どうして「バンプをとった者にしかわからん」なのか――フミ斎藤のプロレス読本#001

 コワいプロレスラーの代表は長州力だ。試合が終わったあとの囲み取材でも、いつもプリプリ怒ったような顔をしていて、報道陣はコメントをひとつもらうのにもおっかなビックリだ。じっさい、いつ怒鳴られるかわかったもんじゃない。新米の記者だったら、恐ろしくてそばにも寄れない。

 トップのポジションにいるレスラーならば、これがあまりまえなのだ。威圧感があって、まわりの人間に緊張感を与え、そして、自分自身もいつもどこかイライラしていて近寄りがたいオーラを出しまくっている。

 しかし、これはかなりの部分まで意識的につくられたイメージ、あるいは加工されたシチュエーションと考えていい。ナチュラルな長州は、もっともっとわかりやすい。

 ひとりのプロレスラーをよく知るための――おべっかを使って取り入ったり、気に入ってもらおうとしていろいろ動きまわったりすることではなくて――いちばんいい方法は、そのレスラーになったつもりでリング上のひとつひとつの動きを凝視してみることだ。

 じつは長州ほど正直なレスラーはいない。こんなことをいったら本人は気を悪くするかもしれないけれど、ずっと“長州力”を観察していると、あるときから“字幕スーパー”が見えるようになってくる。

 「何しに来た、バカヤロー!」は“よく来たな”で、「早く帰れ!」だったら“まあ、ゆっくりしていけ”。それぞれのセリフに目に見えない字幕がのっかっていて、それがわかるようになってくるとちゃんとコミュニケーションがとれる。

 大学の体育会系のノリをいちども変えることなくオトナになった人だから、口が悪いのは仕方がない。アントニオ猪木が去って、長州がリーダーになってからの新日本プロレスは、現場のムードが体育会系そのものになった。

 団体競技にたとえるならば、長州が監督で、チーム・キャプテンは馳浩。マサさんは現役兼務のヘッドコーチで、坂口征二社長はプレジデントというよりはゼネラルマネジャーだ。長州がこんなことをポツリとつぶやいた。

「時代がどうのこうのっていうのは、もう考えたくない」

 いままであれほど時代を追いかけてきた長州が、いつのまにか“反対側”から時代を見つめるようになっていた。

 長州を時代の寵児にしてきたのは、追いかけるパワーだった。“かませ犬発言”も“維新軍”も“ジャパン・プロレス”も、“俺たちの時代”も“ニュー・リーダー対ナウ・リーダー”も、天下を盗りたくて盗りたくてしようがなかったころの長州の姿だ。観る側にしてみれば、やっぱりこういうレスラーがいちばん応援しやすい。

 吉田光雄だったころの長州は、プロレスがよくわからなくて、何度もプロレスとプロレスラーになった自分を捨てて逃げ出そうとした。アメリカに武者修行の旅に出ていた時代は、ろくに試合もせずボーッとして時間の無駄づかいばかりしていたのだという。

 熱いフロリダから北国カナダのモントリオールまで流れていったときのいちばんの思い出は、KISSのコンサートのチケットを買うために――茶色いペーパーバッグのなかに忍ばせたウイスキーのボトルをちびちびラッパ飲みしながら体を温めつつ――徹夜でアリーナの外に並んだことだった。

 プロレスがよくわからないなりに手探りのようにしてちょっとずつ前へ前へと進んでいくうちに、気がついたらいまいるとことまでたどり着いていた。

 プロレスそのものがものすごくうまいかとえば、たぶんそうではない。必殺技はリキ・ラリアットとサソリ固めということになっているけれど、おそらくいちばん長州らしいムーブはその一瞬その一瞬に気合をこめてたたきつけるストンピングだろう。長州とはそういうレスラーである。

 ぼくはニック・ボックウィンクルにもこんなことをいわれたことがある。

斎藤文彦

斎藤文彦

「キミたちがレスラーよりも(プロレスに関して)敏感なところがあるとしたら、それは、試合を観て、おもしろいかつまらないかを見分ける第三者としての目だろう。ちょうど、レフェリーの目が客観的であるように」

 やっぱりダメですか? バンプをとらないと、プロレスはわかりませんか?(つづく)

※この連載は月~金で毎日更新されます

文/斎藤文彦 イラスト/おはつ

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