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2017年4月25日

山本病院の男性医師は暴行死だったのか

7年前、奈良県大和郡山市の山本病院の元理事長が手術ミスで患者を死亡させた業務上過失致死の疑いで逮捕されました。
この病院は、生活保護を受けている人に不必要な治療を繰り返して診療報酬をだまし取っていました。

 

執刀医の元理事長とともに逮捕されたのが、助手をつとめた塚本医師でした。
山本病院で働いたのはおよそ4ヶ月で、手術で患者を死なせたことに落ち込み、その後外科医を辞めていたといいます。

 

【記者】

「逮捕された塚本医師は桜井警察署の留置場で勾留され、逮捕から19日後に亡くなりました。
遺体の右足にあった大きなアザがなぜできたのか、いまだ明らかになっていません」

 

塚本医師の遺体には右足だけでなく、全身に皮下出血の痕が残っていました。

 

しかし、直後に発表された死因は「急性心筋梗塞」。
心臓を流れる細い動脈が詰まり筋肉が壊死する突然死の代表的な病気です。

 

【塚本医師の遺族】

「実際どうだったのか。本当に心筋梗塞で亡くなっているのかどうかはっきりさせたかった」

 

遺族は、真相を確かめようと奈良地裁に提訴しました。
裁判が始まると、遺族はあらためて死因を専門の法医学者に調べてもらおうと
岩手医科大学の出羽厚二教授に鑑定を依頼します。
出羽教授が出した見解とは?

 

<警察官による暴行死の疑い>

 

【岩手医科大学 出羽厚二教授】

「あれだけ広範に右足に出血があるわけですから、高い確率で右足が原因と考えるのが普通。
机の下で蹴られたのだろうというのが一番考えやすい。」

 

この見解に遺族の弁護士は…

 

【遺族の代理人 小泉哲二弁護士】

「いまだに(警察の)拷問なんかがあるのかなという印象で、正直びっくりしました」

 

ここから裁判は、塚本医師の死因、そして警察官の暴行があったのかについて争われることになります。

 

<争点(1):塚本医師の死因は?>

 

遺族の主張はこうです。
足に強い打撲を受けたことで筋肉の細胞が壊れ、
細胞に含まれるミオグロビンが腎臓の血管を詰まらせて急性腎不全を発症。
尿が出なくなるなか、警察が治療を依頼した病院で大量に水を点滴投与され、
肺に水がたまって死亡したというものです。

 

これに対し、検察庁の依頼で司法解剖を行った奈良県立医科大学の解剖医は
「死因は急性心筋梗塞と判断できる。急性腎不全が発症していたとしても軽いものだった」と
法廷で証言しました。しかし、遺族は訴訟前に解剖医から説明を受けた内容と違っていると話します。

 

【塚本医師の遺族】

「一つ印象に残ったのは、塚本泰彦は、組織学的に心筋梗塞を起こした、壊死したという所見がないと言った」

 

そのときに録音していた音声が残っています。

 

【解剖医】

「塚本先生の場合は、組織学的に見たら心筋梗塞起こしたという所見がない」

「CPKこれ1万ですか。えらい高いな。尿素窒素もえらい高い。腎臓、確かに悪い」

 

解剖医自身が、心筋梗塞を示す根拠はなく、腎臓も悪かったと説明しているように聞こえます。さらに…

 

【解剖医】

「車が足にボンと衝突したとか、そういうイメージなんです、こういう出血の仕方っていうのは。
なんの話も聞かずにここの写真だけ見せたら、何か転落でどっから落ちたかなとか、
交通事故で足でも打ったのかなって」

 

解剖医は、関西テレビの取材に対し「暴行の事実を鑑定書で伏せるようなことはしていない。
私が警察の味方と決めつけているようで心外だ」と話しました。

 

<争点(2):警察官による暴行はあったのか?>

 

では、逮捕時になかった右足のアザがなぜできたのでしょうか。

 

裁判で警察側は…

「留置場で座るときに右足を折り曲げて、ドーンという音を立てて座りあぐらをかいていた。
塚本医師は右足にまひが残っていて歩行困難だったからそういう座り方だった」と説明しました。

 

【塚本医師の遺族】

「もともと本人があぐらかく習慣がない。普段からあぐらかいているのだったら、留置前からできているはず」

 

逮捕前に関西テレビが塚本医師を取材したときも、歩行困難だった様子はうかがえません。

 

密室でいったい何が起きていたのか?
塚本医師は、逮捕前、任意で取り調べを受けたときの様子を書いたメモを残していました。そこには…

「取り調べ警察官が大声を出して机をたたき上げ私に迫ってきた。
机が私の胸に当たった衝撃で、胸にぶら下げていた眼鏡が床に落ち、レンズが外れ、フレームが曲がってしまった。
暴力行為をともなう取り調べを2か月以上行うなんて日本は法治国家なのか」

 

遺族の弁護士は、留置場で警察が残している記録を取り寄せるよう奈良地裁に求めましたが、裁判所は応じませんでした。

 

【遺族の代理人 小泉哲二弁護士】

「本来は留置管理業務のミスを言っているわけだから、留置管理記録を取り寄せるのは当然ですね。
警察も留置管理記録残っているものを集めてチェックしてると言っていたから、
本来は(裁判所が)取り寄せ求めたら(警察は)出す。
裁判所はとにかく奈良県(警察)側に勝たせたかったということに尽きる」

 

去年12月、奈良地裁の木太伸広裁判長は「急性腎不全によって死亡したとはいえない」と遺族の請求を退けました。
そして、警察官の暴行があったかどうかについては判断しませんでした。

 

【塚本医師の遺族】

「容疑者になったらまともな医療受けさせてもらえない。まともな留置してもらえない。
死んだ後も死因隠される。結局、大きな公権力に対して裁判所も何も言えないのかなって市民感覚で思いますよね」

 

また、遺族の依頼で鑑定した出羽教授は去年11月、奈良県警に刑事告発しましたが、
奈良県警は先月、「暴行はなかった」と発表しました。しかし、具体的な捜査内容については一切説明していません。

 

遺族は控訴していて、4月26日に大阪高裁で控訴審が始まります。

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