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「自分ファースト」の風潮にぶつけたイタリアンヒーロー~『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』

インタビューに答えるガブリエーレ・マイネッティ監督=仙波理撮影



シネマニア・リポート Cinemania Report [#46] 藤えりか



「自国第一主義」「自分ファースト」の風潮がはびこる今、世のために力を発揮しようと変わるヒーローを生み出したい――。イタリア初のヒーロー映画と言われる20日公開の『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』(原題: Lo chiamavano Jeeg Robot/英題: They Call Me Jeeg Robot)(2015年)はそんな思いから作られた。モチーフは、日本の往年のロボットアニメ『鋼鉄ジーグ』。製作・音楽も担ったガブリエーレ・マイネッティ監督(40)に、東京でインタビューした。


舞台はテロや犯罪が頻発、政府への抗議デモも盛んなローマ一帯。すさんだ郊外トル・ベッラ・モナカに住むエンツォ(クラウディオ・サンタマリア、42)は、盗品を売りさばいてその日暮らしの生活を孤独に送っているが、ある夜、当局に追われるうち、ローマ市内を流れるテヴェレ川に飛び込み、放射性物質が入ったドラム缶にはまり込む。以来、弾丸を受けてもびくともしない超人的な肉体を手にする。当初はその力を、街角の現金自動出入機(ATM)を素手で叩き壊して金を手に入れるぐらいにしか使わなかったエンツォ。だが盗っ人仲間のセルジョ(ステファノ・アンブロジ、56)の娘アレッシア(イレニア・パストレッリ、31)に『鋼鉄ジーグ』の主人公・司馬宙(ひろし)と同一視され、「その力でみんなを救わなきゃ」と発破をかけられる。そんな彼女をうっとうしく思いつつも、次第にめざめていく。

© 2015 GOON FILMS S.R.L. Licensed by RAI Com S.p.A. – Rome, Italy. All rights Reserved.

監督長編デビュー作ながら、公開されるやイタリアで大ヒット。イタリア版アカデミー賞と言われるダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞で最多16部門でノミネート、新人監督賞や主演男優賞など最多7冠に輝いた。ヴェネチア国際映画祭ではスターライト賞新人監督賞などを受賞している。


マイネッティ監督はある日、イタリアの上映館の前で70代の女性グループに呼び止められ、「こういう映画は普段は見ないし好きじゃないけれど、あなたのこの映画はよかった!」と言われたそうだ。「僕と同じ年代の人たちが『父に勧められて見た』とも言っていた。つまり観客層は幅広かった。とてもうれしかったよ」とマイネッティ監督。「ハリウッド映画のコピーではないオリジナルだったのも、よかったのではないか」

インタビューに答えるガブリエーレ・マイネッティ監督=仙波理撮影

今作には貧困や格差、犯罪やテロの増加が物語の背景として強調されている。主人公エンツォが暮らす郊外トル・ベッラ・モナカについて、マイネッティ監督は「ローマ一帯で最も危ない地区のひとつ」と説明した。「20年ほど前はこんな地区ではなかったが、今は人生で拒絶され、お金がなく家を買えない人たちが多く住んでいる。働く意欲をなくした人たち、移民、売春婦、そして犯罪者集団がいる。いわば非常に拒絶されたコミュニティーを形づくってきた。薬物の売買が盛んな場所でもある。人身売買も多い」


マイネッティ監督は続けた。「僕自身はローマ中心部の比較的豊かな家庭で生まれ育ったが、同じ学校に通っていた友人が犯罪に巻き込まれて殺されたことがある。ローマはとても多様だ。郊外は非常にすさんでいて、人々は絶望しながら暮らしている。それらはすべてつながっている。自分の周りの地区や犯罪に僕は関心を持ち、ずっと考え、足も運んできた」。マイネッティ監督は舞台や映画、テレビドラマの俳優としてのキャリアが長いが、「犯罪の多い地区の人たちを演じてみたいと思っている」そうだ。

© 2015 GOON FILMS S.R.L. Licensed by RAI Com S.p.A. – Rome, Italy. All rights Reserved.

エンツォが超人的な力を得る場所をテヴェレ川としたのも、現状への警鐘だ。「テヴェレ川は以前は泳ぐこともできたのに、今は汚染されてとても入れない。テヴェレ川では何でも見つけられる、車だってあるよと言うローマ人がいるが、それももっともらしく思えるほどだ。残念ながらイタリアでは違法な形で毒性物質が投棄されている。市民の健康被害のもとだ」とマイネッティ監督は言う。



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