どんなに優れた戦略や施策も、その前提が間違っていれば的外れなものとなる。「PEST」は、あらゆる戦略・施策の前提となるために、決しておろそかにしてはならないのだ。

 PEST分析のやり方と分析ステップ

実務でPEST分析を行っては見たものの、なかなか有益な示唆が導き出せない。あなたはそのような経験をしたことがないだろうか?

PEST分析には陥りがちな罠が存在する。その「罠」の典型は、いきなりPESTにそって絨毯爆撃的な情報収集に着手してしまうことだ。その結果、ひたすら情報収集に時間がとられ「思考」や「解釈」、あるいは「示唆」まで行き着かないまま時間切れ、という状態に陥りやすい。

PEST分析が扱うPolitics(政治)、Economy(経済)、Society(社会)、Technology(技術)は、一見フレームワークとして範囲が固定されているように見えるが、極論すれば「世の中全体を4つに分けて分析しましょう」と言っているのと同じだ。

そして「世の中全体」を「絨毯爆撃的に」情報収集し分析しようとすればあなたの業務はどうなるか?おおよそ想像できるはずだ。

だとすれば、より生産性の高いPEST分析を行うには「PEST分析の4つの要素」とは別に、さらに踏み込んだ「基準」が必要だ。なんらかの「基準」を持ち込み、情報収集や分析の範囲を絞り込むことで生産性を高める必要がある。

これ以降は、上記を踏まえた上で「思考ツールとしてのPEST分析の方法」と「ステップ」を解説していこう。

PEST分析の方法とステップ-1:ブランド提供価値を再確認した上で「PESTの変化」を情報収集する

もしかしたらあなたは上記の章タイトルを見て「PEST分析とブランド提供価値になんの関係があるのか?」といぶかしく思ったかもしれない。

しかし、k_birdはPEST分析を行う前に、必ず「ブランド提供価値」を再確認している。それもかなり念入りにだ。その理由は以下の2点だ。

  1. ブランドの根幹を揺るがしかねない「PESTの変化」を見抜くため
  2. 潜在的な「PESTの変化」を見抜くため

以下、解説しよう。

ブランド提供価値を再確認すべき理由-1:ブランドの根幹を揺るがしかねない「PESTの変化」を見抜く

あなたが携わるブランドには「品質」や「機能」「価格」など様々な側面があるはずだ。しかしそれらの中で「ブランド提供価値」だけが、唯一「あなたのブランド」の存在理由であり「生活者」と「あなたのブランド」をつなぐ要素となる。

ブランド提供価値とは「生活者があなたのブランドから受け取る価値(=喜び)」のことを指す。そして生活者はあなたのブランドから得られる価値(=喜び)に対してお金を払ってくれているのだから、ブランド提供価値が脅かされる変化は、そのままあなたのブランドの存在理由を脅かす変化となる。

このように本質を突き詰めて考えていくと、PEST分析を行う際に念頭に置くべき視点は以下の通りとなる。

PEST分析を行う際の視点

様々な変化の中でも「ブランド提供価値(=生活者が受け取る喜び)」に影響を与えうるPESTとは何か?

 

もしあなたがいち早く自社ブランドの存在理由を揺るがしかねない変化に気付きたいのなら「ブランド提供価値に影響を与えうるPESTとは何か?」という視点を持とう。

「ブランド提供価値」について詳しく理解したければ以下の記事で解説しているので、まだご覧になっていない方は参照していただきたい。

ブランド提供価値を再確認すべき理由-2:潜在的な変化を見抜くため

PEST分析の視点を「ブランド提供価値」に置くと、これまで気付きにくかった潜在的な変化に気付けるようになる。

例えば航空業界(国内線)を例にとって解説しよう。もしあなたが航空会社のマーケティングマネージャーだったとしたら、自社ブランドの「脅威」として、何が思いつくだろうか?

多くの場合、部下から挙がってくるのは「競合航空会社の動向」だろう。「JALの動きはどうか?」「ANAの動きはどうか?」「格安航空会社の動きはどうか?」…。

しかしブランド提供価値の一つである「実利価値」を基準に置いた場合、あなたのブランドに脅威をもたらすのは競合の航空会社だけではないことに気付くことができる。

仮に「実利価値」が「遠い場所に短時間でたどり着けること」だった場合、その実利価値に影響を与えるのは競合航空会社だけではない。

例えばJRでは、

  1. 2011年:九州新幹線
  2. 2015年:北陸新幹線
  3. 2016年:北海道新幹線

など、全国各所で新幹線が続々と開通し、これからも高速鉄道網の整備・開通が予定されている。さらに鉄道だけでなく全国の高速道路でも「高速道路リニューアルプロジェクト」が進んでいる。

これらはPEST分析上では社会要因の「社会インフラの変化」にあたり、航空会社にとっては直接的な競合ではないものの、潜在的な脅威となる。

このように、PEST分析の前に「ブランド提供価値」を再確認しておけば、単に「競合企業の動向」だけでなく「その提供価値に影響を与える変化すべて」という視点が持てるようになる。

さらに思考を巡らせてみよう。

今度は航空会社の実利価値を「遠い場所にいる人に短時間で会えること」とした場合に、どのようなPEST分析が想定できるだろうか?

実は上記の実利価値も、航空会社には潜在的な脅威が存在する。その「潜在的な脅威」とは「Technology:技術要因」の変化である「TV会議システム」の普及だ。

あなたもご存じの通り、多くの航空会社にとって「ビジネス出張」はドル箱のビジネスだ。しかし多くの企業でTV会議システムが普及すれば、飛行機を伴う出張のニーズは大きく減少する。

こちらも「航空業界の実利価値」を「遠い場所にいる人に短時間で会えること」として事前に再確認しておかない限り、例えPEST分析を行ったとしても潜在的な脅威に気付きにくい。

PEST分析を行う前には、ぜひ「ブランド提供価値」を再確認しておこう。そうすれば上記の航空会社の例のように、PESTに関わる潜在的な変化にも気付けるようになるはずだ。

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PEST分析のやり方と分析ステップ-2:「PESTの変化」を機会と脅威に分類する

単に「PESTに基づいて情報を集めました」だけでは有益な示唆は得られない。

ブランド提供価値に沿ってPESTの変化を収集した後は、それらの変化が自社のブランドにとって「機会」となりえる変化なのか?それとも「脅威」となりえる変化なのか?を検討し分類しよう。

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ここで気を付けたいのは、視点を変えることで一見「脅威」と思えるものが「機会」となったり、あるいはその逆もあり得る点だ。

例えば多くのリアル店舗を持つ小売業にとって「Technology:技術要因」から派生した「インターネット通販の台頭」は脅威に映る。しかし近年のO2Oやオムニチャネルに見られるように「インターネットとリアル店舗のシームレスなブランド体験の提供」と視点を変えればTechnology:技術要因」の変化は大きな機会と解釈することもできる。

現実にある小売業では、リアル店舗で「試着」のみを体験してもらい、買うと決めたらタブレットで注文し、送料無料で宅配してもらうという「在庫レス」店舗を実現しTechnology:技術要因」の変化をうまく味方につけている。

これらのように、PESTの変化はモノの見方や解釈の仕方によって「機会」にも「脅威」になりえる。よって情報収集によって明らかになったPESTの変化を解釈する際には、受け身的に「機会」「脅威」に分類するのではなく「脅威を機会に変えられないか?」あるいは「どのような条件を揃えれば、脅威を機会に変えられるのか?」など「変化を味方につける視点」を持つことを意識しよう。

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PEST分析のやり方と分析ステップ-3:「PESTの変化」の蓋然性を検討する

どのような分析も、過去に対してではなく、未来に向けてなされる。しかしあなたは神様でないのだから「未来に何が起こるかは、その時になってみないとわからない」というのが正直な気持ちのはずだ。

しかしビジネスもまた未来に対してなされる以上「未来のことはわからない」と言ってはいられない。その時に重要になってくるのが「PESTの変化」に対する蓋然性だ。

ここでいう蓋然性とは「PESTの変化」が将来起こりうるか否か、確実性の度合いを指す。もちろん未来を正確に予測することは難しいが「どのくらい蓋然性が高いか?」を予見することは可能だ。

蓋然性の高さを検証する際の視点は、以下の2点だ。

  1. 「将来起こりうる変化」を示す証拠の多さ
  2. 人間本来の根源的な性質に則しているかどうか

以下、解説しよう。

「将来起こりうる変化」を示す証拠の多さ

先ほどの「航空業界とTV会議システム」の例で解説しよう。

話を単純化するために、TV会議システムが航空業界にとって脅威となるかどうかの蓋然性は「今後、TV会議システムが浸透しうるかどうか?」で決まると仮定しよう。よって、ここではTV会議システムの提供価値を「遠い場所にいる人に短時間で会えること」と捉え、PEST分析のフレームワークを使って「TV会議システムが普及することを指し示す証拠が多いかどうか」を検討する。

  1. P(Politics:政治要因):
    政府が「世界最先端IT国家創造宣言」の中で、在宅勤務の導入などワークスタイル改革を推進している
  2. E(Economy:経済要因):
    働き方や生産性向上の気運が高まり、企業の間で通勤や出張などの時間短縮ニーズが拡大している。
  3. S(Society:社会要因):
    N/A
  4. T(Technology:技術要因):
    Microsoft Office 365 や Google Apps for work など、グループウェアにWEB会議システムが標準で搭載されてきている

上記を踏まえると、政治的要因・経済的要因・技術要因という3つの要因が「TV会議システムが普及する方向」を指し示していることがわかる。このように「複数のPESTの要因が」「同じ方向の変化を指し示している」場合、将来「PESTの変化」が起こりうる蓋然性は高くなる。

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人間本来の根源的な性質に則しているかどうか

「人間本来の根源的に性質」とは、以下のようなものを指す。

  1. 生活者がより得する方向の変化
  2. 生活者がより便利になる方向の変化
  3. 生活者がより直感的にわかりやすくなる方向の変化
  4. 生活者がより幸福になる方向の変化

上記を複数満たす場合、その変化の蓋然性は高くなる。

PEST分析のやり方と分析ステップ-3:「PESTの変化」を短期と長期にわける

あなたは会議やディスカッションの際に「なかなか議論がかみ合わない」という局面に出くわしたことがないだろうか?

その原因の中でとりわけ多いのが「会議の参加メンバーが念頭に置いている時間軸がババラバラ」であることだ。あるメンバーは長期的な課題について問題提起をしているものの、あるメンバーは直近の現場課題の発言に終始する、などが典型だ。

これは当たり前のことだが、短期的な課題は施策の変更で解決できる側面があるものの、長期的な課題は構造的な問題であることが多く、中長期的かつ組織的な取り組みが必要になることが多い。

それらの「短期的な課題」と「長期的な課題」を混在させたまま議論をしてしまっては、目線が嚙み合わないまま時間が過ぎ、会議の生産性を落とす場合が多い。とりわけ「PEST分析」は「世の中全般」を扱うだけに、短期的な課題と長期的な課題が混在しがちだ。

よって「PESTの変化」のうち「蓋然性の高いもの」に絞ることができたら、今度はそれらを「短期的な変化」と「長期的な変化」わけた上で、それぞれの対応策を検討するようにしよう。そうすればメンバー全員の目線が揃いやすく、より生産性の高い議論ができるはずだ。

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使えるPEST分析:ダウンロード用テンプレート

PEST分析は、いわば「世の中全般」を扱うだけに幅が広い。さらに「視点の切り替え」や「蓋然性の検討」など、うまく使いこなそうとすると「多様な視点で変化の本質をとらえる」必要がある。よってPEST分析を行う際には1人でうんうん頭をうならせるよりは、チームメンバーが参加するワークショップ形式のほうが生産性が高まりやすい。

今回の解説では、PEST分析を「思考ツール」として使いこなすためのテンプレートを用意している。以下の画像をクリックしてもらえれば、ダウンロードできるようになっている。

ぜひ、あなたはもちろん、チームメンバーで使いこなしていただければ幸いだ。

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終わりに

今回は「使えるPEST分析とは?PESTを思考ツールとして使い倒す方法」と題して、PEST分析について解説した。ぜひ、あなたのチームのブランドマーケティングにおいて、有益な示唆となれば幸いだ。

今後も、折に触れて「ロジカルで、かつ、直感的にわかるブランディングの解説」を続けていくつもりだ。(過去記事と今後の掲載予定はこちら

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