製品やサービスを注文しようにも、価格が公開されていないために、何社にも見積りの依頼をしなければなりません。はじめから価格が公表されていれば、インターネット上で比較・検討できるのに……。
家電などの一般的なものであれば、価格.comなどの価格検索サイトを利用して、コストパフォーマンスの比較は簡単に行えます。今回は、まだまだ価格情報が表に出てこない製造業界のお話になります。
「Aperza(アペルザ)」とは、2016年7月に設立した株式会社アペルザ(以下アペルザ)が提供する、製造業の工業用資材の価格検索サイトである。アペルザは、製造業向けに特化したインターネットサービスを複数提供しており、「Aperza」の他にも製造業向けカタログポータルサイト「Cluez(クルーズ)」や製造業の情報プラットフォーム「ものづくりニュース」など製造業に特化したWebサービスをさまざま運営している。
スタートアップとしてインターネットで製造業に革命を起こす、そんな想いから製造業界でタブーとされてきた価格情報のオープン化に向けた取り組みに踏み切った。そんな取り組みの経緯や背景について、CEOの石原 誠氏とCTOの塩谷 将史氏、リードエンジニアの上保 晃司氏にお話を伺った。
代表取締役社長兼CEO 石原 誠 (Ishihara Makoto)
新卒で株式会社キーエンスに入社。社内ベンチャープロジェクトとしてキーエンス初のネット事業「iPROS(イプロス)」の立ち上げに参画。執行役員として「サービス開発」「メディア運営」「経営企画」を担当。退職後の2014年、教育系(EdTech)スタートアップである株式会社ポリグロッツ、株式会社エデュート(Edut)を相次いで創業し、数々のビジネスコンテストで受賞。その後、株式会社クルーズを創業し、2016年7月の株式会社FAナビ及びオートメ新聞株式会社との経営統合を機に株式会社アペルザの代表取締役社長兼CEOに就任する。
―工業用資材の調達とは、どのように行われるものなのでしょうか?
石原 今時はECサイトで何でも買えますし、価格相場だってネットで探せばすぐにわかりますよね。しかしながら、製造業の世界では「この部品が欲しい」となった際には、各社から取り寄せたカタログを何個も見比べ、どの製品にするかを選定し、それがいくらで買えるのか商社や販売代理店複数社に相見積もりをするところから始まるアナログが中心の業界なのです。
―これまでに製造業で価格比較サイトが存在しなかった、業界の本質的な課題は何でしょうか?
石原 相見積もりを取るとお話ししましたが、製造業の場合、その多くは大量ロットで仕入れることが多く、売り手は買い手の購入ボリュームや納期等に応じた価格を都度対面営業で提示し、買い手はそれを複数社と繰り返し行い、商談を成立させてきた慣習があります。そのため一律で決まった価格があるようで無く、表に出していなかったんです。
それが、インターネットが普及すると、買い手側の検討材料となる情報量は増え、取引先候補は世界に広がりました。
買い手側の変化に対応し、商社の一部は自社取扱い製品を掲載したECサイトを開設する流れも徐々に出てきていますが、リソースやコスト面に余裕のある大手が中心で、中小企業はまだまだ。多くの売り手側の手法は「良いものを作れば売れる」「対面営業による商談が主流」の時代から抜け出せていないのが実態です。
―「Aperza」に登録して、価格情報を公開している企業は、極端な話、あいまいな見積もりを出せないということですね。
石原 極論ですと、そういうことになります。また、これまでの製造業界では、「これはいくらです」と言われても、それが高いのか、安いのか、価格相場が分からない。なぜなら、店舗がないから。比較をする場所がそもそもないのです。
仮に各商社がECサイトを用意したとして、インターネット上で販売情報が取集できるだけでも大きな変化ですが、買い手は次に何を望むでしょうか?
例えば、楽天のように検討製品を取扱っている店舗が集約され、価格.comのようにそれらを横断して購入可能なロット数や価格、納期が確認できるなど、アナログの慣習と同様の比較がインターネット上で行えることを望みますよね。
そのような場を提供できるのは、買い手側の便益性と、売り手側の機会創出とをフラットな視点で捉えることのできる自社製品を持っていない存在であり、我々は「製造業をオープンにする」ことを掲げ、そこに挑戦しています。
石原氏が述べたように、見積りにまつわる非合理的な話は多い。こういった取引のあり方以外にも、石原氏は業界の課題を次のように語る。
石原 製造業の部品というものは、山ほどあるのですね。それはもう、星の数ほどだと言っても過言ではないくらい。ですので、これまで誰もそれをデータベース化しようと考えませんでした。歴史ある業界の当たり前とされてきた慣習に疑問を持ち、構造から変えていくには、製造業の現場の課題を知り、解決の手立となるITの両方を持って取り組むことが必要だと考えます。
CTO 塩谷 将史(Enya Masashi)
大学卒業後、エンジニア経験を経てWeb系ベンチャーへ入社。Web2.0時代のEC、ソーシャル系システムの企画立案、要件定義から開発・運用、チームマネジメント経験を積む。
2008年に楽天株式会社に入社。広告プラットフォームのプロデュースとチームマネジメントに従事。アジアHQ及び海外開発チームの立ち上げではシンガポールに赴任し、日本・インドの3拠点間でグローバル広告プラットフォームの企画立案・開発から海外拠点への導入を指揮。その後、アペルザ創業者の石原氏と出会い、ビジョンに共感し、取締役CTOとして参画する。
アペルザの事業の魅力について、塩谷氏は以下のように語る。
塩谷 私がアペルザに参画した理由としては、主に二つ。
一つ目は、IT業界で色々と経験してきましたが、製造業という、いわゆるハードの分野を全然知らなかった。IT領域だけでビジネスをやっていても、事業として今後絶対に足りない部分が出てくるだろうと考えていたこともあり、製造業という自分の知らないバックグラウンドの人たちと、一緒にサービスをつくれば、面白いことができそうだという思いを持ちました。
二つ目は、世界を相手にする仕事だということ。シンガポールで世界を舞台にした仕事で起業しようと考えていました。その点、製造業は最初から世界を相手にしているわけで、例えば、日本のメーカーの大半は世界で活躍している。アペルザは、グローバルな仕事をしたいという自分の要望を完璧にクリアしていました。
シンガポールで働いていた頃は、一人で起業することばかりを考えていたのですが、実はとても視野が狭かったのではないかとその時感じました。新しい人と新しい取り組みをすることで、より高みに行けるのではないか? 成長できるのではないか? そのように考え、アペルザへの参画を決めました。
リードエンジニア 上保 晃司(Joho Koji)
インターネットが当たり前となった今日、IT・Web業界の技術進歩は著しく、これまでITが入ってこなかった領域にITの力が入る○○Techの潮流が見受けられる。その背景には、いつも開発経験のある技術的能力の高いエンジニアの存在があり、彼らはその業界の課題をITで解決してきた。
工業用資材の価格検索サイトの「Aperza」では、数多ある資材からニーズに沿ったものを見つけ出せる検索エンジンの存在が不可欠だ。開発に携わる上保氏は以下のように語る。
上保 楽天に所属していた頃、ゆる〜く転職先を探していました。僕自身、今まで検索エンジニアの仕事をしてきたので、次の職場でも検索系に携わりたいと考えていた頃、検索エンジニアのアペルザの求人をWantedlyで見つけて、興味を持ったことが入社のきっかけになりました。
上保 見つけたその時には、あとで読もうとページを閉じてしまったのですが、転職しようと思っていることを伝えていた仲の良いエンジニアが隣の席にいまして、その後彼が「Wantedlyで良い求人がある!」と紹介してくれた求人が、なんとアペルザの検索エンジニアの求人だったのです。何か運命めいたものを感じ、アペルザに話を聞きに行きまして、ビジョンや挑もうとしていることに共感して、入社を決めました。
―アペルザのどのような部分に魅力を感じられたか、伺ってもよろしいでしょうか?
上保 きっかけは、やりたかった検索エンジニアの仕事ができる点でしたが、それ以上に会社が挑もうとしていることの社会的意義に心動かされました。「ものづくりの産業構造をリデザインする」。製造業という領域をITの力でより良くしていく。そういうアペルザの理念にすごく惹かれました。
もう一つは、技術的な挑戦が可能であることです。まだ自分が持っていない技術に挑戦して、成長できるという部分と、今までやってきたことを活かせる部分。それが非常に魅力的に感じました。
検索エンジン開発の一風景
アペルザでのエンジニア同士のコミュニケーションは密接に行われている
上保 入社時は検索エンジンのみの限定された業務内容で考えていましたが、実際にはデータ生成周りをはじめ、今までやってこなかった技術領域まで、良い意味で当初の想定よりも守備範囲がどんどんと広がり、技術的チャレンジをたくさん味わえています。
あとは、オフィスのロケーションが良いところも気に入っています。みなとみらいエリアで、近くに公園もある。行き詰まった際のリフレッシュに困ることはありません。
インターネット・AIの領域が進歩し、いわゆるインダストリー4.0のムーブメントの中、アペルザのようなスタートアップが、既存の業界の構造を大きく変えていくことは想像に難くない。
アペルザのように、業界に精通した経営層と技術的背景をもつエンジニアのコラボレーションが新たなイノベーションを生んでいく。そのネックとなり得る既存の業界の課題、反対を受け止め、どのようにビジョンを体現させていくのか。当メディアとしても、引き続き、アペルザの取り組みを追って行きたい。
株式会社アペルザのミッションは「ものづくりの産業構造をリデザインする」こと。
我々はインターネットを活用して製造業の古い慣習をディスラプトし、事業を通じて、「情報流通」「取引のあり方」「コミュニケーション」という業界内の3つの壁を取り除くことで、新しいものづくりの産業構造の構築を目指しています。
埋もれた技術や製品を簡単に見つけられるそんなプラットフォームを提供することにより、新たなイノベーションを創出したい。同時に、売り手の企業規模を問わず、攻めの営業を実現できる場を提供し、製造業の発展に寄与したいと我々は考えています。