「おかしな演出」がなぜ増加?

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 4月24日にTwitterで、宗教学者の島田裕巳氏が〈昨日、最近の葬儀では、参列者に無理に遺体の顔にさわらせたり、遺族に参列者の前で湯かんをさせたりするものがあると訊いて驚愕した。〉と述べている。構成的すぎる演出がなされる「おかしな葬式」のひとつといえるが、島田氏がツイッターで指摘した「湯かん」も、限られた人だけでするのが常識だったが、昨今は事情が異なっている。

 遺体や遺骨の処置について記した『無葬社会』の著者である僧侶の鵜飼秀徳氏は言う。

「最近では通夜を省略して、葬儀と火葬を1日でやる『1日葬』が増えていますが、そこで本来なら通夜やその前に行なうことを葬儀に組み込むことがあります」

 そうした流れで、「湯かん」が葬式で行なわれることもあるのだ。

「家族や親戚以外の人もいる葬儀で、『最後のお別れです。ご遺体に触れてください』と演出されると驚いてしまいますよね」(同前)

 葬儀コンサルタントの吉川美津子氏も言う。

「お通夜でも、2〜3時間前に到着していた遠い親戚のような方に、湯かんの業者さんが『お集まりの方もご参加ください』とスポンジを手渡して手や足の先を擦るように促してくることがあります。いくら親族と言っても何年も会っていない人もいるでしょう。その人は、故人がお風呂に入った姿など見たこともない。参加してくれと言われてもやはり抵抗があり、かといって断わるのも難しい状況なので、嫌な思いをされる方もいます」

 会場の設えでも参列者を驚かせることがある。その最たるものが「遺影」のデジタル化だ。写真の代わりにモニターが飾られ、そこに映し出される個人の映像は、読経中であっても次々に切り替わっていく。有限会社佐藤葬祭の佐藤信顕代表取締役も、そうした演出に戸惑う参列者は少なくないと言う。

「中には集合写真もあって、故人がどこに写っているのかが気になって、見送りに集中できなかった方もいます」

 結婚式のスライドショーのようなメモリアルビデオの上映も珍しくない。それに合わせて、葬儀スタッフや司会者が遺族に成り代わって原稿を読みあげるが、その口調は異様な盛り上がりを見せるのだという。

「『○○さんは、いつもそうでしたね』とポエムがかっていたり、大袈裟だったりして泣かせようとしているのが透けて見えてしまうんです。参列者は逆に冷めてしまいます」(同前)

◆妙な演出を切り売り

「おかしな葬式」が増加する背景を前出の島田氏が分析する。

「2010年の著書で日本の葬儀費用は平均231万円と書きましたが、そうしたことへの反省からか、最近は都市部の4分の1は、亡くなった病院から直接、火葬場へ向かう直葬になっています。直葬では、葬祭業者はほとんど儲けられません」

 その結果、葬祭業者は、直葬を選ばなかった遺族の葬式で利益を確保しようと、様々な演出を積み上げるようになったという。

「オプションを積む方向へ舵を切ったのです。こうして妙な演出を切り売りするようになったことが、参列者にとって違和感を覚える葬式になった原因でしょう」(同前)

 送る側の意識の変化も影響しているという。

「『こうしたい』というモデルがないので、遺族の間で相談もしません。死の前の医療の段階ではインフォームドコンセントをしっかりするようになってきましたが、死を迎えてからとなるとまだまだです。だから葬祭業者に丸投げしてしまう。

 それで、見ず知らずの人に遺体を触らせたり、湯かんをさせたり、それからことさら悲しみをナレーションする演出などが出てしまうのです」(同前)

 前出・鵜飼氏も「現代の人には、死者を葬送するという気持ちが薄れています」と指摘する。

「過度な悲しみの演出を提案する業者が増えているのには、その反動としての側面もあります」

◆葬儀のブライダル化

 別の事情もあるという。

「ブライダルビジネスが衰退したことで、ホテルなどによる『お別れ会』も目立ってきています。ブライダルのノウハウがふんだんに使われていて、立て続けに故人が生前好きだったという音楽を流したり、故人のメモリアルビデオを流したり過剰になりがちです。葬式に参列する人も、なんでもありのお別れの会に参加するつもりでいたほうがいいかもしれませんね」(鵜飼氏)

 前出・島田氏は、「そもそも、現代の死は昔に比べると悲しいものではありません」と言う。

「80歳、90歳まで生きて大往生を遂げての死が多くなっているからです。介護などで疲れた家族は、ホッとすることもあるでしょう。それなのに、悲しみばかりを強調するような演出をされれば、白けてしまうのは当たり前ですし、過剰にお祭り騒ぎをするのもおかしいのです。死は立派に生きた人の自然なゴールだという考え方にシフトしていくべきでしょう。葬儀は、故人を忘れさせる手助けをする場でもあるのです」

 葬式で驚かされて、寿命を縮めたくはないものだ。

※週刊ポスト2017年5月26日号