ソフトバンクグループはサウジアラビアなどと共同で、10兆円規模の投資ファンド「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」を発足させる。投資先は大企業ではなくIT(情報技術)関連のベンチャー。世界のベンチャーキャピタルの総額を上回る巨大ファンドの出現は、米西海岸シリコンバレーが主導してきたハイテク産業の世界地図を塗り替える可能性を秘める。
ファンドはトランプ米大統領がサウジを訪問する20日に合わせて発足する見通しで孫正義社長が現地入りしている。運営するゼネラル・パートナーはソフトバンクが務める。
運営トップには同社財務担当のラジーブ・ミスラ氏が就く。ドイツ銀行で債券部門の責任者を長く務め孫氏がソフトバンクに引き抜いた人物だ。孫氏も「私もすべての投資案件に関わる」と意欲を見せる。ソフトバンクの投融資委員会が担っていた投資判断はロンドンに拠点を置くミスラ氏のチームに移す。
「真のゴールドラッシュがこれから始まる」。孫氏はIT産業に押し寄せるイノベーション(技術革新)の波をこう表現する。変革を促すのはあらゆるモノがネットにつながるIoT時代の到来、さらにそれを可能にする人工知能(AI)の進化だ。AIによって「あらゆる産業が再定義される」と言う。
さらに投資先は「今後は医療や農業にまで広がる」とも指摘、ロボット産業も有力候補と示唆する。現時点で投資先は30社近くあるという。
巨大ファンドの出現は、米主導だったハイテク産業に新たな基軸が生まれることを意味する。
孫氏は少額出資ではなく投資先の株式の20~40%程度を握る筆頭株主となる戦略を貫く。投資先企業との連携を深めて起業家たちを結ぶネットワークを築く。そこから新たなビジネスチャンスを探るのが「孫流投資」の特徴だ。
孫氏が「同志的結合」と呼ぶこのような起業家連合は、米シリコンバレーの真骨頂だった。起業家たちが新たなアイデアと技術を競い合う中でイノベーションの波が生まれてきた。孫氏は巨大ファンドに、それをソフトバンク主導で起こそうという野心も込める。
新ファンドはベンチャーを巡るカネの流れを一変させる可能性もある。世界のベンチャーファンドの組成額は米中が突出しているが、いずれも4兆円に満たない。新ファンドも最大の投資先は米国になる見通しだが、孫氏はアジアでの有力企業発掘で実績を残している。今後もアジア向け投資を加速させるもようだ。
課題も残る。孫流投資は目先のリターンが目的ではないため、これまでの平均回収期間は13年半。契約にもよるがある程度、短期の運用実績が求められるファンドでは超長期の投資スタイルを貫けるかは不透明だ。
新ファンドの運営の透明性の確保も課題だ。中東の政府が資金の過半を出資しており、現地の政治動向が投資に影響を及ぼす事態も考えられる。また投資先を巡り、孫氏と中東の政府の意向が対立した場合の解決策も明確ではない。ソフトバンクの競合相手などに新ファンドが投資した場合のソフトバンク株主への説明責任も問われそうだ。
ソフトバンクで投資を主導した外国人幹部を巡って利益相反などの疑いを指摘する関係者も存在する。同社は疑惑を一蹴しているが、10兆円ファンドの衝撃は大きく、既存の投資家から思わぬ反発を招くリスクもある。