2017年5月21日05時00分
法治国家としての米国の真価が問われるだけではない。国際秩序の安定という観点からも心配される事態である。
昨年の大統領選にロシアが関与した疑惑で、米国が揺れている。連邦捜査局(FBI)の捜査をトランプ大統領が妨げようとした疑いも浮上した。
司法省は高い独立性をもつ特別検察官を任命した。捜査が進む今後、米国の政治はこの疑惑をめぐる紛糾が続きそうだ。
朝鮮半島の緊張や南シナ海問題、中東の混迷などの懸案の中で、米国は安定を築く役割を果たすべき立場にある。しかし、内政の混乱が続けば米国の対外政策にも影を落とすだろう。
コミーFBI前長官を突然解任するなど強引な対応を重ねたトランプ氏の責任は重い。捜査に全面協力し、国民への説明も尽くして、政権運営の正常化を急ぐべきだ。
特別検察官になった元FBI長官のマラー氏には当然、厳正な捜査を進めてもらいたい。
トランプ氏による捜査妨害の疑いは重大である。コミー氏に捜査の中止を求めていたという報道が事実ならば、弾劾(だんがい)訴追に値する。米国が世界に唱えてきた「法の支配」の原則は今後、説得力を失うだろう。
大統領選前後のトランプ陣営とロシアの関係も、十分に解明されなくてはならない。
選挙中のクリントン陣営からのメール流出に、ロシアは関与したのか。トランプ陣営とロシアの間に癒着があったのか。米ロ両国が健全な関係を取り戻すうえでも真相究明が必要だ。
トランプ氏とロシアの関係をめぐっては、米国の同盟国イスラエルから提供された機密情報を自ら、ロシア外相に伝えていた問題も報じられた。
違法ではなくても、提供国の同意を得ずに機密情報を他国に渡せば、同盟関係にひびが入る事態になりうる。トランプ政権をどこまで信頼できるのか、日本を含む世界の対米同盟国に重い疑念を広げかねない。
政権発足から4カ月、トランプ氏の軽率さや身勝手さを示す言動があとを絶たない。国民の支持率も低迷を続けたままだ。
それでも本人はなおも「自分ほど不公平に扱われた政治家はいない」と開き直っている。
国の指導者として尊重すべき司法・情報機関やメディアとの不毛な対立はやめて、山積する課題に真摯(しんし)に取りくむ政治姿勢をなぜ示せないのか。
大統領の権力を監視するのは、司法、議会、メディアの役割である。米国の民主主義の底力が引きつづき試されている。
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