インターネットを通じて、国内外のスポーツ動画を配信するサービスが拡大している。携帯電話大手ソフトバンクなどが昨年、「スポナビライブ」を始めたのに続き、海外から「DAZN(ダ・ゾーン)」が参入。今季からサッカーJリーグの全試合中継に乗り出し、勢力を伸ばす。無料にこだわる別サービスも登場し、会員獲得を目指した競争が激化しそうだ。(有島弘記)
「指で簡単に映像を巻き戻せるから、得点シーンを見返せる」。Jリーグ1部のヴィッセル神戸の試合会場で、サポーターの女性(23)=神戸市西区=はスマートフォン(スマホ)を片手に声を弾ませた。
ダ・ゾーンは英国の動画配信大手パフォーム・グループが運営し、スマホやタブレット端末、パソコンなどに対応。サッカーや野球、格闘技など国内外の年間約6千試合を月額1750円で配信し、Jリーグなら試合終了後、1カ月間は繰り返し見ることができる。
Jリーグで話題を呼ぶダ・ゾーンに対し、月額1480円のスポナビライブは男子プロバスケットボール「Bリーグ」の全試合中継が売りの一つ。プロ野球もダ・ゾーンより多く、10球団の試合を放映している。人気の海外サッカーは両社が争い、欧州の1部リーグでは、ダ・ゾーンがドイツ、スポナビライブがイングランド(英国)とスペインの全試合を中継するなど、他競技も含め、ファンの囲い込みに躍起だ。
「無料」で存在感を高めているのが、IT大手サイバーエージェントなどによる「AbemaTV(アベマティーヴィー)」。テレビと同じくCMを流し、視聴料金は発生しない。ニュースやアニメ、音楽番組も配信するため、種目こそ少ないが、海外サッカーではスペインのバルセロナなど、強豪9クラブに絞って試合映像を届けている。
いつでも、どこでも動画を見られるサービスは、ファンだけでなく、選手側にも好評。ヴィッセル神戸の橋本和(わたる)選手は「好きな時間に自分の試合を見返せるのは役立つ」と“復習”につなげている。ダ・ゾーンの広報担当者は「ネットでスポーツを見る文化はまだまだこれから。各社と切磋琢磨(せっさたくま)し、市場を広げたい」としている。
■テレビも恩恵、映像活用
インターネットでの動画配信サービスが広がる中、競合する既存のテレビ局は“逆風”を利用する動きも見せている。
Jリーグの全試合中継を今季から始めたダ・ゾーンは、スタジアム内のさまざまな角度から撮影している。これまで6台が基本だった中継カメラは9~16台に。「臨場感が高まり、熱気をより伝えられている」(広報担当者)という映像を、地元のサンテレビ(神戸市中央区)は買い取り、自社の生中継に転用している。
ダ・ゾーンと契約するJリーグから映像を購入する方が、自社制作よりも安価で、サンテレビは今季、新たな仕組みで試合中継を増やしている。同局の担当者は「購入費が低額で助かる。映像はハイスペック(高性能)で、今季は過去最多の年間10試合ほどを放送できそうだ」と利点を挙げている。
ほかには、NHKがJリーグとの契約を更新し、自社カメラで中継する。BS以外にも、地上波放送局ごとに地域を絞り、ご当地クラブの試合を流すこともある。