学士は「工学」、修士は「政策・メディア」のマイスターです。
「博士号」というものを意識したことが、今までに何度かあります。
でも、
○一体どの博士号を取るの?
→○そもそも自分は博士号をどのように活かしたいの?
→○博士号が活かされるような仕事が、自分が一番やりたいことなの?
……と突き詰めて考えていくと、その度に
「自分はどうやら本気で博士号を必要としていないし、長い時間をかけて取るだけの魅力を今のところは博士号に感じていない」
という事実に直面するので、結局、具体的なことは何もしないでいます。
人生は短いようで案外長いらしいので、「自分はこの分野を究めたかったんだ!」と心の底から思えたらそのとき改めて考えようと、気長に構えています。
(この辺のスタンスは、人それぞれですよね。取ってから考える、という人もいていいと思いますし)
ただ、こんなのんきな将来ビジョンを描いているのは、マイスターが工学部の出身で周囲に修士や博士がいっぱいいたからなのかも知れません。
【教育関連ニュース】-----------------------------------------
■「文系の博士号、難しすぎ? 理系の3分の1以下」(Asahi.com)
http://www.asahi.com/life/update/0212/003.html
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巷でよく言われること(?)ですが、あまり大学関係者は問題に挙げないトピックの一つです。上記の調査も「文部科学省が初めて調べた」とありますから、「なんとなく触れてはならないとされている話題」みたいな感じだったのかも知れません。
安易に話題にすると、怒ったり困ったりする人がいっぱいでてくる、とか。
マイスターは以前からそんな「大学界の常識」に疑問を感じていましたので、2005年12月に、自分なりにあれこれ調べて記事をいくつか書きました。
(本ブログにしては珍しくグラフをたくさん盛り込んだ記事になっております)
(過去の関連記事)
・「単位取得後退学」って? 博士号と課程制大学院
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50122590.html
・博士号はどんな学問分野に多い? 各国のデータを比較します!
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50123351.html
・日本で、人文科学系と社会科学系の博士号が少ない理由は?
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50122978.html
・博士号取得を目指すことには、どういうメリットがある?
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50123973.html
「単位取得後退学」「博士課程満期退学」という言葉の謎から、各分野ごとの博士号取得率(課程博士)、そして博士号取得者の進路に至るまで、わりとがんばって調べたのでした(といっても「あくまでも参考値として」というものがほとんどですが)。よろしければご覧くださいませ。
ちなみにこのときは、
で、冒頭のAsahi.comの記事です。
こちらは、文科省がこのために行った調査の結果ですから、マイスターの記事よりもより現実を反映させた数値が出ているはずです。
この調査によると博士号の取得率は、人文科学が7.1%、社会科学は15.2%。
1/3どころの騒ぎじゃありませんでしたね……。
ちなみに文科省の調査は、「修業年限内に博士号を取った学生の数」となっています。しかし大学によっては「正式な修業年は3年だけど、単位取得退学後○年以内なら課程博士として扱う」みたいな学内規定を設けているところもあるようです。マイスターが以前調べたデータは「課程博士の人数」ですので、そういった人数も含まれておりまして、その辺りの差も多少あるかも知れません。
いずれにしても人文科学、社会科学系において「博士課程で3年過ごしたとしても、博士号をもらえるとは限らない。というより、もらえる確率の方が圧倒的に小さい」という事実があることには変わりません。
Asahi.comの記事では、
大学院卒業後、研究者として過ごしながらライフワークとして何百ページにもわたる大論文を書き上げ、ようやく「認められて」もらえるというのが実態なのかもしれません。
でもそうなると、「じゃあ、博士課程の意味って何?」という疑問もわきますよね。
博士課程では、授業などのコースワークをほとんどやらないところも多いです。教員による研究指導が基本とされているのですね。それはいいのですが、そうやって指導を受けて博士論文を提出しても博士号をもらえないことがほとんどだとなると、博士課程3年間の学習成果を証明するものがなにもないということにならないでしょうか。
このあたりは、大学院修了後の進路選択とも密接に関わっている問題だと思います。
・「2002年度 博士課程修了者の就職先」(「文部科学統計要覧」を元に作成)
http://livedoor.blogimg.jp/shiki01/imgs/6/d/6d2e2ad1.gif
↑人文、社会科学系では、博士号取得者のほとんどが、教員になっています。
一方、博士号取得率が高いとされた保健、農学、工学、理学などでは、修了後の進路がもう少し多様です。
一般によく言われる、<文系で博士に行く=大学に残って研究者を目指すことを意味する>という図式が見て取れます。
マイスターが思うに、卒業生は全員、大学の研究者になるという前提だからこそ、「博士課程を出ても博士号はすぐにはもらえない」なんていうやり方が通用している、のではないでしょうか。
例えば「経営学博士を取ったら、国際事業コンサルタントとして個人事務所を立ち上げて、ばりばり稼ぐぞ!」みたいな人がいるとしましょう。「大学院で十分学んで博士論文を提出したとしても、博士号はあげないよ。じっくり学会活動を積み重ね、十年くらいかけて私たち教員を唸らせるような大論文を書いたら持ってきなさい。そしたら学位のことを考えてあげよう」なんて言われたらこの人、博士課程に入学しませんよね。
つまり、「文系の博士号が難しすぎる」と言われる背景には、文系の博士号が想定する進路ビジョンが大学の研究者に限定されすぎているという事業もあるんじゃないか……とマイスターには思えるのです。
文系の博士課程を改革するなら、ただ学位の取得率を上げるだけではなく、大学院修了後の進路の多様化も含め、根本的な教育コンセプトから設計し直すことが必要なのではないかな、と個人的には思うのですが、いかがでしょうか。
以上、マイスターでした。
【2/14追記】
※いくつかご指摘、情報が寄せられています。よろしければぜひコメント欄もお読みください。
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(過去の関連記事)
・大学院生に特化した職業紹介会社
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50272393.html
「博士号」というものを意識したことが、今までに何度かあります。
でも、
○一体どの博士号を取るの?
→○そもそも自分は博士号をどのように活かしたいの?
→○博士号が活かされるような仕事が、自分が一番やりたいことなの?
……と突き詰めて考えていくと、その度に
「自分はどうやら本気で博士号を必要としていないし、長い時間をかけて取るだけの魅力を今のところは博士号に感じていない」
という事実に直面するので、結局、具体的なことは何もしないでいます。
人生は短いようで案外長いらしいので、「自分はこの分野を究めたかったんだ!」と心の底から思えたらそのとき改めて考えようと、気長に構えています。
(この辺のスタンスは、人それぞれですよね。取ってから考える、という人もいていいと思いますし)
ただ、こんなのんきな将来ビジョンを描いているのは、マイスターが工学部の出身で周囲に修士や博士がいっぱいいたからなのかも知れません。
【教育関連ニュース】-----------------------------------------
■「文系の博士号、難しすぎ? 理系の3分の1以下」(Asahi.com)
http://www.asahi.com/life/update/0212/003.html
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博士号は文系の方が理系より難しい――。博士課程の修業年限内に学生が博士学位をどれだけ取得できたかを文部科学省が初めて調べたところ、文系の学生の取得率は理系の3分の1以下であることがわかった。博士号については「理高文低」と言われてきたが、それを裏づけた格好だ。文科省は「文系は低すぎる。対策を考えてほしい」と話している。文系は、博士課程を出ても博士号がもらえない――。
調査は国公私立すべての大学院576校で、博士課程に在籍する学生を対象にした。05年度時点で、分野ごとに3〜5年となっている修業年限内に博士号を取った学生の数を調べた。
対象となった学生1万8516人のうち取得者は7912人で、平均取得率は42.7%。分野別では、最も高かったのが医学・歯学などを含む保健の56.3%で、農学53.3%、工学52.8%、理学46.3%が続いた。
これに対し、人文科学が7.1%、社会科学は15.2%と文系の両分野がワースト1、2位を占め、理系の3分の1以下の水準だった。
(上記記事より。強調部分はマイスターによる)
巷でよく言われること(?)ですが、あまり大学関係者は問題に挙げないトピックの一つです。上記の調査も「文部科学省が初めて調べた」とありますから、「なんとなく触れてはならないとされている話題」みたいな感じだったのかも知れません。
安易に話題にすると、怒ったり困ったりする人がいっぱいでてくる、とか。
マイスターは以前からそんな「大学界の常識」に疑問を感じていましたので、2005年12月に、自分なりにあれこれ調べて記事をいくつか書きました。
(本ブログにしては珍しくグラフをたくさん盛り込んだ記事になっております)
(過去の関連記事)
・「単位取得後退学」って? 博士号と課程制大学院
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50122590.html
・博士号はどんな学問分野に多い? 各国のデータを比較します!
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50123351.html
・日本で、人文科学系と社会科学系の博士号が少ない理由は?
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50122978.html
・博士号取得を目指すことには、どういうメリットがある?
http://blog.livedoor.jp/shiki01/archives/50123973.html
「単位取得後退学」「博士課程満期退学」という言葉の謎から、各分野ごとの博士号取得率(課程博士)、そして博士号取得者の進路に至るまで、わりとがんばって調べたのでした(といっても「あくまでも参考値として」というものがほとんどですが)。よろしければご覧くださいませ。
ちなみにこのときは、
○日本の各分野の博士号の発行状況を見てみましょう。市場が大きい分野と、そうでない分野があることがわかります。発行数が少ない、人文科学や社会科学、教育学などの博士は、受け入れてくれる市場もそれだけ小さいので、要注意です。(これらの博士号で職を得たいなら、他の国に行った方が確率は高まります)と、身も蓋もない結論でまとめたのでした……。
○もしあなたが大学院博士課程への入学を果たし、単位をすべて取得して3年間を終えられたとしても、人文科学、社会科学、教育学の分野では、課程博士として学位を得られる可能性は1/3以下です。
○苦労の甲斐あって、めでたく学位を得られたとしても、学位によっては、活躍の場が限られることがあります。例えば人文科学、社会科学、教育学の博士号取得者は、現在のところ、教員以外の職にはほとんど進出していません。
(「俺の職場は大学キャンパス:博士号取得を目指すことには、どういうメリットがある?」より)
で、冒頭のAsahi.comの記事です。
こちらは、文科省がこのために行った調査の結果ですから、マイスターの記事よりもより現実を反映させた数値が出ているはずです。
調査は国公私立すべての大学院576校で、博士課程に在籍する学生を対象にした。05年度時点で、分野ごとに3〜5年となっている修業年限内に博士号を取った学生の数を調べた。とありますね。(在学生に対する調査ということですが、これはつまり05年に修業年限を終える&既に超えている学生さんを対象にしたということなのかな…?)
(「文系の博士号、難しすぎ? 理系の3分の1以下」(Asahi.com)より)
この調査によると博士号の取得率は、人文科学が7.1%、社会科学は15.2%。
1/3どころの騒ぎじゃありませんでしたね……。
ちなみに文科省の調査は、「修業年限内に博士号を取った学生の数」となっています。しかし大学によっては「正式な修業年は3年だけど、単位取得退学後○年以内なら課程博士として扱う」みたいな学内規定を設けているところもあるようです。マイスターが以前調べたデータは「課程博士の人数」ですので、そういった人数も含まれておりまして、その辺りの差も多少あるかも知れません。
いずれにしても人文科学、社会科学系において「博士課程で3年過ごしたとしても、博士号をもらえるとは限らない。というより、もらえる確率の方が圧倒的に小さい」という事実があることには変わりません。
Asahi.comの記事では、
大学が学生に博士号を与える条件は、「自立した研究ができる能力」があること。理系の各分野ではこうした考えが浸透しているが、文系の分野では約120年前の制度発足以来、「功成り名を遂げた人」に与える意識が根強く、理高文低の一因となっている。と指摘しています。
(「文系の博士号、難しすぎ? 理系の3分の1以下」(Asahi.com)より)
大学院卒業後、研究者として過ごしながらライフワークとして何百ページにもわたる大論文を書き上げ、ようやく「認められて」もらえるというのが実態なのかもしれません。
でもそうなると、「じゃあ、博士課程の意味って何?」という疑問もわきますよね。
博士課程では、授業などのコースワークをほとんどやらないところも多いです。教員による研究指導が基本とされているのですね。それはいいのですが、そうやって指導を受けて博士論文を提出しても博士号をもらえないことがほとんどだとなると、博士課程3年間の学習成果を証明するものがなにもないということにならないでしょうか。
このあたりは、大学院修了後の進路選択とも密接に関わっている問題だと思います。
・「2002年度 博士課程修了者の就職先」(「文部科学統計要覧」を元に作成)
http://livedoor.blogimg.jp/shiki01/imgs/6/d/6d2e2ad1.gif
↑人文、社会科学系では、博士号取得者のほとんどが、教員になっています。
一方、博士号取得率が高いとされた保健、農学、工学、理学などでは、修了後の進路がもう少し多様です。
一般によく言われる、<文系で博士に行く=大学に残って研究者を目指すことを意味する>という図式が見て取れます。
マイスターが思うに、卒業生は全員、大学の研究者になるという前提だからこそ、「博士課程を出ても博士号はすぐにはもらえない」なんていうやり方が通用している、のではないでしょうか。
例えば「経営学博士を取ったら、国際事業コンサルタントとして個人事務所を立ち上げて、ばりばり稼ぐぞ!」みたいな人がいるとしましょう。「大学院で十分学んで博士論文を提出したとしても、博士号はあげないよ。じっくり学会活動を積み重ね、十年くらいかけて私たち教員を唸らせるような大論文を書いたら持ってきなさい。そしたら学位のことを考えてあげよう」なんて言われたらこの人、博士課程に入学しませんよね。
つまり、「文系の博士号が難しすぎる」と言われる背景には、文系の博士号が想定する進路ビジョンが大学の研究者に限定されすぎているという事業もあるんじゃないか……とマイスターには思えるのです。
文系の博士課程を改革するなら、ただ学位の取得率を上げるだけではなく、大学院修了後の進路の多様化も含め、根本的な教育コンセプトから設計し直すことが必要なのではないかな、と個人的には思うのですが、いかがでしょうか。
以上、マイスターでした。
【2/14追記】
※いくつかご指摘、情報が寄せられています。よろしければぜひコメント欄もお読みください。
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人文系の博士を欲しがる企業は皆無ですし、その点は公務員系も代わり有りません。ですから、人文系で博士課程まで来る若い人は、基本的に研究者志望です。
それから、この調査の「修業年限」もくせ者です。通常の博士後期課程は3年が修業年限です。留年してD4まで行って学位を取った人はここから除かれている可能性があります。場合によっては、休学して留学した人も弾かれているかも知れない。