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有森裕子 心拍数を上手に利用し、効果的な練習を

日経Gooday

2017/5/21

トップアスリートは心拍数を目安に高い負荷をかけたトレーニングを行う(c)ammentorp-123rf
日経Gooday(グッデイ) カラダにいいこと、毎日プラス

 五輪マラソンメダリストの有森裕子さんに、心拍数を上手に利用した効果的なランニング練習方法について教えていただく。

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 目に入る景色が美しい、新緑シーズンの真っただ中ですね。梅雨に突入するまでのこの貴重な期間、皆さん、楽しく走れているでしょうか?

 冬から春、そして初夏へと向かう中、気温が上昇するにつれ体の動きは良くなり、ついついスピードも上がりがちになります。そうした気温の上昇時に気をつけなければいけないのが、「オーバーペース」です。特に気温の変化が激しい季節の変わり目は、気持ち的には快調であっても、体が暑さについていけず、いつもと同じ速さで走っているつもりが結果としてオーバーペースになってしまう場合があります。

 つい先月、私が参加した「かすみがうらマラソン」でも、前日までの涼しい気候から一転、夏を思わせる強い日差しが照り付け、レース中に急激な気温の上昇がみられました。そんな中、一般ランナーの方が数人、心肺停止で倒れてしまったのです。幸い、自動体外式除細動器(AED)を使った迅速な処置のおかげで生命の危機には至りませんでしたが、こうしたことが起こる原因の一つに、急激な気温の上昇でオーバーペース気味になり、体が対応しきれなかった可能性が考えられます。

■心拍数を目安にオーバーペースを防ぐ

 オーバーペースを防ぐためには、「1kmを〇分で走ろう」「20kmを〇時間〇分以内で走ろう」といった時間のみを目標に設定するのでは不十分です。同じ速さで走っていても、気温や湿度、風、アップダウンの有無、水分補給などによって、体にかかる負荷は変化します。また、日によって体調にも波があります。そうした場合に役に立つのが心拍数です。

 心拍数は、心臓が全身に血液を送り出す際の収縮の回数(通常は1分あたり)で、自分の感覚だけでは分からない体の疲労度合いや体調の変化を可視化できる重要な指標です[注1]。「いつもと同じペースで走っているのに、心拍数が上がってきた」という場合は、オーバーペースのサイン。体の変化を数値で把握することで、早めにペースを落としたり、練習量を減らすなどして自身の体を守ることができるのです。

 最近は、心拍計を内蔵したランニングウオッチや、心拍数と連動した音楽が再生されてリズムを感じながら走ることができるイヤフォン型のウエアラブル活動量計など、あらゆるランニング用のデバイスが登場しています。ランニングウオッチと連動して心拍数やランニングログを記録できる便利なアプリもあるようです。こうした中から、自分に合ったものを選んで活用すると、より楽しく効果的に走れるのではないでしょうか。

アプリと連動したウエアラブル活動量計を活用すれば、ランニング時の心拍数の変動を簡単にデジタルで記録できる(c) Andriy Popov-123rf

 市民ランナーの中には、「最もいい記録が出るベスト体重は〇kgだから、もう少し体重を落とさなきゃ……」というように、体重の変化を気にされる方はとても多いのですが、心拍数に関しての意識はまだまだ低いように感じます。ランニング中の心拍数と体調の関係を日頃から意識し、想定していた心拍数を大幅に超えた場合にウエアラブルアイテムのアラームが鳴るように設定するだけでも、オーバーペースや突然の体調不良を防げるはずです。

[注1]不整脈などの心臓の病気がある場合を除き、心拍数=脈拍数となるため、多くの場合、脈拍数をカウントする。

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