『進撃の軌跡』をまだ聴いていない『進撃』ファンへ。14,000字ロングレビュー
Revoが独自解釈で描き出す『進撃の巨人』の世界
言わずと知れた「紅蓮の弓矢」を生み出し、アニメ『進撃の巨人』の盛り上がりを確かに支えたLinked Horizon。
その主宰であり作曲家でありボーカルであり便宜上その他諸々であるRevo。
彼が音楽で紡ぎ出す新たな『進撃の巨人』の世界!
コンセプトアルバム『進撃の軌跡』が遂に発売されました!!
映画版に新たにテーマ曲として書き下ろされたものなど、未だにFULLver.がないものも数曲存在し、これは二期に合わせてコンセプトアルバムが発売されるのでは?と思ってはいましたが、満を持してその通りになりました。
Linked Horizonのアルバムと言えば『ブレイブリーデフォルト』とのタイアップである『ルクセンダルク大紀行』に続き2枚目。
こちらも確かな表現力と歌詞で作品の良さを表現し、何年経っても「このCDを聴けばゲームの内容が思い出せる」というような創りになっている素晴らしいCDでした。
進撃の巨人でもそれと同じ形式でリンホラの作品が創られるのは想像に難くなく、自由への進撃以降、実に待ち望んだ待望のアルバムでもあります。
期待通り予想通りのCDではありますが、そうであっても内容でその期待を超えてくるのがRevoという男。
今回のアルバムは一枚かけて、アニメ『進撃の巨人』一期を総ざらいするような内容です。
一期さえ見ていれば十分楽しみことが出来ますヨ。
アニメで使用されたテーマ曲を中心に、Revo自身が「ここには、このキャラクターには曲があっても良いのではないか」と感じた内容を渾身の曲として書き出しています。
「アニメOPは良かったけど、別にアルバムを買うほどではないよ」
そう思っている『進撃の巨人』という作品のファンにこそ手に取ってほしい一枚です。
これは『進撃の巨人』の大ファンでオタクであるRevoによる、『進撃の巨人』ファンのための最高のCDなんですから!
手を出そうか迷っている画面の前の皆様のために、今から一曲ずつ丁寧に魅力を解説して行きます。
CDの内容はもちろん、コミックス含む作品の内容にも触れていきますのでご注意を。
この記事を読み終わった皆様が、『進撃の軌跡』を買いに走っていることを祈りながら書いて行きます。
楽曲紹介&レビュー
さて、一曲ずつじっくり書かせて頂きますよ。
最後までお付き合い頂ければ幸いです。
二ヶ月後の君へ
奪えない自由は 何時だって 其処にある
全てを背負い さぁ 征こうぜ!
一曲目にしてRevoという男を象徴するような曲。
本編一話のタイトルをオマージュしたタイトルですね。
「にしてはスケールが小さすぎないか?」と最初は思った。
作品のアルバムとしては「紅蓮の弓矢」を一曲目に据えてくる未来が見えていたため、一曲目はプロローグ的な意味を持つ短めのインスト曲か何かかな?と思ってCDを再生しました。
いざ始まってみると流れてくるのは「紅蓮の弓矢」などOP曲を彷彿とさせるアップテンポのロックミュージック。
この曲は一体?という掴みから聴き始めた人が殆どかと思います。
前アルバム『ルクセンダルク大紀行』では、「Theme of the Linked Horizon」という自分目線の曲を一曲目に持ってきたRevo。
そう、Linked HorizonはそもそもRevoというキャラクターが作品にダイブして見聞きしたものを歌にするというプロジェクトです。本人がそう言ってんだから仕方ねぇだろ。
『進撃の軌跡』もRevoの視点で『進撃の巨人』を捉えた曲を一曲目に据えてきました。
その内容とは、本誌を読破しているRevoが、これから始まるアニメ二期のエレンにメッセージを送るというものです。
本誌では明らかになっている真実は、アニメ二期のエレンはなだ何も知らない。
これからの行く末の全てを知っている自分は果たして彼にどんな言葉をかければ良いのか…。
そんなRevoの心の葛藤を描いた歌です。
…何言ってんだ?って感じだと思いますが。
実に臭い話だが、こういうことを平然とやってのけるのがRevoという男。
『進撃の巨人』のファンでRevoのことをよく知らない方々にまずその印象を持ってもらうにはベスト(だと思う)
一部では「完全に同人誌の前書き」と言われておる模様。でもマジでそうだから手に負えない。
曲は物凄くストレートに気持ちが乗っておりカッコイイ!
二月時点で本誌で判明している情報(コミックス刊行済み)まで細かく織り込んだ歌詞は必見(ただし日本語で書かれているとは限らない)
『進撃の巨人』を深く楽しんでいる人ほど、Revoがこの作品をどれだけ愛しているかがよく伝わってくる、そんな一曲からこのアルバムは始まります!
紅蓮の弓矢
放たれた弓矢よ 壁を超え海まで飛んで行け!
Linked Horizonの代名詞となり、紅白出場も果たした説明不要の一曲。
紅白ver.同様にアルミンのボイスが追加され「始まり」を強調。
今更敢えて語る必要のない曲ではありますが、linked Horizonにとって最初の曲となった「紅蓮の弓矢」は、あくまでも作品全体のイメージを伝えるための曲だなと思います。
「自由の翼」以降は作品の「内容」に即していくようになり、このアルバムは特にこちらの側面が色濃い曲が多いです。
そういう意味でやはり最高のオープニングソングですし、幅広く世間に認められたのもそのおかげなんだろうなぁと改めて。
アルバム化に当たり、音声のミックス調整が行われており、シングル版と比較して聴くと結構違って聞こえます。
細かい説明は難しいですが、全体的にバックのブラスバンドやコーラス、ギターソロなどの圧が強い音の音量が小さくなり、メインの管楽器、ドラムやベースが前に出るように。
後ろで鳴っているその他の楽器の細かい音も聞き取りやすくなりました。
シングル版がアニメOPとして活用することが意識された迫力重視のミックスなら、アルバム版は一枚のCDの始まりとして曲の纏まりを優先したというところでしょうか。
ボーッと聴いていると正直あまり分からないと思いますが、イントロの主旋律なんかはかなり前のめりに聞こえるので、その時点で違和感を覚える人はいると思います。
『自由への進撃』を聴いた方も是非聴き比べて楽しんでください!
14文字の伝言
特別じゃなくても 人より優れてなくても
誰かに認められなくても
あなたは生きてるだけで 既に偉大なのよ
お願い どうか忘れないで――
『進撃』のアニメでRevoを知り、壮大でカッコいいテーマ曲に魅了されてきた方はここで面喰うかもしれません。
物語音楽を積み上げてきたRevoによる、キャラクターをフィーチャーした真骨頂とも言うべき一曲。
そしてこのCDの半分はそういった楽曲です。
聴き始めれば誰の曲かはすぐに分かると思います。
往年のRevoファン、特にSound Horizonのファンはタイトルで分かっていることかと思いますが。インタビューで確信犯だとRevoも答えています。
「○○文字の伝言」というのはRevo作品において「母親の愛情」を表すキャッチフレーズ。
それはこのCDにおいても例外ではない。
先の展開を知っているが故に、序盤の幸せそうなメロディ、歌詞、歌唱の全てが胸に来る。
既に公開されたインタビューで、Revoは「どんな作品であっても、母親は子供を愛していてほしいという価値観は普遍的なものであると思う」と語っています。
エレンの母親、カルラ・イェーガーは何を思って生き、最期の瞬間を迎えたのか。
「行かないで…」と呟いた彼女は、目の前の死を恐れたのか。
それとも目の前で消えて行った日常を取り戻したかったのか。
Revoが世界を拡げる解釈で曲として描いています。
一つ補足しておくとLinked Horizonは全ての楽曲をRevoが歌うわけではありません。
CD毎に女性ゲストボーカル(ファンからは歌姫と呼ばれる)を選出し、Revo以外の歌手によって表現される歌の方が普段は多いです。このCDも半分は女性ボーカルによる楽曲です。
アルバムにおける『進撃』の物語はこの曲がスタートとなります。
このアルバム一枚が一つの物語を描いているのだと決定付けるには十分すぎる力がある曲で、聴き終わる頃には『進撃』の世界観に引きずり込まれていることでしょう。
平穏な日常を描く前半の落ち着きから、親としての幸せを感じさせる力強さへ。
そしてそれが徐々に絶望に塗り替えられて行くメロディの変化が壮絶な一曲。
この曲で心を鷲掴みにされ、涙を流した方も多いでしょう。
それによって『進撃の軌跡』の世界に確かに没入させる力がこの歌にはあります。
最後に"14文字の伝言"の後に絶妙なタイミングでカットインされるSEが心に直接響き渡ります。
紅蓮の座標
吠えることしか出来なかった あの日の少年は
≪調査兵団の装備≫を取り 多くの仲間を得た
「紅蓮の弓矢」が作品の始まりを象徴する曲なら「紅蓮の座標」はエレンはじめ『進撃の巨人』に登場するキャラクター達の新しい始まりを象徴した一曲でしょう。
前身である「弓矢」のメロディを踏襲しながら、ファンファーレや行進曲のテイストを強調した明るい未来を見据えた楽曲。
母親の死を乗り超え、調査兵団として新たなスタートを切ったエレン・イェーガー。
「14文字の伝言」からこの曲への流れは実に凄惨で美しい。
映画版のテーマソングであり「紅蓮の弓矢」へのアンサーソングとして作成された曲。
年単位の時を待ち、ついに公開されたFULLサイズです。
今でこそタイトルの「座標」が何を意味した単語なのかは分かるのですが、この曲が創られた時点はまだ明らかになったかどうかの時期だったはず。
なんで「座標」なんて単語をタイトルにできたんだ?などという憶測も飛び交った記憶が。
変調子で曲の展開が目まぐるしく変化するプログレッシブロックのきらいがあるRevo曲。
『進撃』ファンの方もそれは「紅蓮の弓矢」でよくご存じかと思いますが、その中で「紅蓮の座標」は展開が最もストレートで聴きやすい一曲です。
『進撃の軌跡』で最もアニソンらしいアニソンと言えるのがこの曲かもしれません。
映画でこの曲を聴いてムービーver.を持っている方は、恐らく大きくイメージは外れていないFULLver.を聴くことができると思います。どこか安心感もあり、そこはかとない物足りなさもあり…。
裏歌で「この美しき残酷な世界では」という一期のエンディングテーマに使用されたフレーズを使用するのもRevoらしくにくい。
あと歌詞カードがすごく座標座標している。初見絶対読み方が分からない。
最期の戦果
私は最期まで屈しない
ロングインタビューの中でRevoが「何故かこの物語の歌を書きたくなった。『進撃』の世界を象徴する物語だと思っている」と語っています。
本当それ!お前よく分かってる!!(謎上から目線)
正直この「イルゼの手帳」を使って一曲創るというのがもうRevoが『進撃』大好きであることの証明と言っていいほどだと個人的には思ってしまうのである。
このお話はアニメ本編では採用されず、後日OVAムービーの一端として公開されることになりました。物語の根幹に関わっている最大のサイドストーリーという認識。
非常に特徴的な緩急と、背後で常に流れている何かを書き記すSEによって独特の緊迫感を生んでいる一曲。
序盤を彩る死と隣り合わせの緊張感と疾走感。そして巨人と対話するという奇跡の当事者となった驚嘆や歓喜、その後冷静さを取り戻し表出した怒り。イルゼの不安定な心の機微を、多様な音楽表現によって描き出しています。
Revoファンからすると奇妙な安心感すら覚える音楽的展開。
曲の創りが非常にRevoのソロプロジェクトSound Horizonに近く、このCDで最もRevoの持ち味が反映されている曲と言って良いかもしれません。
他の曲がキャラクターをフィーチャーしたイメージ音楽だとすれば、この「最後の戦果」は本編で使われたイルゼの手帳を一場面そのまま描き出しているような曲。
語りや台詞こそありませんが、その本質が物語音楽であるからかと思います。
非常に取っ付きにくくハードルが高いと思われているSound Horizonですが、この曲の展開に感嘆を覚えた方はこちらの方も楽しめる素養があるのではないと思います!
そして特筆すべきは曲の最後に挿入されている台詞。絶望的なラストにしめやかな救いを持たせます。
本編の同台詞と比べるとどことなく、この曲がイルゼ・ラングナーの戦果であることを聴き手に伝えるようとするイメージを受けました。
これも実はRevoの指示によるものとインタビューで語られており、そのニュアンスを的確に表現した声優さん(敢えて誰とは言わない)の力も実に素晴らしく作用していましたね。
神の御業
汝 疑う事なかれ 汝 神の御業を
汝 此れ侵すべからず 汝 聖なる壁を
作中に登場する宗教ウォール教の教えをそのまま讃美歌風に仕上げた、アルバムの中心にして最も異彩を放つ一曲。
インタビューにおいて「Revoが『進撃』でアルバムを創るならこういうところも切り出すということを最も分かりやすく行った」と語られています。
陶酔的で不気味な音の拡がりや空間を感じさせるコーラス曲。
6曲目というCDの中心にして物語を一旦置く役割を果たしているかと思います。
20人以上のコーラスを何重にも重ねているから凄いことになっているらしい。
ほぼアカペラなため、ライブで観客が歌うことになる可能性が高い。
ウォール教は作中において、宗教団体の体を取り、偽王政と手を取り合って民衆の心を惑わした存在。
その全てが明らかになったわけではないですが、現時点では邪教とも呼べる存在。
大陸間戦争の歴史が明らかになった今、彼らの掲げる「神」とは何なのか。謎は深まっています。
今後良くない形で再登場する可能性は極めて高い存在かと思います。
この曲にもそういったネガティブな表現を感じさせる要素が含まれている。
「神の御業」というタイトルからSound Horizonのファンはどうしても運命の女神や死神を思い浮かべてしまうでしょう。
そしてこの曲の最後には、Revo作品において死神を象徴する音階が加えられています。
往年のファンにだけ分かる形でウォール教の本質を表現する細かい演出。
偶然では?と思う方もいるかと思いますが、Revoという男は確信的にそういうことをやります。
ネットで見た2:19という時間はニック司祭を表しているのでは?という説も、流石に滑稽ではあるもののあながちない話ではないのです。
この曲は余韻が他に比べると大分長めに設定されているのは事実かなぁと。
自由の翼
鳥は飛ぶ為に其の殻を破ってきた 無様に地を這う為じゃないだろ?
お前の翼は何の為にある 籠の中の空は狭過ぎるだろ?
1期2クール目のOP曲。
今更言うまでもないことだがFULLの完成度が極めて高いので、TVサイズver.で情報が止まってしまっている人はちゃんと聴いておこう。
「紅蓮の弓矢」と同様にミックスに大きな変更がかけられており、こちらも全体的な音のバランスを重視した形になっています。
総合的に言えば「紅蓮の弓矢」よりも壮大な創りの音楽なため、ミックスの違いを感じやすいかもしれません。
「最期の戦果」という独立した楽曲と「神の御業」という異彩で一旦間を置いてから、再び調査兵団の物語に心を引き戻す。
このアルバムの中でも「二つ目の始まり」として非常に効果的に機能しているかと思います。
数々の苦難を経験しても、まだ前向きに自由を求めることが出来る。
苦しい現実と厳しい世界のことは理解しているつもりだけども、本当の過酷さはまだ知らない若い心。その力強さだけがまだまだ前のめりになっている音楽だなと思います。
先の展開を知り、その音楽を聴いている今となってはそう思える一曲ですね。
この曲は終わりです。短くないですかって?
「紅蓮の弓矢」と「自由の翼」は今更そんなに書くことないでしょ!?
双翼のヒカリ
最期の《瞬間》あなたの《瞳》に 映る私 勇敢な"兵士"でしたか?
忘れないで あなたの背に 羽撃くのは対なる"双翼のヒカリ"
ここまでの歌はタイトルから何となく誰をイメージした歌かを想像できる要素がありましたが、この曲については誰をイメージしたものか、聴き始めるまで多くの人が曖昧だったかと思います。
そして歌詞カードを見て「うっ…」となった人も多いことでしょう。
調査兵団特別作戦班。通称リヴァイ班。
『進撃』で魅力的に描かれたキャラクターの中で、恐らく最も悲惨な最期を遂げたであろうキャラクター達です。
一瞬のうちに女型の巨人に全員が殺されたシーンは、作品の無常さと無情さを容赦なく突きつけてくる最も印象深いものの一つであったと思います。
この曲はその悲惨な最期を遂げた一人であり唯一の女性であったペトラから、リヴァイに向けられた想いの歌となっています。
Revoもインタビューにて「誰の曲よりも真先にこのエピソードのことを考えた」と答えており、彼の中でも非常に強く心に残っているストーリー、そしてキャラクターであることが伺えます。
劇中ではペトラが直接リヴァイへの想いを吐露するシーンはありませんが、それに向かう空気作りは確かに行われており、それこそ二次創作ではよくフィーチャーされている印象。
この曲についてもRevoが「自分の解釈で曲にさせてもらった」と答えているように、このアルバムにおいて作中で明言されていないキャラクター性を最も強く描いた一曲と言えます。
ペトラの気持ちはこうであったかもしれない。そして、彼女はリヴァイのことをこういう人間だと思っていたのかもしれない。
彼女の想いを切り口にして、Revoの中のリヴァイというキャラクターの解釈も同時に表現している楽曲です。
自分を想い慕ってくれる兵士の命と意志が集まった"白い翼"。
犠牲になってしまった兵士達の命と遺志が集まった"黒い翼"。
この二枚の"双翼のヒカリ"がリヴァイそのものであると。
解釈の正解は無数にあって、そのどれもが間違いではない。
多様性を尊重するSound Horizonを続けてきたRevoならではの創りになっていると思います。
「自由の翼」とその「代償」に挟まれたこの曲は、このCDで最もしんみりとした音楽です。
大きな曲やリズムの変化もなく、ただただストレートに切なく、加えてどこか淡々とした諦観を感じさせるようなメロディで、最期を迎える彼女の胸中を語ります。
曲の最後に用いられているSEは、アニメオリジナル展開を踏襲したものかと思われます。
エグいことをされるものだ。
自由の代償
どんな犠牲を払っても 掴むべき《未来》がある
血塗られた冷徹な 其の意志の名は《自由》
劇場版後編のテーマソングとして創られた楽曲。
"自由の翼"は大きな"代償"の上に齎されるものであるとでも言いたげな曲順が胸を抉ってくる。
この曲は映像が先に出来ていたので、映像の展開に音を合わせるという試みによって創られた楽曲です。
そのため、曲単体で聴くと些か強引であったり違和感を覚える部分があるだろうというところまでRevo本人の口から語られています。
初回限定版のCDにはこの曲の醍醐味を感じられるように、アニメ映像に合わせられたブルーレイが同梱されています。買うなら是非ブルーレイ同梱版を!
僕は劇場版を観に行っていないので、正直劇場サイズver.はあまり好きになれませんでした。
FULLサイズでは映像ありきの特徴的な展開を残しつつ、ブツ切りに近い切り替わりを感じにくいような肉付けがされている印象です。
最も特殊な展開の曲であり、初聴で完全についていくのは難しい楽曲となっています。
映像を見ずに聴く場合は、この音が何故ここで鳴るのかを考えながら映像の展開を妄想するというのも、一つの楽しみ方になるかもしれませんね。
「自由の翼」が自由という理想を掲げる凱歌であるなら、
「自由の代償」は自由という概念その物を求める弔歌かと思います。
同様のメロディを利用した二曲でありますが、本質的には真逆な曲。
「代償」はとにかく"自由"という存在を強調し、冷静に言い聞かせるような、悲しみと懺悔を含んだ決意のニュアンスを感じます。
歌詞がイラストで描いてあるのに、そこの歌がドイツ語で全然分からないという嫌がらせめいた所業が散見されますが、何だかんだそんなところにも安心感を覚えてしまうのがファン精神というやつかもしれない。
彼女は冷たい棺の中で
嗚呼... 悪は滅びようと... 自業自得だと...
言い張る心算はないが 私はやるしかなかったんだ……
タイトルから一発で誰の歌か分かるシリーズ。
女型の巨人として戦士の責務を果たそうとしたアニ・レオンハートが、自らを封印した結晶体の中で何を想うのかを書き出した一曲です。
アニの存在はそれ以降原作でも触れられることがほぼなく、壁外人類の存在が明らかになった現在でも、彼女の素性や本質については未だに謎な部分が多いです。
巨人化の力を集める都合上、封印された彼女の存在が重要な意味を持つまでには、さほど時間はかからないのかもしれません。
この曲で語られているアニは、最新巻までで明らかになった情報を踏まえ、封印ギリギリまでで垣間見えたキャラクター性と父親の存在を拡げた曲となっています。
最期を迎え個人の物語が終焉しているペトラやエレン母と違い、彼女はまだ生きていて、これから本編で確実な掘り下げが行われる重要キャラクターです。
その展開を阻害しないレベルの範囲でしか解釈を拡げられない制約はあったのだと思います。
なのでアニ個人の曲というよりは、エレン達とは別の正義を持った戦士達3人の苦悩を総合して表現している曲のように感じます。
インタビューでもRevoは「単純な勧善懲悪ではなく、多面性のある作品であることも伝えたかった」と答えています。
アニは、戦士達3人の中で、最も感情的であり感傷的な一面を持つキャラクターです。
感情を持ちながらも自らの目的意識を捨てず、最後まで父親の言葉を胸に抵抗し、今もそれを続けている。
同胞であるライナーが痛烈な現実を前にして心がおかしくなってしまったことを考えても、アニというキャラクターの精神力は計り知れないと言えるでしょう。
楽曲においてもそのメンタリティは反映されており、タイトルからは想像もできないほど力強いメロディ、そして歌声で彼女の胸中を彩ります。
一つの役目を終え、眠りにつきながら、改めて自分の存在意義、行動の内容について葛藤し、時には言い訳し、時には決意する。
不安定な彼女が辿り着く先は本編で語られることですが、アニという作品の根幹に関わる重要人物の存在を、受け手の心にしっかり刻み込む力があるストレートな音楽と思います。
歌詞の中で「あんた」という存在が複数回登場します。
最初がエレンであることは間違いないでしょうが、曲の最後で語られる「あんた」はまた、違う人物を指しているのではないかなと思っています。
音楽の切れ方、そして歌詞カードの書き方がそれを匂わせているような。
心臓を捧げよ!
黄昏を"弓矢"は翔る "翼"を背負い
その"軌跡"が自由への 道となる
このアルバムの便宜上ラストを飾る一曲にして、アニメ二期のOP曲。
FULLver.お披露目となりました!
この曲は凄い!とにかく凄い!!
ここまで8000字以上かけてRevoを語ってきた俺が言うんだから間違いない!!
曲順を見た時は、正直なところ「え、あのテイストのOP曲を最後に持ってきちゃうんだ」と思ったりもしました。
何故ならこの曲のTVサイズで受けたイメージはさながら軍歌。
一期を増して苛烈を極める調査兵団の新たな戦いを切り出す、壮大な始まりの歌という印象でした。
曲自体も一期よりも更に作品観に寄り添った歌で、より癖の強い創り。
終わりに持ってくるのは些かズレているような…。そう感じざるを得ませんでした。
しかしこのアルバムのラストで聴くとその印象は一変。
ここまでの楽曲で積み重ねてきた様々な要素が軸となり、決意や結束というポジティブな感情から、悲しみ、怒り、憎悪と言ったネガティブな感情まで、様々なものが伝わってきます。
『進撃』一期の世界観の全てを内包し、新たな出立を表現する、深いテーマ性をメロディから感じるようになっていました。
前半はTVサイズで聴いているのと同じ曲なのに、こうまで感じるのが変わってくるとはと思い知らされる。確かにこのアルバムの最後を飾るに相応しい楽曲であると強く思いました。
そしてFULLサイズの展開はとにかく凄まじい。
Revoが初めてTVアニメのために書き下ろした「紅蓮の弓矢」は、FULLサイズになるとどこか不自由さを感じさせる実験的楽曲となっており、一部の『進撃』ファンからは不評を買ったのを覚えています。
対して「自由の翼」は「紅蓮」よりも文字通り自由に創られており、こちらは逆にFULLサイズの評判が良い。単一曲の完成度ではRevo曲の中でも屈指の名曲であると僕は思っています。
しかしその分、アニメOPとしては、1分半で盛り上がりをまとめるのが難しい一曲となってしまっていたのもまた事実だったかなと思います。
そして「心臓を捧げよ!」はこの二曲の弱点を克服。
「紅蓮の弓矢」のようにOP曲としても無理のない展開を据えながら、「自由の翼」のように多様なメロディを使ってのRevoらしい展開力と表現力が炸裂しています。
特にCメロ→各楽器ソロ→Dメロの展開は必聴。
過去曲を上回る圧倒的な音圧によって繰り広げられる、息も吐かせない音楽的展開はRevoの新たなる飛躍を感じさせる超表現です。この曲が5分半という短い時間に纏められいるのもまた本当に素晴らしい。
特筆すべきは、前半の軍歌的な表現から、全く違和感なく壮絶なバンドサウンドに移行し、最終的には融合するところでしょう。
Revoはオーケストラサウンドとバンドサウンドを違和感なく両立させ親和させるスキルが本当に高い。この点に関してはRevo以上に優れた作曲家を知りません。
TVで聴くとボーカルやメインメロがどうしても中心に聞こえてしまうと思いますが、CD音質をヘッドホンなどで聴くとコーラスが強く強調され、実に心地良いバランスで聞くことができます。
この曲はアニメOPとしてTVで聴くのではなく「音楽を聴く環境」でじっくり聴いてみてほしいと思います。
是非CDや音源を手に取ってみてほしいです。本当に最高の一曲です。
全曲通して伝えておきたいこと
漏らすことなく一曲ずつ書いてきました。
ここまでで「進撃の軌跡」が『進撃』の世界を実直に書き抜いたCDだということは伝わっている(伝わっていてほしい)ことかと思います。
あとはもう少しだけ、全体で思ったことを書いておきます。
今回のアルバムで特に特徴的なのは、OP曲である「紅蓮の弓矢」「自由の翼」の2曲に登場するメロディを、どこかに取り入れている楽曲が非常に多いということです。
同じメロディを違う雰囲気や楽器で表現する映像作品のサウンドトラックなどとは違い、曲の一部を含めた「全く違う曲」を創っているのです。
ガッツリ分かりやすく引用している曲もあれば、表現の一部として1フレーズだけ同メロディが使用されている曲もあります。
Revo自身は、Sound Horizonにおいても、アルバムでメインテーマに据えられている楽曲のメインメロディを随所に活用して、作品全体の雰囲気を盛り上げることが多いアーティストです。
つまりファン的に言えばこれは「いつものこと」ではあるのです。
しかし、Revoのアルバムを初めて聴く『進撃』のファンからすれば、最も聴き馴染みのある曲のメロディが全く違う形で耳に入ってくるというのは音楽を聴く上であまりない体験になるのでは、と思いました。
同じメロディを違う曲に使うというのはかなり難しい方法論なのですが、Revoは演出の一環として、本当にそれを上手く行うことができる作曲家です。
決してメロディを思いつかないから流用しているのではないということは、楽曲のクオリティや創りを体感してもらえれば間違いなく伝わると思います。
こういうポイントによって、一つの関連した大きな作品を楽しんでいることを、聴き手が意識せずとも印象付けて行く。
その結果、映像作品と同じような没入感を、音楽だけから得ることが出来るのです。
物語音楽というジャンルを盛り上げてきたRevoは、そういった他の作曲家とは少し毛色の違うノウハウを沢山持っています。その一例としてこれは書いておきたいと思いました。
あとは今回のアルバムは全ての曲が6分以内に収まっており、およそ「一般的な長さ」に収まっています。これも慣れていない聴き手のことを意識した創りでしょう。
何のこっちゃの方もいるかもしれませんが、普段は一曲8分以上、場合によっては10分や15分の曲を平気で打ち出してくる作曲家なのでお察しください。
漠然と長いというイメージが持たれやすいRevo曲ですが、『進撃の軌跡』を聴いた方には、これほどの力量を持った作曲家がより長い尺をかけて描き出す物語とはどういうものなのかというポジティブな捉え方をしてもらえたらなぁと思ったり。
歌詞カードについて
最後にこちら。
よく歌詞カードがネタにされているのは語るに及ばずだと思いますので、この項ではその歌詞カードについて真面目な話をします。
「読めない」「読み辛い」が当たり前のRevoのCDですが、『進撃』ファンの方にはDL版ではなく、是非CDを買って歌詞カードまで手に取って頂きたいです。
音楽や歌という音階、音数、そして時間の制約があるジャンルにおいて、Revoは「歌詞カードも表現の場である」という認識で物語を創っております。
歌詞の表記と実際の歌が違ったり、歌詞の書いてある場所がおかしかったり、何故か絵が描いてあったりするのには、音楽だけでは語り切れない微妙なニュアンスの表現であることが殆どです。
更に今回の歌詞カードは1枚のリーフレットの合間に、正方形の歌詞カードが別々に挟まっているという非常に管理し辛い作りとなっています。
最初開封した時はまず間違いなく落としてヤベッってなります。
一度落とすと元の形は分からない仕様。元には戻せない仕様なのです。
この作りは「敢えて落ちるようにしている」としか思えません。
と言う理由は書かれている内容。
リーフレットの方にはテーマソングとして使われた楽曲の歌詞が書かれており、正方形のカードにはキャラクターイメージの楽曲が書かれています。
そして、落ちるカードに書かれているのは皆『進撃』の世界から脱落したキャラクター達。
落ちるのは彼女達の歌。そしてその紙ペラを無造作に拾い上げる我々の存在。
その行いも含めて彼女達の命の表現なのかもしれません。
今も戦う調査兵団はテーマソングによって表現されています。
途切れることのない一枚のリーフレットを順番に辿っていき、裏をめくるとそこには……。
どうなっているかは是非手にとって確かめてみてくださいね。
因みにやたらジャケットからケースを外すのが難しいという話題も出てますが、あれも壁外へ出て行くことの難しさを表現するために敢えてやっているのはないかと思えてしまっているのだが、そうだとしても流石にやめてほしいと思ったりとかそういうアレ(褒めてはいる)
まとめ
ようやく最後に辿り着いた……(※ここまで12000文字)
長々と「進撃の軌跡」の素晴らしさを語ってきました。
俺の気持ちは皆の心に届いただろうか…。
Revoのファンになってもう8年近くなると思いますが、ここまで人にオススメしたいと思ったアルバムは初めてです。これは『進撃の巨人』という絶大な人気を持つ作品をバックに持つからなのは間違いありません。
それこそ昔は、めっちゃ良いと思って人に勧めても「よく分からなかった」とか言われて落ち込んだこともあったんや……。
そんな俺でも絶対に満足してもらえると思える作品、それを勧められる沢山の人達に出会えた!
ありがとう『進撃の巨人』!こんな未来は数年前には想像出来なかった!
近年ではレベルの高い演奏陣やオーケストラをバックに持つようになり、出来ることが増えたことにより、Revoの音楽性、表現力がドンドン凄まじいものになってきています。
『進撃の軌跡』は間違いなくその一つの到達点であり、現時点での彼の最高傑作にこのCDが挙げられたしても、何の違和感もありません(もちろん最高傑作はファンそれぞれの心の中にあります)
Revo自身「好き嫌いという価値観を除いて音楽のクオリティだけを見れば、最新のものが常に最高のものになっているのは間違いない」というようなコメントを残したりもしています。
その言葉通りに、CDが出る度、新たな飛躍を感じさせてくれるアーティストなのです。だからこそやめられません。
長年のファンから見ても本当に素晴らしい名盤です。
『進撃』のファンには是非手に取って聴いてもらいたい。
この記事はその一心で書きました。
皆様どうかLinked Horizonの『進撃の軌跡』を宜しくお願い致します!
そして一緒に鎖地平団が行う全国ツアーライブを楽しみましょう!
『進撃』ファンは総員!このCDに"心臓を捧げよ!"
ボーナストラック
青春は花火のように
この傷口は痛々しいか? 誰が中二だって?
身の程なんて 大人のように 弁えてなんかやらないぜ
俺達は中一だ!!
終わったけど終わりじゃない。
物語はスピンオフの舞台へ。
『進撃!巨人中学校』のオープニングテーマとして創られた楽曲。
こちらも長らくFULLサイズがなく、『進撃の軌跡』のボーナストラックで初収録となりました。
ブルーレイ付属の限定盤にしか収録されていないのでご注意を!
「心臓を捧げよ!」からこの曲の繋ぎもSound Horizonのノウハウを活かした演出で、パラレルワールドへの移行を表現しているのが実にRevoらしい。
「紅蓮の弓矢」をモチーフにネタ寄りの歌詞構成。ソノチーハンクイテーガー?
黒板に書かれた「米?come?(コ メ)」とかネットの歌詞耳コピ考察班をオマージュしているのではないかと思えてきて笑える。
原作の音楽から壮大さを削り、爽快さを増した一曲に。
真っ直ぐなロックサウンドを中心に据え青臭い一曲。
歌詞はこれでもかと言うほど韻を踏んでおり、どことなくラップのようなテンポ感を持つ心地良い疾走感。
Revo自身のメッセージ性も含んだ真っ直ぐで聴きやすい一曲です。誰が中二だって?
何か心洗われるような平和な世界。
ネットで見かけた再生時間3:59(4"死"へ行かない)という考察には唸りました。
そしてこの青臭い歌と歌詞はSound Horizonの某男を彷彿とせざるを得ません。
星を探して"よだか"は飛んだ。ライブで会えたら良いなと思ってるぜ!
壮大で重苦しい空気から解放され、どこか晴れやかな気持ちでこの歌を聴き、このアルバムは終わります。振り出しに戻して無限ループの始まりと行きましょう!
そしてこの記事も終わります。この記事は無限ループしません。
やっと終われるよぉぉぉ…(※14000字)
最後に敢えて言わせてほしい。
アーティストLinked Horizonその主催であるRevo!
このCDを俺達の手元に届けてくれた全ての人達!
本当に!
\ブラボー!!/
5月吉日 某所にて