「負の歴史」どう伝える 京都、博物館の役割議論
「国際博物館の日記念シンポジウム」が21日、京都市東山区の京都国立博物館であった。国際博物館会議(ICOM)の幹部や博物館関係者ら約150人が参加し、2019年に日本で初開催されるICOM京都大会の意義や、「負の歴史」を伝えるため博物館が果たしうる役割を議論した。
18日の「国際博物館の日」に合わせて日本博物館協会などが主催した。ICOMは139カ国の会員約3万6千人の非政府組織。災害や戦乱で被害を受けた館の情報を集め、展示や保全、交流など専門の委員会を設けて研究を進めている。
シンポは、京都大会の重要性を考える第1部で、ICOMのスウェイ・アクソイ会長がICOMの活動や歴史を説明し、「ICOMの会員と博物館の専門家が世界中から集まって京都で会議を開き、文化イベントも催される。素晴らしい文化遺産がある京都での大会は伝説的、歴史的な会議になる。京都の文化に貢献できるよう、博物館に関する議論が京都で始まることを期待する」と述べた。
第2部のパネル討論は「歴史と向き合う博物館」をテーマに議論した。国立歴史民俗博物館の久留島浩館長は、同館で先の戦争をめぐる「現代」の展示を新設した際、「一部ナショナリストから『自虐的な歴史を描くな』と圧力を掛けられるなど極めて難しかった」と述べた。
日本の博物館の戦争展示は、空襲被害や兵士の遺品を示して戦争の悲惨さや平和の意義を説くが、なぜ戦争が始まったかの説明が不十分な例が多いと久留島館長は指摘。「一定の議論を経た資料を並べるのは不可欠。解釈は多様であってもいいのではないか。異なる解釈同士が議論できる場を設定することこそ必要」と強調した。
京都外国語大の東自由里教授は、第2次大戦で廃墟になった村をそのまま残す事業を進めるフランスの博物館の事例を紹介。ナチスが精神障害者や知的障害者を安楽死させ、20万人以上が犠牲になったとされる「T4作戦」の現場になったドイツの城について、冷戦期の東独政府はその歴史を隠したのに対し、今は地元の博物館が負の歴史を伝える活動をしているとし、「博物館が悲惨な歴史を二度と繰り返さないための抑止力になっている」と述べた。
【 2017年05月21日 22時40分 】